仕事中にネットサーフィンをしていたことを会社に注意され、損害賠償をするよう迫られたが応じるべきかーー。こんな相談が弁護士ドットコムに寄せられた。

相談者は、1年ほど前に転職してその会社に勤めていた。与えられた仕事はきっちりこなした上で、仕事内容が退屈だったため転職サイトや旅行サイトを見ていたという。ところがある日、上司に呼び出されてネットサーフィンの履歴を示され、退職することになった。

業務時間中のネットサーフィンを理由に退職すること自体は、怠慢だったと反省し、受け入れているという。ところが会社がネットサーフィンで業務をサボっていたとして損害賠償請求をするとまで言ってきたため、相談者は戸惑っている。

こうした会社側の請求に応じるべきなのか。労働問題に詳しい好川久治弁護士に聞いた。

直ちに解雇されることは考えにくい

ーー業務時間中のネットサーフィンを理由に退職させられることは、どう評価できますか

「業務時間中に仕事と関係のないサイトを見て時間を浪費していたとすれば労働契約上の職務専念義務に違反します。また、業務のために貸与されたパソコンスマホ等を業務と全く関係のないサイトの閲覧に利用することは、会社が管理ないし所有する設備機器を私的に利用する行為ですので、就業規則等で定める同趣旨の規定に違反することが多いでしょう。

しかし、これらの事由のみによって、いきなり解雇することは一般的にはできません。解雇するには、義務違反の程度が著しく、会社に与えた損害も甚大で、職責上も到底看過できない事情があるとか、あるいは注意処分やけん責、減給などの懲戒処分を経ても改善が見られない事情が必要です。

一方、会社に居づらくなって自ら退職したというならその方の判断です。ただ、会社から長時間にわたって執拗に退職を迫られたとか、退職しなければ解雇する、違約金を請求する、などと強迫や誤解を誘うような言動で退職を余儀なくされた場合には、行為そのものが違法となりますので、損害賠償を請求したり、退職の申入れ自体の効力を争ったりする余地があります」

会社に「損害」を証明する義務がある

ーー会社が、ネットサーフィンをしていた相談者に対して損害賠償請求をすることについては、どう評価できますか

「妥当かどうかの議論はひとまず置くとして、従業員が仕事と関係のないサイトを閲覧していたこと自体は労働契約上の職務専念義務違反になりますので、これによって会社に損害が発生すれば会社が従業員に損害賠償を請求することは可能です。

ただ、損害賠償を請求する会社は、その前提として、サイトを閲覧していたこと自体が本当に義務違反になるのかどうか、義務違反になるとしてこれによって会社にどのような損害が発生したのか、という点を自ら証明していかなければなりません。

転職サイトや旅行サイトを見ることは一見すると業務と関係のないことで職務専念義務に違反するように見えます。ただ、業務との関連性の有無だけでなく、ネットから情報を取得することが当たり前のこの現代社会において、就業時間中に私的なサイトを見ることが一切許されないのか、ということは問題となりえます」

損害の程度などを踏まえ個別に判断

ーー職務専念義務違反が問題となった、似たような判例はありますか

ネット検索の事案ではありませんが、私用メールと職務専念義務違反が問題となった先例のなかには、次のような判断をした裁判例があります。

『労働者といえども個人として社会生活を送っている以上、就業時間中に外部と連絡をとることが一切許されないわけではなく、就業規則等に特段の定めがない限り、職務遂行の支障とならず、使用者に過度の経済的負担をかけないなど社会通念上相当と認められる限度で使用者のパソコン等を利用して私用メールを送受信しても上記職務専念義務に違反するものではない』(東京地裁平成15年9月22日判決)。

とするならば、ネット検索の場合でも、職務専念義務違反にあたるかどうかは、行為の頻度や時間、業務との関連性の程度、会社に生じ得る損害の内容、程度、会社の職場秩序に与える影響の度合い、他の従業員の同種行為との均衡などの諸般の事情を踏まえ、社会通念上相当として許される範囲かどうかを個々に判断していくのが筋かと思います」

会社による損害賠償請求、割に合わないことも

ーー仮にネット検索が違法と判断できても、会社の損害をどう考えるのかも難しい問題になるでしょうか

はい。例えば会社が通信費用を負担している場合でも定額料金のため従業員がネットを検索することで料金が増額にならないこともあるでしょうし、料金と検索時間との関係が曖昧で正確に計算できない、ということもあるでしょう。

いかがわしいサイトアクセスしたため会社にスパムメールが届いて損害を被った、という場合も、従業員のネット検索との因果関係を証明していくのは会社の責任です。仕事をしていない時間分の給与を損害として請求することは考えられますが、時間を特定して損害を計算してみると、数千円にしかならなかった、ということもあるでしょう。

いずれにしても、ネット検索をしていた従業員に対して損害賠償を請求すると言っても労力に見合うだけの賠償を請求できる保証はありません。したがって、現実に会社から損害賠償を求められるケースというのは、職務専念義務違反が明確で、損害額も大きく、立証も容易、という特別な事情のある場合に限られるのではないかと思います」

弁護士ドットコムニュース

【取材協力弁護士
好川 久治(よしかわ・ひさじ)弁護士
1969年奈良県生まれ。2000年弁護士登録(東京弁護士会)。大手保険会社勤務を経て弁護士に。東京を拠点に活動。家事事件から倒産事件、交通事故、労働問題、企業法務まで幅広く業務をこなす。趣味はモータースポーツギター
事務所名:ヒューマンネットワーク中村総合法律事務所
事務所URLhttps://www.yoshikawa-lawyer.jp/

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