苦難の末に攻撃的スタイルが浸透「大切なのはスペースを見つけ利用すること」

 ようやく横浜F・マリノスが、アンジェ・ポステコグルー監督の標榜する攻撃的スタイルをコンスタントに表現できるようになった。

 シティ・フットボール・グループとパートナーシップを締結し、2015年からの3年間はエリク・モンバエルツが指揮。手堅い守備からの速いカウンターでパフォーマンスを安定させた。だがこの間、縦に速い攻撃の重要なコマとなった齋藤学(現・川崎フロンターレ)とマルティノス(現・浦和レッズ)が移籍。今年は前任者とは対照的にポゼッションスタイルを志向するアンジェ・ポステコグルー監督を迎えたので、スタート時点でのハンデは小さくなかった。

 オーストラリア代表監督時代にも、同国の未来を睨み、敢えてライバルの日本が苦手とする直線的で高さを生かしたスタイルを拒み続けた監督である。それだけに、むしろ相性が良いはずの日本のクラブでの仕事ぶりには注目していた。

 予想通りに内容が伴うまでには時間を要した。GK飯倉大樹までがポジションを上げ、ビルドアップに加わる戦いぶりは新鮮だったが、最終ラインとGKの連携の乱れは対戦相手にとって狙い目になった。実際に8月19日J1リーグ第23節で鹿島アントラーズに0-1で敗れると15位まで落ちて、クラブ史上初めてのJ2降格もちらついた。

 しかし、新監督が選手たちの能力を見極めるとともに、選手たちも新しい戦術への理解を深め、著しく内容は良化した。

 ポステコグルー監督は言った。

「ここまでサッカーを変えれば、どうしても戦術を理解するには時間がかかる。大切なのは、相手のどこにスペースがあるかを見つけ、それを利用することだ。サイドバックやウインガーが中に入っていくこともあるし、MFが飛び出していくこともある。それが相手を混乱させる。とにかくやりたいサッカーをやり続けることが重要で、少しずつ改善が見えていれば、順位表はそれほど大切ではなかった」

個性を輝かせ、戦力の“代謝”にも成功

 夏に補強した久保建英、畠中槙之輔、ドゥシャンらが先発した8月22日天皇杯ラウンド16では、ベガルタ仙台に2-3で敗れたものの、逆に内容では相手を圧倒。ポステコグルー監督が「これ以上求めることができないほどの内容だった」と称賛したが、その認識の正しさを証明するように、9月29日リーグ第28節では5-2で雪辱した。

 来季のAFCチャンピオンズリーグ(ACL)出場圏内で健闘していた北海道コンサドーレ札幌を迎えた10月5日リーグ第29節でも、2-1ながら「切り替えの早い相手だったが、ボールを保持し完全にゲームをコントロール」(同監督)して、逆に力の差を見せつけた。

 もともと能力の高い選手を保有していたが、指揮官の狙いと合致して、アグレッシブに主導権を握り、どこからでも崩せる魅力的なチームに仕上がってきている。中村俊輔(現・ジュビロ磐田)、齋藤などクラブを象徴する選手たちが去っていったが、逆にスピード豊かな仲川輝人、遠藤渓太、独特の左を持つ山中亮輔、天野純らの個性が光り、生え抜きを含めて層も厚くなり、見事に代謝にも成功した。

 今年は出遅れが響きACL出場圏内には届かない。だがそれだけに来年のリーグ戦では、主役に躍り出る可能性を秘めている。(加部 究 / Kiwamu Kabe)

横浜F・マリノスに攻撃的スタイルがようやく浸透してきた【写真:荒川祐史】