日本人選手がフランスで苦労する要因は…アフリカ系選手が多くフィジカル重視の環境

 日本サッカー界の進歩により、日本人選手が海外リーグプレーするのはかつてのように珍しいことではなく、今や主流になりつつある。ロシアワールドカップ(W杯)では23人中15人がいわゆる“海外組”だった。そのなかで欧州5大リーグにおいては、これまでドイツイングランドに比べて日本人選手の活躍例が少ないのがフランスだ。海外4カ国を渡り歩き、自らもフランスで7シーズンを過ごした横浜FCの元日本代表MF松井大輔に、「個人主義の国」と称すフランスで生き残る難しさを訊いた。

 フランスリーグコートジボワールセネガルカメルーンコンゴ民主共和国などアフリカ出身の選手、そしてアフリカなど国外にルーツを持つ移民選手が多い。個人主義社会であることも相まって、日本人選手にとっては困難が待ち受けている環境だという。

フランスはまあ大変ですよ(笑)。フィジカルが強い相手と戦わないといけないわけですから。アフリカ系、移民の選手が多いグループに入って、自分の地位を新たに確立するのは簡単ではないし、僕も適応するのが難しかったです。そういう意味で、自分は2部からスタートできたのは良かった。初めからリーグ・アン(1部)でやっていたら活躍できていなかったと思います」

 松井は2004年にJ2京都パープルサンガ(現・京都サンガF.C.)からフランス2部のル・マンへ移籍。主力として1部昇格圏の2位に導いて「ル・マンの太陽」と呼ばれ、その後計6シーズンに渡ってリーグ・アンプレーした。アタッカーにとっては、目に見える結果が全ての世界だと振り返る。

フランスは個人主義の国。極端に言えば、周囲との連係は関係なく、自分が点を取れればいいという世界です。選手も自分がいかに給料の高いチームに行けるかを目標にしていた。僕はサイドの選手なので、結果で示していかないと認めてもらえないというのは大きかったですね」

酒井は「特別」なクラブの一つであるマルセイユサイドで信頼を勝ち取る

 現在、リーグ・アンでは日本代表DF酒井宏樹マルセイユ、日本代表GK川島永嗣がストラスブールに所属している。かつては元日本代表MF稲本潤一(現・北海道コンサドーレ札幌)がレンヌ、元日本代表FW大黒将志(現・栃木SC)や元日本代表MF梅崎司(現・湘南ベルマーレ)、FW伊藤翔(現・横浜F・マリノス)がグルノーブルでプレーしたが、なかでもフランスの名門マルセイユで酒井がレギュラーを張る価値はとてつもなく大きいという。

フランスのなかでマルセイユとパリ(・サンジェルマン)だけは特別です。ファン、サポーター、街の人、フランス国民全ての期待が懸かっている。その2チームは、日本の野球で言う『阪神対巨人』みたいな感じ。マルセイユは移民の街で泥棒なども多く、住むにも大変だと聞いています。そのなかで、酒井くんは本当に凄いな、と。認められるのが難しいクラブ、サイドというポジションで信頼を勝ち取っているわけですから。リーグ・アンサイドの激しい攻防は日常茶飯事で、1対1を仕掛けてくる選手が多いので、サイドバックは1対1が日々強くなっていくと思います」

 実際、酒井はパリ・サンジェルマンのブラジル代表FWネイマールフランス代表FWキリアン・ムバッペら世界を代表するアタッカーとマッチアップし、奮闘している。日本代表不動の右サイドバックとして君臨しているのも、フランスでの経験が大きいだろう。

「例えば、スペインはテクニックに優れたリーグというイメージがありますよね。日本人選手は技術や敏捷性が一つの武器と言われるなかで、逆の流れというか、フィジカル系のリーグに行くのは意義があることだと個人的に思います」

 自ら海外に飛び出し、ステップアップ移籍や各国でしか知り得ない体験をしてきた松井だからこそ、その言葉の重みは計り知れない。

[PROFILE]
松井大輔(まつい・だいすけ)/1981年5月11日生まれ、京都府出身。鹿児島実業高時代からテクニシャンとして知られ、卒業後に京都パープルサンガ(現京都サンガF.C.)に加入。アテネ五輪出場直後の2004年夏にフランスル・マン(当時2部)に移籍し、初年度から主力として1部昇格に貢献した。08年からはサンテティエンヌ、グルノーブルとフランスで戦い、その後はロシアブルガリアポーランドと各国1部リーグで奮闘。14年にジュビロ磐田と契約して10年ぶりのJリーグ復帰を果たし、今年1月から横浜FCプレーする。日本代表としても南アフリカワールドカップに出場するなど通算31試合出場1得点。8月に海外で計11年、8クラブを渡り歩いた経験を凝縮した著書「日本人が海外で成功する方法」(角川書店)を上梓した。(Football ZONE web編集部・小田智史 / Tomofumi Oda

DF酒井宏樹は、FWネイマールや世界屈指のアタッカーとマッチアップし、奮闘している【写真:Getty Images】