安藤サクラ長谷川博己ピュアなかわいさが毎朝、お茶の間をあたたかい気持ちにさせてくれる、NHK連続テレビ小説まんぷく』(NHK総合/毎週月〜金曜8時ほか)。10月12日放送分では、美しく優しい長女・咲(内田有紀)が、結核により、この世を去った。最後まで周りに気を遣いながら、家族に「ごめんね」と詫び、母・鈴には「ありがとう」と言い残して。ところで、このドラマの秀逸なポイントの1つに、次女・克子(松下奈緒)の描き方があると思う。

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 真面目で優しく、全方位に気を遣い、責任感が強く、「家長」的役割を担ってきた長女。愛情たっぷりに育てられて楽観的でおおらかな三女でヒロインの福子。それに対して、次女は親の反対を押し切り、家を飛び出して「売れない画家」の忠彦(要潤)と結婚する自由な人として描かれている。

 洒落た洋風の家に住みながらも、夫は売れる絵を描かず、鳥の絵ばかり描いていて、貧乏暮らしながらも、子だくさん。克子は忙しそうにおむつ替えをしたり、走り回る子どもたちを注意したり、家の外には鳥が大量にいたりと、いつでも賑(にぎ)やかだ。こうした貧乏ながらも賑やかな家庭に対して「次女の家が素敵。いちばん幸せそう」といった声は、放送開始当初からチラホラ見られた。

 克子が他の姉妹と大きく異なるのは、自由さだけでなく、母・鈴に対しても冷静で客観的なところ。長女・咲をお嫁に行かせたくない思いから、「盲腸かも」と腹痛を訴える母の姿を見て、仮病じゃないかとすぐ指摘する克子。「お母さんのこと、心配じゃないの?」と姉妹に詰められると、「ごめんごめん」とすぐ引き下がるところも、実に柔軟だ。

 さらに、克子のたくましさが魅力的にうつるのは、「人を頼る」ことを苦にせず、善意もさらりと受け取ることができること。

 実母にお金の無心をして断られ、妹が貸してくれると、本人を目の前にして平然と中身を確認したりする。しかも、夫の実家からも援助してもらっていることを心配する妹に、笑顔であっけらかんと「助かるわよねえ」と言ってのける。

 この一言に衝撃を受けた視聴者は多かったろう。特に、「他人や社会に迷惑をかけてはいけない」という思いを強く持ち、他者を頼ることができずに一人で抱え込み、二進も三進もいかなくなる人が多い現代の世の中では、克子のこうした図太さ、たくましさは、ちょっとうらやましく思える。

 もちろん「妹にまでお金を借りるくらいなら、自分でも働け」「夫にちゃんとお金になる絵を描かせろ」と憤る視聴者もいるだろう。それは正論だ。

 でも、「正しさ」や「常識」だけを軸に生きる人生は、ときに窮屈で、けっこうしんどい。しかも、それが身内や大切な友人などの場合、誰にも頼らず、つらい顔をして我慢して生きるより、頼ってもらうほうがうれしいことはある。申し訳なさそうに「ごめんね」と言われるより、明るい笑顔で「ありがとう」「助かるわ」と言われたほうが、気持ちが良くなることもある。

 しかも、「自由」で「気楽」なだけじゃない。福子と二人暮らしになることを不安に感じる母に対し、「大丈夫よ。福子、しっかりしてるから」と言い、姉が結核で入院してしまった際にも「大丈夫」と明るく言う。心配性の母はそんな克子に、軽々しく大丈夫などと言わないでと怒るが、みんなが沈み込むばかりのときに「大丈夫」と言える存在は、やっぱりありがたい。

 そして、姉がいよいよ余命わずかと医師に宣告されたとき、涙で顔を腫らし、何も言えなくなる妹に対し、「ちゃんと話すわ」と母に先の容態を告げる克子。自由気ままに見えて、やっぱり「お姉ちゃん」なのだ。

 そして、涙を流す母、妹の前で、自分は涙を見せないのに、家に帰ってから夫の前で初めて涙を見せる。

 夫・忠彦は、何も語らないながらも、克子の大切な姉・咲の結婚式には絵を贈り、また、結核で入院した咲の病室が殺風景だからと、桜の花の絵を贈る。おそらく忠彦は、咲がもう花を見られないかもしれないことに気づいていたのだろう。

 そんな夫だからこそ、甲斐性はないが、克子は信頼し、甘えることができ、「幸せだ」と断言できるのだろう。
 
 ともすれば自分勝手で自由でドライで、母との仲が悪いキャラとして安直に大げさに描かれかねない次女・克子のポジション。しかし、脚本・演出の巧みさと、松下のおおらかで上品な雰囲気により、愛情深く、気丈で、たくましく魅力的な女性として存在している。(文:田幸和歌子)

『まんぷく』で次女・克子を演じる松下奈緒 クランクイン!