日本で初めて公共ホールの指定管理事業をプロのオーケストラとして請け負った事で話題となった日本センチュリー交響楽団。あれから2年半が経過。2016年オープンした豊中市立文化芸術センター大阪府)は、順調に稼働率を上げ、豊中市民に愛され、地域に密着したホールとなった。それと並行するように、オープン当初は若干の物足りなさを感じていたホールの響きが、今年訪れてみて、随分良くなっていることにびっくり! ホールは進化するのだと認識を新たにした。 

もちろん、市民の為の公共ホールなので、主催イベントなどはオーケストラコンサートばかりやれるはずも無く、ポップスや演劇、落語、映画などがバランスよく配置。レンタルでは、地元のバレエスクールや合唱団やピアノの発表会などもまんべんなく並ぶ。公共ホールの指定管理というのはオーケストラにとってうま味はあるのか? 日本センチュリー交響楽団の演奏事業部長 山口明洋氏と、豊中市立文化芸術センターの企画担当 柿塚拓真氏に、あんな事やこんな事を聞いてみた。

豊中市立文化芸術センターの外観

豊中市立文化芸術センターの外観

―― 指定管理事業を行う上で、日本センチュリー交響楽団の事務局から豊中市立文化芸術センタースタッフが出向されているのですね。

山口明洋 はい、同席している柿塚ともう一人がこちらのホールに出向しています。具体的な話はホールコンサートの企画を担当している柿塚が説明します。

柿塚拓真 オーケストラの演奏会としては、年に4回の豊中名曲シリーズがあります。これはこのホールが出来るまでは無かったシリーズです。これ以外に、ポップスの歌手と一緒に演奏するシリーズも年に1、2回あります。そして、リサイタルシリーズや室内楽シリーズは楽員の演奏力を磨き、オーケストラファンを拡大する上でも大切なステージです。他にもファミリーコンサートや親子向けのワークショップもやっておりますし、コミュニティプログラム「The Work」で誕生した曲の発表の場となっています。

大人気! センチュリー室内楽シリーズ「センチュリー・ジャズ・ナイト」 

大人気! センチュリー室内楽シリーズセンチュリージャズ・ナイト」 

―― 豊中市立文化芸術センターは、ザ・シンフォニーホールいずみホールといった演奏会場以上の、戦略的な事を形作る上での大切な本拠地だということですね。

山口 ザ・シンフォニーホールは定期演奏会の会場。今年から1回公演になり、他楽団とのバッティングを避けて各回、木曜日の実施となりました。年間通したテーマの下、実験的な曲も含め、今いちばん聴いて頂きたい曲をお届けしています。いずみホールは好評を頂いているハイドンマラソンの会場。予想を裏切る刺激的なハイドンをお聴きいただきます。こちらは金曜日の実施。ここでの演奏が順次CDになっています。そして豊中市立文化芸術センターは土曜マチネの開催という事もあり、昼間しか外出できないという高齢者の方や、一般のクラシックファンの皆さまにお聴き頂きやすいプログラムをご用意いたしました。

―― そんな豊中名曲シリーズで、開演前に密かにシークレットライブのようなものをやっているとの噂があるのですが、それは本当でしょうか?

柿塚 いやいや、秘密にしているわけではなく、チラシも作ってHPで宣伝もしていますよ(笑)。開演前にロビーコンサートをやるところもあるようですが、開演前は静かに過ごしたい方もいらっしゃると思うので、ホール内の別会場で「プレパフォーマンストーク」というイベントを開催しています。

「プレパフォーマンス&トーク」には毎回多くのファンが集まる

「プレパフォーマンストーク」には毎回多くのファンが集まる

―― 「プレパフォーマンストーク」がイベントタイトルですか?

柿塚 はい。そのものズバリですね(笑)。その日、本編のコンサートで演奏する曲を、懇意にしている現代作曲家にお題として投げて、出来た曲をプレコンサートの場で演奏しています。

例えば、5月の名曲コンサートでは、ボッケリーニ、モーツァルトベートーヴェンという古典派の作曲家の曲が演奏されたのですが、この時代の特徴である作曲家が演奏家を兼任する。そして、クラリネット管弦楽を構成する上でまだ欠かせない楽器では無かったことを念頭に、作曲家がクラリネットの曲を演奏するミニコンサートを開催しました。

そのうち1曲は、その日のメインの曲、ベートーヴェン交響曲第8番の第4楽章からのパッセージを引用して作った新作です。また7月の名曲コンサートでは、スメタナモルダウ、ネルーダのトランペット協奏曲、ドヴォルザーク交響曲第8番を取り上げるという事で、近藤浩平さんという現代作曲家が作ったトランペットピアノの曲と、モルダウならぬ‘鴨川源流への旅’というチェロ打楽器の曲を、首席トランペット奏者 小曲俊之と首席チェロ奏者 北口大輔が演奏しました。

本番前にも関わらず、楽しそうにチェロの独奏をする首席奏者 北口大輔氏

本番前にも関わらず、楽しそうにチェロの独奏をする首席奏者 北口大輔氏

このイベントは、お客さまにも喜んでいただくことができ、楽団員からも好評。企画している私もワクワクするような楽しいコンサートです。

―― その「プレパフォーマンストーク」は本番前のプレコンサートと云う位置付けなのですね。何分くらいの内容で、入場料はどうなっていますか?

柿塚 初回30分くらいの内容から始まり、2回目は45分に拡大、今週土曜日に開催する3回目は75分を予定しています。入場は無料です!当日先着100名様がご入場頂けます。

―― これだけしっかりとしたコンセプトの上にたったものなら、立派な演奏会だと思うのですが、お客さまは本編の前に疲れてしまわないものでしょうか。演奏されるのは新作の現代音楽が多いのですね。ここまでの事をやっているホールは流石に無いでしょうね。ホールとしてのこの企画に対して、楽団サイドとして山口さんはどう見られているのでしょうか。

山口 メインベートーヴェンシンフォニーの時に、ベートーヴェン室内楽をやるといった企画はNGだと思うのです。古典派の曲にコンテンポラリーの曲を当てるのは、問題ないかなと。音が違うので逆に効果的に働き、本編での集中力が増すのではと思っています。私が作る名曲シリーズプログラムから、柿塚がどんなアイデアを思いつくのか、その点はとても興味がありますね。

―― なるほど、そういう考え方ですね。確かに聴きたくない人はその場所に行かなければいい訳ですからね。これを企画された柿塚さんの狙いはどこにあるのでしょうか。

柿塚 コンサートはどんな指揮者でどんなプログラムを作ってお客さまにお届けするかがテーマです。これには選曲した山口以外の人間は一切触れるべきではありません。私がやっているのは、コンサートの中身に触れず、コンサートの周辺をデザインする事。お客さまには、このホールにお越しになられたことで色々な出会いを経験して頂きたいと思っています。

センチュリーメンバー好奇心が有って、この企画に協力的なのが嬉しいですね。それと、現代作曲家を支援したいとの意図もあります。難しいと思われがちな現代音楽ですが、音楽ばかりは聴かないと始まらない。聴いてみると意外とイイネと思うかもしれない訳で…。そんな音楽との出会いもコンサートデザインする事だと思うのです。

「プレパフォーマンス&トーク」を企画する柿塚氏が首席チェロ奏者 北口大輔氏に質問中

「プレパフォーマンストーク」を企画する柿塚氏が首席チェロ奏者 北口大輔氏に質問中

―― センチュリーにとって大切な前音楽監督 小泉和裕の指揮する名曲シリーズが今週末に迫っていますね。ベートーヴェン交響曲第2番とブラームス交響曲第4番ですか。メンバーの反応はどんな感じですか?

山口 小泉さんには創立以来140回くらい振ってもらっていて、センチュリーの長所も短所も全てご存知です。この豊中名曲シリーズの1回目も小泉さんからスタートしています。新しいホールの音響の変化や、オーケストラとの響かせ方など沢山のことをマエストロから教わっています。オープンから2年経って、オーケストラの現在の技術力を測ると同時に、ホールの響きもぜひ聴いて頂きたいですね。メンバーの士気はとても高く、皆今回の直球勝負のプログラムは本当に楽しみにしています。

センチュリーの事を知り尽くしている前音楽監督 小泉和裕氏 (c)Ivan Maly

センチュリーの事を知り尽くしている前音楽監督 小泉和裕氏 (c)Ivan Maly

―― そして、このプログラムにも柿塚さんは面白い企画をぶつけて来られるのですね。しかも今回は13時半開演で、終演予定が14時45分。なんと75分の予定ですか。

柿塚 今回は、東京大学東洋文化研究所教授・安冨歩さんと音楽家の片岡祐介さんにご登場いただき、お二方がライフワークとしてやられている「近現代社会システムクラシック音楽にどんな影響を与えたか」を、メインプログラムブラームス交響曲第4番で検証して頂こうと思っています。第4楽章パッサカリアの8小節のメロディをもとに作り上げた新曲「ブラームス成仏-バッハの主題による14段のシャコンヌ-」を世界初演致します。片岡さんのピアノと楽団員の小川和代のヴァイオリン、渡邉弾楽のチェロによる三重奏でお届けします。これは聴き逃せないですよ!

―― さて、最後になりましたが、以前山口さんは日本センチュリー交響楽団にとって今シーズンは勝負のかかったシーズンだと仰いました(前回のインタビュー記事はコチラを参照)。シーズンも半分が過ぎようとしていますが、ここまでいかがでしょうか。ファンの皆様にメッセージをお願いします。

山口 2回公演だった定期演奏会を1回公演にしたことは間違いではなかったと思っています。ならばもっと動員を増やさないといけません。木曜日開催にした事の影響もあると思いますが、難しいですね。ただ週末の金曜、土曜なら他団体とのバッティングは避けられなかったと思います。

豊中名曲シリーズは柿塚の創意工夫などもあり、随分定着して来ています。4月からお休みだったハイドンマラソンは、いずみホールの改修も終わりいよいよ10月より動き出します。豊中市との友好関係が、中学生に向けた鑑賞会の実現へと実を結び始めています。

そんな今こそ、「大阪には日本センチュリー交響楽団以外に3つのオーケストラがあり、我々のオーケストラがどういう形で存在する事が理想なのか」を、タブーを排除して楽団員やスタッフ、理事会などで真剣に話し合っていく必要があると思いますし、ファンの皆さまにもその思いを波及させていく必要があると思います。

来年は楽団創立30周年を迎えます。栄えある30周年をファンの皆さまと一緒にお祝いするためにも、シーズンの残り半分、日本センチュリー交響楽団の魅力を全力で語っていきたいと思います。どうか我々にご声援をよろしくお願い申し上げます。

日本センチュリー交響楽団をよろしくお願いします! (C)s.yamamoto

日本センチュリー交響楽団をよろしくお願いします! (C)s.yamamoto

取材・文=磯島浩彰

本拠地 豊中市立文化芸術センターで演奏する日本センチュリー交響楽団