神奈川県警が2018年8月に横浜市内のバス停付近で発生した交通死亡事故を受け、県内のバス停位置などを調査、危険性が認められた85か所について、安全対策を施していく方針です。移設には困難をともなうバス停、そもそもどのような基準で設置されるのでしょうか。

停車したバスが死角に 痛ましい事故を受け

神奈川県警が県内85か所のバス停について、特に危険度が高いバス停を公表し、安全対策を推進していく方針です。

これは、2018年8月30日横浜市西区の市営バス停留所付近で発生した交通死亡事故を受けたもの。当該のバス停は、細い路地が集まる五差路交差点に位置し、バスが横断歩道をまたぐ形で停車します。バスを降りた女児が、その後方に回り込んで横断歩道を横断しようとしたところ、対向から来た車両にはねられ亡くなりました。この場所に信号機はなく、バスが死角になったと見られています。

県警は事故直後から約1か月間をかけ、県内全バス停の目視調査を実施。バス停横断歩道が近接した、今回の事故現場と同様の環境にあるバス停85か所をリストアップしたといいます。県警交通規制課に詳しく話を聞きました。

――85か所のバス停はどのような特徴があるのでしょうか?

停車したバスが横断歩道をまたいだり、横断歩道に一部踏み入れたりしている箇所です。道路の幅や歩行者の数、横断歩道への車体の“かぶり具合”、あるいは通学路になっているか否かといった状況を考慮し、危険度をA~Cにランク付けし、対策を検討していきます。

――バス停の設置基準はどうなっているのでしょうか?

神奈川県警では1997(平成7)年に、参考資料として設置基準を設けています。横断歩道から30m以上離れた場所に設置すること、曲がり角や見通しの悪い箇所を避けることなどを明記していますが、今回事故が起こったバス停は、その基準ができる以前に設置されたものです。

――危険なバス停はどのように対策していくのでしょうか?

バス停の移設、あるいは横断歩道の移設などの道路改良、看板などによる注意喚起といった対策を講じていきます。しかしながらバス停の移設は、利用者から「遠くなった」という声が上がることも考えられますし、移る先にお住まいの方にも了承いただかなければなりませんので、困難な面もあるでしょう。バス事業者、道路管理者、警察の3者で集まり、現場ごとに対策を検討します。

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なお、バス停の設置について全国的な基準があるか、神奈川県警警察庁に確認したところ、「ない」との回答を得たとのことでした。

「危険になってしまった」バス停、どう対策すべきか

このような危険なバス停は、神奈川県だけの問題ではないようです。そもそも、バス停の位置はどのように決まるのか、日本バス協会の担当者は次のように話します。

バス停交差点から5m以内や、トンネル内など道路交通法で駐停車禁止となっている場所には設置できませんし、設置場所の前に民家や商店があれば、そこに住む人の了承も必要です。バス路線の開設に当たっては、それら条件をクリアしたうえで路線の全バス停について警察の許可を得て、運輸局に申請して許可を得る必要があります」(日本バス協会)

それらバス停が適切かつ適法な位置にあるか、運輸局から関係各所への照会も行われたうえで路線の許可が下りるそうですが、問題は「その後」にあると日本バス協会の担当者は指摘します。

全国には何十年も前から存在するバス停もあり、あとから道路環境が変化したことで、いまの基準からすると危険なバス停も少なくないとの推測。そうしたバス停について全県的に調査し、見直しを図る今回の神奈川県警のような事例は、全国でも珍しいそうです。

「交通管理者である各都道府県警察が独自に設置基準を設けることもありますが、既存のバス停がそうした基準を満たしていないからといって、廃止されることもありません。いまから基準に適合させようとすれば、どこにも置けなくなってしまうことも考えられます。移設には困難をともなうでしょう」(日本バス協会)

神奈川県警は今後、リストアップした危険なバス停85か所のランク付けを進め、Aランクのバス停については2018年11月中に取りまとめ、各種対策を検討していくとのこと。交通規制課の担当者は、「できるところから速やかに実行していきたい」と話します。

【図解】停車するバスが横断歩道をまたぐ 死亡事故現場のバス停

横浜市営バスのイメージ。市内のバス停付近で起こった死亡事故を契機に、神奈川県警が県内全バス停の設置位置などを調査した(画像:photolibrary)。