「先生。あの頃、僕は頭がおかしくて、勝手にイライラして盛り上がって、周りとか自分のことも見えなくなるくらい、それくらい先生のことが好きでした」

10月9日(火)放送の火曜ドラマ『中学聖日記』TBS系第1話
「教師と男子中学生の“禁断の恋”」という触れ込みからスタートした本作。初回は中学生・黒岩晶(岡田健史)が教師・末永聖(有村架純)に恋をしたことを自覚するまでの戸惑い、苛立ちを描いた。

晶「先生! 先生、僕、先生のこと好きになっちゃいました。好きになっちゃいました! もうどうしていいか、全然わかりません」

ラストシーンでの晶の告白。2回目の「好きになっちゃいました」で、声を張りながらも左に顔を伏せる様子は、晶の感情のどうしようもなさを表すまっすぐな演技だった。共演の有村や町田啓太が褒めるのもうなずける。

「こども」と「大人」の違いを強調するドラマ版の肉付け
2015年4月、新任の国語教師・聖が晶たちの通う子星中学校に赴任してきた。こどもの頃からの夢を叶えて張り切る聖だったが、3年生という難しい時期の生徒たちは「聖ちゃん」と呼び舐めてかかる。中でも、晶は突然暴力を振るってきたり、ボヤ騒ぎを起こしたり、夜に雨の中自転車でいなくなってしまったりと、理解できない行動で聖を困らせていた。

赴任早々、教職の難しさを感じている聖。そんな彼女に、大阪に住む河合勝太郎(町田啓太)はプロポーズをする。勝太郎は聖を大阪に呼び寄せて一緒に暮らすつもりだったが、それを知った生徒たちのからかいを受け、聖は「私は辞めません」「みんなのそばにいます」と宣言する。

かわかみじゅんこの原作漫画1巻の内容を分解し、晶の家庭事情や聖の婚約者からのプロポーズなど、新要素を追加しての再構築。原作ファンは戸惑ったかもしれないが、脚本・金子ありさ(映画『羊と鋼の森』など)とプロデューサー・塚原あゆ子(ドラマ『アンナチュラル』など)が、実写化にあたり肉付けの腕を振るっていることがうかがえた。

特に大幅に肉付けされたのが、晶の家庭事情と、学校での聖の教師としての立場だ。
原作ではやや放任気味の両親と暮らしていた晶。ドラマ版では、母親の愛子(夏川結衣)と二人暮らしの母子家庭になっている。晶は父親の行方を知らず、愛子はそれを隠している。訳アリの家庭になっている。
聖に厳しく「教師のあるべき姿」を説いていた教頭の塩谷(夏木マリ)は、原作にも登場する。しかし原作では、生徒を刺激しないように髪はまとめたほうが良いと指摘するくらい。ブラウスの女っぽさやスカート丈、婚約者との行動について細かく口を出すほどではない。

この肉付けは、晶がまだ親を困らせる「こども」であり、聖が厳しく自分を律しなければいけない「大人」であることをより強調するものとなっている。

また、原作では数ページしか登場しない学校裏サイトのようなものは、晶と聖を追い詰めるサスペンス要素としてドラマで大きく取り上げられた。缶ビールが転がるテーブルの上で、何者かが執拗に聖の様子を投稿している。
缶ビールがあるから大人か? と考えてしまうけれど、金子&塚原コンビがそんなにわかりやすいヒントをくれるだろうか。ドラマ版でのこの新たなハラハラ感のおかげで、原作を知っていてもまったく先が読めない。

ラッキョウマトリョーシカ
家庭事情、学校での立場、サスペンス要素など、大胆な改変が加えられたドラマ版。その一方で、晶が聖に恋心を抱いていく様子は、大胆さと繊細さを織り交ぜて丁寧に描かれる。

晶の心の不安定さを表す象徴的なシーンのひとつは、ボヤ騒ぎだ。
晶は友達の九重(若林時英)に誘われ、るな(小野莉奈)、淳紀(西本まりん)と一緒に花火をしに出掛ける。互いに恋の話をしながら花火をしていると、ろうそくの火が古新聞に移り、燃え広がってしまう。九重たちは逃げようとするが、晶は着ていた赤いパーカーを使って火を消し止めようとした。

その頃、聖は東京で勝太郎にプロポーズを受けたのち、同窓会を楽しんでいた。火を消そうとする晶の赤いパーカーと、聖が着ている同じ色味の赤いワンピースがオーバーラップする。晶が消そうとしても消えない炎のような衝動、感情と、聖の姿が繋がっていく。

その後、警察や他の教師たちによって、ボヤ騒ぎはおさめられる。夜のうちは同じ赤色に見えた聖のワンピースと晶のパーカーは、朝の太陽の下で見ると微妙に色が違う。太陽の光を世間の目の暗喩とすると、2人は一緒にいることができないことを示している……、というのは考えすぎか。

「教師と中学生の恋愛なんて」と不安視する声もあるが、今の段階ではまだ「中学生が先生に恋をした」という状況以上でも以下でもない。今後、その状況をどのように扱っていくのか、引き続き注目したい。

むしろ、現段階で不穏さを感じる点は、バイセクシャル(セクシャルマイノリティ)自認の登場人物・原口(吉田羊)取り扱いだ。
公衆の面前(職場の上司、部下がいる場)でキスをしたり、聖や勝太郎にやけに説教っぽい恋愛アドバイスをしたりする原口の姿。それは、マスメディアが作ってきたセクシャルマイノリティの人たちへの「性に奔放」、「恋愛マイスター」、「歯に衣着せぬ物言い」などの偏見を増長させかねない。いわば、ステレオタイプ
そういった振る舞いを、“セクシャルマイノリティだから”ではなく“原口だから”という個人の性質起因にきちんと見せていけるかが、脚本・演出の腕の見せ所となりそうだ。

原口は、勝太郎から「剥いても剥いても次が出てくるラッキョウみたい」と例えられていた。その一方で、聖もまた「マトリョーシカみたいなお嬢ちゃん」と言われている。剥いても剥いても次が出てくると言う点で、聖と原口は同じ性質を持っている。その対比が、勝太郎や全体のストーリーに対してどんな風に作用していくのかも楽しみだ。

第2話は、今夜10時から。

(むらたえりか

火曜ドラマ『中学聖日記』
TBS系にて、10月9日(火)スタート 毎週火曜よる10時から放送
出演:有村架純岡田健史町田啓太(劇団EXILE)、マキタスポーツ、夏木マリ、友近、吉田羊、夏川結衣、中山咲月
原作:かわかみじゅんこ『中学聖日記』(フィールコミックス/祥伝社
脚本:金子ありさ
演出:塚原あゆ子、竹村謙太郎、坪井敏雄
主題歌:Uru「プロローグ」(ソニーミュージックレーベルズ)
製作:ドリマックステレビジョン、TBS
(c)TBS
公式サイト:http://www.tbs.co.jp/chugakuseinikki_tbs/

イラスト/まつもとりえこ