「お金とは何か?」「幸せとは何か?」をテーマに、観る者にその価値観を問いかけていく映画「億男」。主演を務めた佐藤健は、借金生活から一転、宝くじで3億円が当たった主人公の一男、高橋一生は一男の親友で億万長者でありながら、一男の3億円を持って失踪してしまう九十九を演じている。今回の「億男」連載は佐藤と高橋の対談を!

モロッコでの撮影の思い出を語る

佐藤健「お金って普遍的で、絶対的なテーマじゃないですか。そのお金というテーマを、自分がこの映画に出ることによって、世の中にメッセージを送れたり、理解を深められたりできればいいなと。そして、それを映画として残せることに魅力を感じました」

高橋一生「僕はもともと原作を読んでいたので、出演のオファーをいただいたときはうれしかったです。しかも、僕はどちらかというと、一男のような役をいただくことが多かったので、九十九役というお話を聞いたときには『本当ですか?』と聞き返したし、とてもありがたいお話だと思いました」

今回が初共演となる佐藤と高橋。互いの印象を聞いてみると。

佐藤「実際にお会いするまでのイメージは、料理がうまそうだなと(笑)。あと、アメリカの俳優なんかもそうですが、何でもできるイメージ。一生さんならきっと手品とかジャグリングもできるんじゃないですかね(笑)」

高橋「どっちもできない(笑)」

佐藤「なんて、真剣な話をすると、基本的に九十九のキャラを演じているのがすごいなと。もし自分が九十九をやれと言われたら、困ってしまうような難しい役なので、一生さんがどんな演技をされるのか想像できませんでした。でも、初めて一緒にお芝居をしたときにストンと落ちて、自分がイメージしていた九十九よりも九十九だったので、すばらしいなと思いました」

高橋「健くんは非常に華のある方で、一つ一つのお芝居に真剣に向かい合っている姿がとてもステキだと思いました。加えて、健くんはこちらのお芝居をちゃんと受け止めてくれる人。そういう方はなかなかいないので、とてもありがたかったです」

■ 二人でモロッコで迷子になる!?

突然、3億円の宝くじが当たり、宝くじの高額当選者たちが悲惨な人生を送っているという記事を見て怖くなった一男は、起業して億万長者になった九十九ならいいアドバイスをくれるだろうと、彼に会いに行く。佐藤はその際に九十九がプロデュースした豪遊パーティーの撮影が特に印象に残っているという。

佐藤「芝居でああいうことをしたことがないので、とても新鮮に思いながらやっていました。それが楽しかったのもあるし、あのシーンで僕がこれまでにやってきたどの役とも違うということを見せるシーンでもあったので、印象に残っていますね」

そのパーティーシーンは、200人ほどのエキストラを使って撮影。パーティーが佳境に入り、一万円札が降り注ぐシーンでは、数百万円分の本物のお札が使われたことも話題に。

佐藤「クランクアップするまでの間で、僕の目に一番焼きついているのは、散らばったお札を大人たち(スタッフ)が必死になってかき集めている光景でした(笑)。でも、やっぱり気持ちよくはありましたね」

一方の高橋は、モロッコで撮影された一男と九十九の旅行シーンが印象に残っているという。

高橋「モロッコのロケーションを初めて見たときは、ぞわっとするような感動がありました。壮大な景色に圧倒されすぎて、涙が出るという感覚ではなくて、ポツンとなるんです(笑)。だからこそ、このモロッコの感じがどれだけ映像に出るか、鳥取砂丘で撮ったと勘違いされないかなと思っていたんですけれど(笑)、完成した映画を見たら、モロッコでないと絶対に撮れない映像になっていたので安心しました」

佐藤「モロッコは寒暖差が激しかったですよね。あと、風がものすごく強いんです」

高橋「ドローン泣かせなんです(笑)」

佐藤「でも、なかなか行けるところではないので、カメラは持っていきました。普段、あまり写真を撮る方ではないんですけど、砂漠とラクダの写真だけは撮りました(笑)」

高橋「あと、砂漠のバギーはすごかった。それに乗って撮影ポイントまで移動するんですが、ガンガンに揺れて、アトラクションみたいだった(笑)」

佐藤「そういえば、二人で迷子になりかけたときがありましたよね。そのときの心細さはハンパなかったです(笑)」

モロッコ九十九の落語を聞いたときは感動しました

そのモロッコでのシーンでは、九十九が砂漠のど真ん中で、落語の十八番「芝浜」を披露する場面も。一男と九十九は大学の落語研究会で意気投合したという設定で、大学時代のシーンでは佐藤も古典落語の「死神」に挑戦している。

佐藤「モロッコの砂漠で、九十九の落語を聞いたときは感動しました」

高橋「立川志らく師匠に指導していただいたのですが、自分で演出を組み立てていく感じは面白かったです。お芝居とはまた違ったアプローチのものを、この歳で初めてやらせていただけたことは、とても新鮮でした」

佐藤「僕も落語に挑戦するのは初めてでした。九十九は落語の天才なので、彼が落語を披露するシーンはマストだけど、一男に関しては映像として3秒ぐらいあればいいかなと。だから、そんなに練習が必要だとは思っていなかったんですが、僕自身、落語家さんに敬意を持っていたので、志らく師匠が指導してくださると聞いたときには「マジかよ」と思いました。志らく師匠に落語を教わる機会なんてそうないので、佐藤健個人として落語の練習をしていましたね」

高橋「志らく師匠の落語を目の前で見られるなんて、本当に貴重な体験でした。しかも、自分だけのためにやってくださるなんて、どれだけ贅沢な時間なんだと(笑)。撮影では、砂漠での落語のシーンは25分ぐらいをぶっ通しでやって、健くんとの大学時代の落語会のシーンは、健くんの『死神』と僕の『芝浜』を一連で撮影して、30分以上長回しをしているんです」

■ どう思うかはその人に対する信頼度によって変わる

九十九に3億円を持ち逃げされてもなお、彼のことを信じている一男。二人にはそこまで信じられる男友達はいるだろうか。

高橋「何人かいます。中学、高校の友達や20代の中ごろに出会った友人。ただ、もしお金を持っていかれてしまったとしても、そのときに相手が普段何を考えていたのかを思い出すだろうと思います。普段つき合っているときに知性みたいなものや、均整みたいなものが感じられる相手なら信じられる。それこそ、何か意味があるはずだと思えるのが友情だと思うので」

佐藤「あいつ、持って逃げやがったなと思うのか、何か事情があるんじゃないかと思うのかは、その人に対する信頼度によって変わりますよね。それ以上に、相手がどういう状況だったのか、どういう環境の中にいたのかが重要だと思うので、一概には言えませんが、一男も九十九を信じたいと思っている一方で、億万長者だと思っていた九十九が実はお金に困っていたらどうしようと不安になったりもしているんだと思います。だから、シンプルにこういう人だから絶対に信じられるというのはないんじゃないかな。人間関係って、そういうものですからね」(ザテレビジョン

映画「億男」で共演した佐藤健と高橋一生