日本のプロ野球ファンで、ボリュームゾーンとなる年代はどこだろう。2017年にニールセンスポーツ社が行った調査によると、40歳以上が54%を占めている。なかでも、全体の37%は40~50代の男性。「カープ女子」「オリ姫」などと呼ばれる女性ファンが増えてはいるものの、全体的にみるとやはり、プロ野球は“おじさんに人気のスポーツ”だとデータが示している。

 一方で、韓国のプロ野球はまったく違った結果となっている。球場を訪れる観客の約70%が20~30代の若者で、約40%が女性だという(スポーツマーケティングの専門調査機関・SMS社の調査による)。なぜ若い野球ファンが多いのか、筆者は実際に韓国へ行き、野球観戦をしてきた。現地で観客の生の声を聞いたり、専門家にインタビューしたりすることで答えが見えてきたが、その前に韓国のプロ野球について簡単に紹介したい。

 日本のプロ野球は12球団・2リーグ制。一方の韓国は10球団・1リーグ制だ。年間試合は144試合で、日本(143試合)とほぼ変わらない。日本野球では、リーグの上位3チーム日本シリーズ出場を競うクライマックスシリーズがある。韓国では5位までが、クライマックスシリーズに相当するポストシーズンに出場できる。

 このように運営面での違いはあるが、もちろん野球の基本ルールは変わらない。同じコンテンツを提供しているのに、なぜファン層が大きく異なるのだろう。

 筆者が向かったのは韓国・プサンにあるサジク球場。観戦したのは本拠地のロッテジャイアンツと、ハンファイーグルスのナイターだ。16時になると、会場はかなりの混雑具合。入場口まで長蛇の列ができ、移動もままならないほどだった。

 球場内は確かに若者や女性の姿が目立つ。野球場というより、遊園地や音楽ライブのような客層だと感じた。

 もちろん、会場も超満員である。観客たちの表情やしぐさからは、試合開始を心待ちにしているワクワク感があふれていた。

 そして試合開始。まず感じたのは、観客たちの一体感だ。対戦相手であるイーグルスの投手が牽制球を投げた際は、「マ!」という掛け声が球場中に響き渡る。これは、「(牽制球を)止めろ!」という言葉なのだそう。またジャイアンツの選手が三振やエラーをすると、一斉に「ケンチャナ!(ドンマイ)」とフォローする。

 この一体感の秘訣は応援団にある。日本のプロ野球では、応援団の多くが私設だが、韓国ではイベント会社に所属するプロの応援団たち。観客たちを盛り上げ、一体感を演出するためのノウハウを心得ているのだ。観客席にあるステージで、応援団長やチアリーダーたちが踊り、観客たちが熱狂する様子は、さながら野外フェスのようだった。

 エンタメとしての演出も豊富だった。ビデオ判定の際には『名探偵コナン』のBGMが流れたり、大型ビジョンに映し出されたカップルがキスをしたり。ユニークなのは試合終盤。観客たちは配布された朱色のビニール袋を膨らませ、頭にかぶり始めた。この袋はもともと、ゴミ袋として配られていたのだが、観客が頭にかぶったことから普及。今では試合終盤の定番となっているのだそう。ちなみに、頭にかぶる前提で、今ではビニール袋へのデザインも上下逆さにプリントされているという。

 印象的だったのは、飲食物の持ち込みが目立ったこと。ピザやチキンなどのつまみやビールを広げ、球場のあちこちで宴会が開かれていた。

 なかには試合そっちのけで、宴会に夢中になっているグループもいた。「試合を観なくていいんですか?」と聞くと、「(ひいきのチームが)攻めているときだけ応援するんだ。守りのときは、点を取られないって信じてるから、いいのさ」とのことだった。そして、料理やお酒を「食べろ!」「飲め!」とわけてくれた。日本でも、屋台やお花見などの席で、隣り合った人たちと仲良くなることがある。韓国では、それが野球場でも実現されていた。

 韓国のプロ野球は、なぜこのような楽しみ方が定着しているのか。そして、若者たちに支持されている理由はなんなのか。韓国プロ野球グッズの販売などを手がけるストライクゾーン社代表の室井昌也氏に聞いた。

●野球の歴史自体が浅いことも奏功

――韓国のプロ野球は、観客の約40%が女性で、世代別では20代が42%、30代が26.8%だそうです。実際に球場でも若者・女性の姿が目立ちました。なぜ、その層の取り込みが実現できているのでしょう。

室井氏 韓国のプロ野球では、「野球はこう見るべき」というコア層の固定観念が、日本に比べて薄いのです。それによって、新規ファンが球場に足を運ぶハードルを下げているのではないでしょうか。また中継映像では、若者たちが球場で楽しんでいる姿が数多く映し出され、「野球はおじさんのもの」「ダサい」という印象がないことが影響していると思われます。

――野球にあまり興味がなくても、球場へ“飲み”や“デート”の感覚で来ている方が多い印象でした。そういった風土はなぜ根付いたのでしょう。球団・プロ野球関係者の働きかけや工夫か、もしくは別の要因なのでしょうか。

室井氏 韓国のプロ野球界では、以前からファンに対して、「野球場ストレス解消の場」という認識があり、日本のような堅苦しさはありませんでした。日本と比較すると、野球の歴史自体が浅いことが、そうさせているのではないでしょうか。

――エンタメ演出が盛りだくさんでしたが、「これぞ韓国野球!」という、観客を喜ばせるための演出はなんでしょう。

室井氏 イニング間に大型ビジョンに映し出されるイベントのひとつで、「ビール早飲み対決」があります。勝者には、スポンサービールメーカーからビールが大量にプレゼントされ、球場が沸きます。日本ではコンプライアンス的に絶対無理ですよね。

――韓国のプロ野球の観客動員数は、00年代前半は年間200~300万人だったそうです。しかし、17年に過去最多の年間840万人を超えました。十数年でなぜここまで増えたのですか。

室井氏 00年代前半は、人気球団のロッテジャイアンツが4年連続最下位と低迷し、ファンの球場離れが顕著でした。けれど07年に復活の兆しを見せ、08年~12年まで続けてポストシーズン進出を果たしたのです。球団の活躍によって、ファンホーム・ビジター問わず球場に足を運び、観客数が増えました。潜在的ファンが戻ってきた、ともいえるでしょう。

 また08年の北京五輪では、若手選手中心の代表選手が活躍し、9戦全勝で金メダルを獲得。多くの若者たちがその戦いに注目し、新規の野球ファンが増えました。その熱気が冷めやらぬまま、翌年のWBCでは準優勝したことで、さらに人気が定着したのです。

――韓国では球場だけでなく、ケーブルテレビでも野球の視聴率が高いと聞きます。野球人気自体が高いといえるのでしょうか? また、その理由はなんでしょう。

室井氏 韓国は飽きさせない野球中継の見せ方が上手です。メジャーリーグや野球ゲームを参考にしたような細かいスイッチング、約17台ものカメラを使用、4Dリプレイスーパースローなど最新技術の導入、見る人の感情に訴えかける構図など、初見の人でも感情移入できるような映像をつくっています。最近は日本でも、玄人好みするようなプレー全体を映す画づくりから、韓国のような手法に変わってきていますね。

――ありがとうございました

●総合的なエンタメ空間

 プロ野球観戦というと、「野球を観る」「ひいきのチームを応援する」というイメージがある。もちろん、その通りなのだろうが、韓国の人々はもっと自由に、球場という空間自体を楽しんでいる印象だった。野球が主役ではあるが、決してそれだけが目的ではなく、球場の雰囲気や演出やグルメなども含め、総合的なエンタメ空間となっている。実際、観客の間には野外フェスのようなノリや一体感があり、韓国の野球選手のことをほぼ知らない筆者でも楽しめた。

 野球のあり方や楽しみ方が異なるため、韓国の取り組みをそのまま日本に適用しても、若者や女性の増加につながるとは限らない。しかし、何かしらのヒントになることは間違いないだろう。WBCオリンピックなどで激闘を繰り広げてきた日本と韓国だが、興行という意味でも切磋琢磨し合い、互いの野球文化の発展に貢献していくことを願いたい。
(文=肥沼和之/ジャーナリスト

韓国・プサンにあるサジク球場