9月20日、中国の吉林省・琿春市で、「北東アジアの人材交流」をテーマとする国際会議が開かれた。中国やロシア、韓国、モンゴルなどからの出席者を中心に、日本からも専門家や経営者が参加した。

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 琿春市は「ロシア北朝鮮に国境を接する」という“地の利”を持つ都市だ。琿春市が「人材」をキーワードにイニシアティブを握ろうと動き出したのは、北朝鮮情勢の今後に光明を見出しているからだ。そう遠くない将来に国連が北朝鮮への制裁を解除することを前提に会議が開催されたといっても過言ではない。

 会議に参加した日本のある企業経営者は、熱気あふれる会議の様子をこう語っている。

「登壇した多くの政府要人や学者などは、北朝鮮情勢についてとてもポジティブな発言を繰り返していました。時計の針は戻らない、いや、意地でも戻すまい、という気迫が感じられました」

琿春は「最後のフロンティア」?

 北朝鮮が開放されれば、琿春は最後のフロンティアになる――琿春ではこの言葉がこれまで何度となく繰り返されてきた。

 琿春市は、北東アジアの生産・物流の一大拠点になるという成長シナリオを描いていた。琿春市のすぐ南に北朝鮮の羅津港がある。北朝鮮が開放され、羅津港経由で日本や韓国を結ぶ物流ルートが安定すれば、琿春は日本企業にとっても魅力ある生産拠点になるはずだった。また、北朝鮮が対外開放を進め、国際社会に開かれた国になれば、琿春で北朝鮮の労働力を駆使した製造業が成り立つとも期待されていた。

 こうした展望のもと、日朝首脳会談(2002年、2004年)が行われた後には、この「最後のフロンティア」に日本の資本も投じられた。

 だが、その後、2011年末に金正日が死去し、後継の金正恩体制も迷走を続けたことで、中国と日本を含む周辺国は「北東アジアの明るい将来」を見失ってしまう。

 北朝鮮が国際的に開かれなければ、琿春のシナリオは前に進まない。「あそこはやっぱり難しい土地ですよ」――筆者の周囲でもそんな声が聞かれる。いわゆる「東北三省」(遼寧省、吉林省、黒竜江省)の経済の地盤沈下とともに、琿春には「負け組」の都市というレッテルが貼られようとしていた。

 しかし、そんな中でも、冒頭の国際会議に集った人々は、北朝鮮情勢と琿春の未来を極めてポジティブに捉えている。東北三省で始まる労働人口の減少や、中国沿海部の大都市での労働集約型産業の行き詰まりなど、さまざまな難題を、まるで琿春が一手に引き受けて立とうと宣言したかのようだった。

活路はアパレル縫製業にあり

 実は琿春市でこれから盛んになるとみられる意外な産業がある。それは、アパレル縫製業だ。

 労働集約型の典型と言われる縫製業は、中国から消えていく斜陽産業の1つと認識されてきた。だが、「中国政府は、大きな分業体制の中で琿春を縫製・アパレルの一大拠点にしようと目論んでいる可能性がある」(東北三省の経済に詳しい専門家)という。

 中国は、縫製・アパレル業を捨てるどころか、品質を高め、多品種小ロットをこなし、ブランドを確立して「世界のアパレル強国」になろうとしている。

 それは、中国発展改革委員会の一部門である工業信息化部が発表している「紡績工業発展計画2016-2020年」でも明らかだ。その舞台の1つとなるのが、琿春国際合作示範区紡績工業園区だ。すでにここには、中国を代表する紳士服の「雅戈尔」(ヤンガー)をはじめ国内の有名メーカーが集積し始めている。

 琿春が活路を見出す縫製・アパレル業を下支えするのは、言うまでもなく「北朝鮮からの労働者」だ。北朝鮮と国境を接する吉林省や遼寧省では、すでに労働者の受け入れが始まり、本格的な受け入れが目前に迫っている。

 逆に言えば、北朝鮮の労働力なくして琿春市の縫製産業は成り立たない。会議当日の配布資料には、次のように書かれていた。「対朝労務協力導入のメカニズム、労働集約型に依拠する労働協力ルートを確立し、労務協力により対朝友情の絆を深めることを実現する必要がある」。

 中国国内に新たな製造拠点が生まれる可能性は決して低くない。それが東北三省のダークホース、琿春市である。

 対外輸出のための工場が集積すれば、日本海を横断する航路も開ける。日本からの技術や人材も脚光を浴びるだろう。琿春市の悲願がかなう日、それは日本企業にも朗報をもたらす日になるのではないだろうか。

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琿春の出入国検査場(出所:Wikipedia)