燃えデブ第40回は現役最多の通算399本塁打! 39歳・阿部慎之助

どれだけ議論してもCSに代わる利益をもたらす興行案を語れる人はほとんどいないだろう

 自分が絶対正しいとは思わないし、相手が間違ってるわけでもない。

 どれだけ議論しても、正解が出ない問題が世の中にはある。例えば、開催中のプロ野球クライマックスシリーズ。ペナント軽視、やっぱり優勝チーム同士で日本シリーズすべき……そうね、気持ちは分かる。けど、同時にCSを失くして、消化試合が増えまくったら、終盤は今以上に引退セレモニー連発で集客に走るハメになるだろう。もはやコーチチアガールさよならイベントまでかますかもしれない。

 正論は時に元気を奪うが、はっきり書くと主催球団にとってCSは儲かる。マジおいしいボーナスステージ神宮球場のチケット代は内野最上段付近で7100円だった。他の席種も結構強気のポストシーズン価格でも満員御礼。シリーズ入場料収入だけでウン億円と考えると、CS廃止論と言っても、現実問題としてそれに代わる利益をもたらす興行案を語れる人はほとんどいないだろう。カネはすべてではないが、馬鹿にもできない。

 時々、打ち合わせに呼ばれ1時間近く企画案を話し続け、最後に「でも本当にウチの媒体は予算がなくて」と付け加える編集者がいたりする。いや知らんがな、それ最初にメールに書いてよ。カフェの小さいテーブルでおじさんと膝を付き合わせて、ひたすら実現不可能な夢を語られるのは地獄である。そうか、だから合コンでおネエちゃんたちはシビアに男の年収を気にするのか……なんつって今週もMLBカフェでローストビーフ丼をかっ食らいながらクライマックスコラム『燃えデブ』が始まった。

由伸政権とはなんだったのか? それは「阿部のチーム」とも言われたスーパースターを終わらせるための3年間だったのか?

 それにしても、神宮の巨人は強かった。10月3日夜に由伸辞任が報じられてからの巨人のドライブ感は半端ない。菅野のノーヒットノーラン達成の瞬間は、一緒に観戦していた同世代のアラフォー男三人で抱き合って喜びを分かち合った。おっさん同士で抱き合い嬉しいなんてほとんど狂気の沙汰である。だから、プロ野球は最高だ。菅野はNPB最強のスーパーエースに登り詰めた。斎藤雅樹上原浩治、もはや比較対象は常に過去の大エースたち。
「過去と闘って何が悪い! 昔を越えようとして何が悪い!」
 かつてプロレスラー中邑真輔はリング上でそう叫んだが、すべてのアスリートやアイドルは「ファンの思い出」や「昔の名選手」、そして「過去の自分」と戦うハメになる。

 今の巨人の背番号10のように、だ。その男がプロデビューした2001年は、まだ懐かしの長嶋監督時代だった。ルーキーイヤーから10年連続で開幕マスクをかぶり、東京ドームのど真ん中で主役を張り続けた阿部慎之助も現在39歳。通算399本塁打は現役最多。その多くをキャッチャーをやりながらかっ飛ばしている。これから日本球界だけで400本近くアーチを放つ規格外の打てる捕手は出現するのだろうか? 仮にそういう若い逸材がいたとしたら、メジャースカウトも放っておかないはずだ。

 第二次原政権では「阿部のチーム」とまで言われたスーパースター。それが今年のCSではここまで2試合で7打数無安打である。それでも、巨人はあっさり勝った。3年前、同じ神宮のヤクルト相手のCSで4番阿部が16打数11安打となりふり構わずヒットを打ちまくっても勝てなかったチームが、今季は背番号10が無安打でも連勝したわけだ。4番には22歳の岡本が座り、坂本と菅野の投打の大黒柱は全盛期を迎えている。由伸政権とはなんだったのか? それは「阿部のチーム」を終わらせるための3年間だったと思う。裏を返せば、阿部慎之助とはそれだけ偉大なプレーヤーだったのである。

神宮で見た背番号10、おっさん阿部が必死に鼓舞する姿は、死ぬほど格好よかった

 数年前、巨人のハワイV旅行の様子をテレビで見ていたら、球界最高年俸まで登り詰めた選手がこんな言葉を漏らしていた。「寂しいというのはキャッチャーを辞めることではなく、自分が思うようにプレーできなくなってしまった寂しさの方が強かった」と。頭じゃ分かっていても、身体が付いていかない35男のリアル。腹は出てくるし、体力も落ちる。昔は簡単に出来ていたことができなくなっちまう、悔しさより、寂しさ。恐らく、捕手を諦めた頃の阿部は最高だった頃の自分に未練があったのだろう。

 だが、数日前に神宮で見た背番号10は、チームがピンチになると一塁からマウンドの投手の元へ向かい声を掛け、必死に鼓舞していた。今季はベンチで後輩に言い聞かせるようにアドバイスするシーンも増えた。それは、「自分が打てなくても、自分が捕手じゃなくても、チームが勝てばそれでいい」と、まるで『スラムダンク』の湘北高校・ゴリ赤木剛憲キャプテンが「オレがダメでもあいつらがいる。ウチには主役になれる選手がたくさんいる」と現実を受け入れ、山王戦で体を張るシーンを彷彿とさせた。そんなベテラン、いやおっさん阿部の姿は死ぬほど格好いい。

 ファンが高橋由伸監督、現役選手の上原浩治阿部慎之助を三人揃って見れるのはあと何試合だろうか? 41回連続無失点中の菅野は広島でどんな投球をしてくれるのか? 4番岡本はCSを経験する事でどこまで成長するのだろう?
 
 ようやくだ。ようやく最後の最後で「過去」と「今」が繋がり、未来が見えてきた。だから、今の由伸巨人は見ていて楽しいのである。


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