ブロックチェーンが世界を変える」ーーそう言われて久しい。

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 しかしその萌芽を感じとっている人は、まだまだ少ない。むしろ、ブロックチェーン技術の代表格ともいえる仮想通貨の度重なるハッキング騒動が、ブロックチェーンに対する我々のイメージに暗い影を落としたと言える。

 ブロックチェーンは本当に世界を変えられるのか? 仮想通貨ウォレットアプリ「Ginco(ギンコ)」を開発し、京都大学在学中に起業し、現在はGincoCEOを務める森川夢佑斗氏は「少なくてもここ5年、いえ3年以内には、多くの人が知らず知らずのうちに生活の一部としてブロックチェーン技術に触れることになるはず」と断言する。ブロックチェーンの技術の未来を聞いた。(取材・文/河西 泰)

ブロックチェーンの実証実験は至る所で始まっている

 今年(2018年)8月28日茨城県つくば市は、ブロックチェーン技術とマイナンバーを活用したインターネット投票の実証実験を行ったことが話題になった。もちろん国内初の取り組みだ。

「まずは、改ざんできないというブロックチェーン技術の最大の特長を活かしたサービスが実証実験の段階に入ってきています。海外ではウクライナをはじめ、ブロックチェーン技術による投票システムがすでに実用化されている国もあり、この分野での活用はかなり早い段階で身近になるはずです」
 
 ブロックチェーンというと、ついビットコインに代表される仮想通貨を思い浮かべる人も多いことだろう。ともすれば、仮想通貨からの連想でネガティブな印象を持っている人いるかもしれない。

 しかし、つくば市の取り組みと時を同じくして『ブロックチェーンの描く未来』を上梓した森川氏は、仮想通貨ブロックチェーン技術にとって『第一の波』に過ぎないと言う。

「たとえばビットコインからブロックチェーンという言葉を知ったという人も多いはずです。それはそれで、ブロックチェーンの技術を認識してもらう上で非常に重要な役割だったと思います。ただしブロックチェーンイコール仮想通貨といった認識で止まってしまうのは残念です。仮想通貨ブロックチェーン技術の一部でしかないからです」

 実際、我々の身の回りではすでにブロックチェーン技術が応用され始めている。

 たとえばダイヤモンドの販売でブロックチェーン技術の活用が始まっているのをご存じだろうか。

 ダイヤモンドのマーケットでは質の低いダイヤモンドを偽装したり、ダイヤモンドではない石を偽って販売するなどの問題があった。さらには、紛争やテロ組織の資金源として悪用されているという指摘もあり、品物や流通経路に関しての偽装問題が後を絶たなかった。

 そこに登場したのが「EverLedger」(エバーレッジャー)というプロジェクトだ。

ダイヤモンドは通常、個人の目では真贋の区別がつきにくいため、鑑定士による証明書の発行によってその品質などの保証が行われてきました。しかし、この証明書の発行や保管には、これまで大きなコストがかかっていた。EverLedgerのプロジェクトは、ダイヤモンドのサプライチェーン(原料調達から商品が消費者に届くまでの全工程)や取引履歴をブロックチェーン上に記録することにより、低コストかつ改ざん不可能な情報管理を可能にしたのです。ブロックチェーン上で、ダイヤモンドの真贋証明書や、サプライチェーンの情報を管理することが可能になれば、消費者は、そのダイヤモンドが本物であるかどうか、どういった過程を経て生産されたものかをいつでも参照することができるようになります」

 そして、この「EverLedger」のプロジェクトは、ダイヤモンドだけではなく様々なものに応用可能だと言う。

「そもそも、サプライチェーン管理の中で起こる問題を解決しようとするのがEverledgerのプロジェクトです。消費財が私たちの手に届くまでには多くの企業同士の取引があり、そうしたプロセスのなかで一貫して透明性を保つのは、企業にとっても最重要の問題となっています。他にも、ブランド品の流通管理に用いられる『VeChain』(ヴィチェーン)や『Seal』(シール)などに代表されるように、サプライチェーン・マネジメントの効率化はブロックチェーンの得意分野のひとつです」

医療分野との高い親和性

 我々に身近なのは、医療分野における活用だろう。イギリスで生まれた「MedicalChain」のプロジェクトは、今年の7月に実用化に向けた実験が始まったばかりだ。

「『MedicalChain』は、医療記録をブロックチェーン上に記録し、患者・医師だけではなく、研究機関、保険会社なども情報保有者の許可によって、ブロックチェーン上の記録を参照することを可能にするプロジェクトです。患者の医療記録をブロックチェーン上で一括管理することによって、診察や治療の記録などを、違う病院でも参照できるようになります。これにより、患者が逐一病状を説明したり、医師が他の病院への紹介状を書いたりする手間とコストを削減することができます」

「さらに保険会社は、正当で偽りのない情報を入手できるため、保険料の決定に役立てたり、保険詐欺の被害から免れることができます。医療関係の情報は、患者自身の身体に関する情報です。こうした情報をブロックチェーン上に記録できるようになると、医療機関の都合に左右されることなく、個人の意思決定のもとで自由に利用できるようになります」

 イギリスの「National Health Service」(国民保険サービス・NHS)はそのほとんどが国費で賄われる公費負担医療だが、その額はイギリス国家予算の25%に相当する。コスト削減には病院間でカルテを共有するなどの方法が考えられるが、一か所にしかないカルテをいかに共有するか、情報の機密性を保つかが課題になっていた。『MedicalChain』はそうした課題を解決するものとして大きな期待が寄せられているのである。

 この他にも、医療分野においては多くのブロックチェーン技術が活用されつつある。

処方箋の追跡・管理を行う『Medi Ledger』や、臨床機関の情報プラットフォーム『Simply Vital Health』が開発されています」

ブロックチェーンが普及するまでの段階

 ブロックチェーンはインターネット上の技術なので、いくら「いくつものプロジェクトが実現に向けて動き出している」と言われても実感が湧かないだろう。

 そうした実感を我々が得るまでの段階を森川氏は、「5つの波がある」と表現する。

「第1の波は『お金の技術』。これについては、2017年に私たちが経験した仮想通貨ブームとしてすでに実感していることです。これに続く今後の第2の波は、セキュリティやデータの共有に焦点を当てた、管理システムの普及です。記録技術としての優位性を活かすことで、企業はデータの送信や検証に割いていたコストを大幅に削減できます」

 このタイミングまでは既存のシステムの増強策としてブロックチェーンが活用される。

「第3の波が、さまざまなものをデータ化することでインターネット上の取引を活性化する流れです。この時点で改ざんもコピーもできない電子的なデータが固有の価値を持つようになるでしょう。同時に、スマートコントラクトを活用した、価値交換・価値取引が盛んに行われるようになるはずです」

 ブロックチェーン上でスマーとコントラクト(契約の自動化)を行うことで、改ざんなどを防ぎ、また仲介業者を介さずとも個々が自由に価値を交換できるようになる段階である。

「第4の波は、一般への普及です。ブロックチェーンの基本的な仕組みが一般の人々に理解され、エンドユーザーのボリュームが一気に拡大していくことで多くのコンテンツが生まれてくることでしょう。ちょうどSNSが普及し始めた頃のインターネットのような時期です。そして最後、第5の波は、インフラや公共施設が集中管理型から完全分散型へ変化することです。この段階では、法律および規制上の枠組みが、分散型台帳を通じた資産の所有権や取引をサポートするようになると私は考えています」

「行政システムも分散化されていき、様々な仕組みが個人を中心としたものになっていくことで、組織や個人が保有する資産の直接取引が可能になるほか、従来のインフラ所有者=仲介者が不要となり、完全なP2P取引が実現されます」

 当然ではあるが、個人よりも国や政府といった旧来の中央集権的な仕組みそのものが、人々のライフスタイルに合わせて変化しようとしたときに、この波は加速していく。その点でも、前述のつくば市の投票システムのような例は、ひとつの始まりと言えるであろう。

ブロックチェーンが日常になる日はいつ?

 ブロックチェーンの技術を使ったサービスやシステムが、これから私たちの生活の中に入ってくることは間違いない。

 それはインターネットの普及により、文書連絡の手段が紙の手紙からEメールに取って代わられたようなものだ。サービスの普及とは、1つの変化が起これば一気に加速度を増して、まるで昔からあったように生活に取り入れられていく。

 ブロックチェーンに詳しいある大学教授は、ブロックチェーンが普及する段階で、すでにブロックチェーンという言葉は消滅しているのではないかとも言う。
それはブラウン管がテレビとなり、もはやブラウン管のテレビ自体が消滅したのと同じことである。

 ブロックチェーンが身近になるスピードを森川氏は「3年ないし5年内の話だ」と言った。

「日本にいると、『ブロックチェーンなんてまだまだ未来の話』と思うかもしれませんが、これまでもお話ししたとおり、海外での実用化はかなり先に進んでおり、日本でも、あとは法整備の問題などをクリアすればいつでも実用化されるところまで来ている分野も多いのです。5年以内、いや3年以内には、みなさんも何らかの形でブロックチェーンを使ったサービスに触れているはずです」

 森川氏が提供する仮想通貨ウォレット『Ginco』(ギンコ)は、その未来を見据えた最初のインフラだ。

ブロックチェーンの技術を使ったサービスが普及した際に必要となるのが、個人がブロックチェーン仮想通貨を安心して扱えるインターフェイスです。どんなサービスであっても、最終的には個人の管理する秘密鍵に資産と権利が紐づくからです」

 あらゆるサービスの基幹にブロックチェーンの技術が使われていく。その足音は近づいてきている。

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