デロイト社が17年版「Jクラブビジネスランキング」を発表、興味深いスタジアム集客率

 突然だが、「デロイトトーマツ」という会社の名前を聞いたことはあるだろうか。一般的には、世界四大会計事務所として知られ、アメリカの会計事務所デロイト&トウシュや日本の有限責任監査法人トーマツが中心となって運営されている。

 そんなデロイト社がJリーグと契約したのは、2017年のことだった。「Jリーグから公表された53クラブの2016年の財務情報を中心に、ビジネスマネジメント(以下、BM)における重要なテーマであるマーケティング、経営効率、経営戦略、財務状況の4つをそれぞれのステージに分けて数値化し、J1、J2、J3全クラブのビジネスランキング」を発表した。

 その2017年版の記者会見が9月28日に行われたが、興味深いデータがあったので紹介しよう。彼らはスポーツ興行において「満員のスタジアム」を創り出すことは、全ての価値の源泉につながる重要な目標と位置づけ、スタジアム集客率に注目した。

 これはリーグ戦ホームゲームにおける入場者数を、スタジアムの最大収容人数で割った比率(節ごとの値の平均)のことだが、J1リーグの18クラブ中、1位は84.7%の集客率を達成したジュビロ磐田だった。J1の平均が61.6%だから、磐田の集客率がいかに高いか分かるだろう。


磐田の集客率に結びついた元日本代表MF獲得とダービー復活、効果的なスタジアム活用法

 その要因として元日本代表MF中村俊輔の獲得と、清水エスパルスのJ1昇格に伴う静岡ダービーの復活を指摘しているが、もともと本拠地ヤマハスタジアムは収容人数1万5165人と決して大きなサイズではなく、それが高い集客率に結びついたと言える。そしてダービーなどの好カードでは、エコパスタジアム(収容人数5万889人)を3回使用するなど効果的に動員数を増やした。

 2位は、昨季J1王者・川崎フロンターレの80.4%で、改修した等々力陸上競技場(収容人数2万6827人)には平均して2万2000人以上が観戦に訪れた計算になる。一番の理由は優勝争いに他ならないが、それ以外にも川崎はファンを楽しませる数々のイベントを企画。スタジアムのフードコートも充実しているため、“お祭り”的な感覚で週末のサッカーライフを堪能できる環境が高い集客率に結びついたと推測できる。

 以下、3位は柏レイソル(78.2%/収容人数1万5109人)、4位ベガルタ仙台(74.9%/収容人数1万9694人)、5位清水エスパルス(74.5%/収容人数2万248人)と続いている。

 一方、下位に目を向けると最下位がサンフレッチェ広島の28.1%だ。昨シーズンは残留争いに巻き込まれたことも観客減の一因だろうが、スタジアムへのアクセスが決して良いとは言えない。スタジアム自体は収容人数3万6894人とそれほど大きくないものの、陸上トラックがありスタンドとピッチの距離も遠いため、広島の現在の動員力から見ると「器が大きすぎる」印象は否めない。


「スポンサー受けが悪い」という空席、満員のスタジアムが生み出す相乗効果

 その他の下位クラブは横浜F・マリノス北海道コンサドーレ札幌鹿島アントラーズアルビレックス新潟浦和レッズといずれも2002年日韓ワールドカップ(W杯)で会場となった巨大スタジアムばかりだ。こうした現状を踏まえ、九州産業大学の准教授である福田拓哉氏は次のように指摘した。

「米国のMLSメジャーリーグサッカー)はかつてNFLアメリカンフットボール)のスタジアム(6~7万人収容)を使用していた時はガラガラだった。そこで再スタート(1993年)にあたり、2~3万人規模のスタジアムを新設した」ことで活気を取り戻したと説明。同じようにユベントスは、90年イタリアW杯で使用した6万人収容のトリノのスタジアムを4万人規模に改修して再スタートを切り、アクセスは決して良くないものの動員数を伸ばしてタイトルを獲得した。

 同じことはイングランドプレミアリーグにも当てはまる。満員のファン・サポーターが醸し出す臨場感が独特の雰囲気を生み出している。しかし大箱のスタジアムは空席が目立つと「スポンサー受けが悪い」ため広告収入が減少。「サポーターも臨場感を感じない」ため観客動員が伸びない。これなどは広島が典型的な例ではないだろうか。そして「選手のやる気も違う」と新潟の選手のコメントを紹介しつつ、スタジアムの適正収容人数の重要性を指摘した。


J1リーグで基準になるスタジアム収容人数は「3万人」 それ以上の規模は縮小化も一案

 福田氏によると、J1リーグで基準になるスタジアムの収容人数は3万人で、3万人以上の集客力のあるスタジアムをホームにするクラブは、営業的に「埋める努力をするか、スタジアムの縮小しかない」と断言した。

 日本代表戦なら満杯になるビッグスタジアムも、Jリーグでは集客に苦労しているのが現状だ。今回のレポートは災害時にライフラインにもなるスタジアムのあり方を考える一助になったことを報告したい。


【一覧リスト】2017年J1リーグ「スタジアム集客率ランキング」

■2017年J1リーグ「スタジアム集客率(%)」 ※J1平均61.1%

1位 84.7% 磐田
2位 80.4% 川崎
3位 78.2% 柏
4位 74.9% 仙台
5位 74.5% 清水
6位 73.6% 大宮
7位 67.0% C大阪
8位 62.8% 甲府
9位 60.7% G大阪
10位 58.2% 神戸
11位 56.8% 鳥栖
12位 53.0% FC東京
13位 52.7% 浦和
14位 52.1% 新潟
15位 50.1% 鹿島
16位 46.6% 札幌
17位 45.2% 横浜FM
18位 28.1% 広島

[PROFILE]
1957年東京都生まれ。月刊サッカーダイジェストの記者を振り出しに、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長を歴任。01年に退社後はCALCIO2002、プレミアシップマガジンサッカーズ、浦和レッズマガジンなどを創刊して編集長を務めた。その傍らフリーの記者としても活動し、W杯や五輪などを取材しつつ、「サッカー戦術ルネッサンス」(アスペクト社)、「ストライカー特別講座」、「7人の外国人監督と191のメッセージ」(いずれも東邦出版)などを刊行。W杯はロシア大会を含め7回取材。現在は雑誌やウェブなど様々な媒体に寄稿している。


(六川亨 / Toru Rokukawa)

ジュビロ磐田の本拠地・ヤマハスタジアム【写真:Getty Images】