最高級素材をチームに組み込む難しさ

 この夏、レアル・マドリードからユベントスに移籍したクリスティアーノ・ロナウドは、徐々にペースをつかみ始めている。

 セリエAを7連覇しているユベントスにとって、ロナウドが戦力として必要だったかは疑問だ。ただ、ロナウドはもはや一人のスタープレーヤーではなく、「ブランド」にほかならない。ユベントスロナウドと組んだ新しいプロジェクトをスタートさせたわけだ。

 ロナウドはスーパースターだけれども、決して器用な選手ではない。どのポジションでもどんな役割でもこなせるわけではなく、左ウイングか2トップとしての起用になる。1トップとして相手を背負ってプレーするのは得意ではないし、右ウイングはできるはずだが、おそらく本人がやりたがっていない。右利きなので、左側にいた方がシュートを打ちやすいからだろう。

 最高級のマグロを仕入れて煮て食う奴はいない。最高の素材は、本来の味を引き出すに限る。ただ、サッカーは11人でやるものだ。全員に最適な役割とポジションを与えるのは難しい。ロナウドという最高級素材を組み込めば、周囲には必ず割を食う人も出てくる。

 まずロナウドのポジションと重なる選手はベンチに座るか、別のどこかに移動することになる。幸いにもマリオ・マンジュキッチは、左サイドからセンターに移ってもなんの問題もないFWだったが、右からのクロスボールをファーサイドで待つ得意な形に持っていくと、いつもロナウドとポジションが重なる。ただ、彼の問題はこれだけだ。

 パウロ・ディバラは居場所が見つかっていない。1トップでも2トップでも、トップ下のポジションは確保されている。しかし、ボックス内はマンジュキッチとロナウドが占拠しているので、入り込むスペースを見出しにくくなっている。ディバラを右サイドで起用して「メッシ」にすると、今度はフアン・クアドラードのポジションがなくなる。クアドラードは右サイドバックとして新境地を開拓中だが、本来は右ウイングの選手だ。現在は出場停止中のドウグラス・コスタもやがて戻ってくる。そして、これらのアタッカーを全員起用するのは不可能だ。

ロナウドを上下動で疲弊させるのはナンセンス

 ロナウドは守備の時には攻め残る。やろうと思えば守備もやれないことはないが、レアルで年間50点も取ったストライカーを、上下動で疲弊させるのはナンセンスだろう。

 1トップではないので、ロナウドともう一人は前残りすることになる。すると残りの8人は、必ず守備ブロック要員になっていないと守備が持たない。セリエAの格下相手なら話は別だが、UEFAチャンピオンズリーグ優勝を狙うなら強固な守備は必要だ。ディバラ、クアドラード、ドウグラス・コスタの全員を守備ブロックに組み込むのは困難だろう。つまりロナウド一人のために、ユベントスはいくつかの変更を余儀なくされる。もちろん、そこまでしてもらうのだからロナウドもそれだけの価値を示さなければならない。

 リオネル・メッシを擁するバルセロナも、ずっと同じ課題を抱えてきた。ただ、何をどうしても最後はメッシ頼みに帰結し、巨大な才能の周囲は枯れていく。だから無駄だと分かっていても、時々組み替えてリフレッシュしなければならない。今季は戦術的に3トップの一人としてスタートしているが、それもどこまで続くかは分からない。おしながきには「トロ」と書いてあるが、一人だけ「大トロ」なのは間違いないからだ。

 ロナウドメッシも、いつまでも25歳ではない。徐々に老いていくスーパースターとクラブは、どう向き合っていくのだろうか。(西部謙司 / Kenji Nishibe)

ユベントスFWクリスティアーノ・ロナウド【写真:Getty Images】