女上司

(itakayuki/iStock/Getty Images Plus/写真はイメージです)

「自分の会社はブラック企業なのではないか?」「この働き方はさすがに限界だ」…そんなことを感じたとき、相談する窓口は、労働基準監督署か社会保険労務士の事務所だろう。

そんな、労働者を守るための社労士事務所がブラック労働の温床だった…というブラックジョークのような体験談が届いた。

GPSを使って残業時間の証拠を自動で記録できるスマホアプリ『残業証拠レコーダー』を開発した日本リーガルネットワーク社に寄せられたのは、こんなエピソードだ。

■内勤のはずが営業に駆り出され

あーさんは、社労士事務所に「一般事務」として入社した。ところが、実際に担当させられた業務は、入社時の条件とはまったく異なるものだったという。

「内勤と聞いていたのに、営業に駆り出される日々。1人が抱えるべき仕事量は超えており、締め切りに追われ、『なぜそんなこともできないのか!』と公衆の面前で怒鳴り散らす女性上司。

平日は日付が変わるギリギリまで仕事をし、土日出勤は絶対。休日手当や時間外労働があろうが、手当なんて一切なし。『みなし残業時間内だから出さない』と言われるが、社内の人間がみな『出せるはずがない』といい、社畜となってゆく」

■「いつか死ぬんじゃないか」と悩み

そんな労働環境は、あーさんを鬱に近いような状態に追い込むことになる。

「こんな毎日を過ごしていると、自分の意思もなくなり、感情がなくなっていき、いつか死ぬんじゃないかと思っていた。周りのおかげで仕事を辞めることができたが、一人暮らしをしていたので、周りが助けてくれなかったらどうなっていたか…。思い返すだけで、ぞっとする職場」

■弁護士の見解は…

早野述久弁護士(©ニュースサイトしらべぇ

こうした強制に法的な問題はあるのだろうか。鎧橋総合法律事務所の早野述久弁護士に聞いたところ…

早野弁護士:とても社労士事務所とは思えないブラックな労働環境に驚きです。あーさんが働いていた社労士事務所は、(1)明示された労働条件以外の労働の強要、(2)時間外労働および休日出勤の横行、(3)上司のパワハラ的な言動の3点において問題があったといえるでしょう。

と、怒りを顕にする。まず、ひとつめの「仕事内容が違う」ということについては…

早野弁護士:明示された労働条件と事実に相違がある場合、従業員は、労基法15条2項に基づき即時に雇用契約を解除することができます。

あーさんは、「一般事務」として入社し、内勤として勤務する旨の労働条件の明示があった(あるいは雇用契約上の合意があった)にもかかわらず、実際には営業業務に従事させられたということですから、労基法15条2項に基づいて雇用契約を解除することができたでしょう。

■「みなし残業代」には厳格な要件

また「みなし残業だから」と言われていた時間外労働や休日出勤にも、早野弁護士は問題を指摘した。

早野弁護士:また、時間外労働および休日出勤の横行も問題です。

本件では「みなし残業時間内だから出さない」と雇用主は主張していたようですが、一般的にみなし残業代と呼ばれる「固定残業代」に関する合意が有効となるためには、判例の求める厳格な要件を満たしていなければならず、この要件を満たしていないという理由で無効となるケースが多いのが現状です。

仮に「固定残業代」に関する合意が無効である場合、残業代の未払い(労基法37条違反)が生じている可能性があります。

雇用主が労基法37条に違反した場合には、6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金が科せられることになります(労基法119条1号)。社労士事務所であればこれくらいのことは知っていて当然だと思いますが…。

■パワハラ認定の可能性は高い

さらに、今回の状況ではパワハラが認定される可能性も高いという。

早野弁護士:長時間労働や休日出勤に加えて、あーさんの職場では日常的に上司によるパワハラ的な言動があったものと見受けられます。

部下に対する指導であったとしても、社会通念上許容される業務上の指導の範囲を超え、相手の人格を否定・非難するような指導は違法なパワーハラスメントとなります。

例えば、具体的な改善方法を提案せずに、単に他の社員の前で怒鳴りつけるという行為を繰り返していたのであれば違法なパワーハラスメントと認定される可能性が高いでしょう。

さらに、その結果として、部下が鬱症状などの精神状態に追い込まれたなどという事実があれば、違法と認定される可能性がより高まります。

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(取材・文/しらべぇ編集部・タカハシマコト 取材協力/日本リーガルネットワーク

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