Photo credit: prawnpie on Visual hunt / CC BY-NC-SA
Point
・タコは一回繁殖性の生物で、産卵後に断食状態で卵の世話をし、卵が孵ると餓死する
・この母性本能による行動には、両目の間にある視柄腺が関わっていることがわかっている
・交配後、視柄腺で合成される分子の詳細がRNAの遺伝子配列解析でわかる

タコは、学術論文内に「地球外生命体だ」と書かれてしまうくらい(ユーモアの一部ですが)、優れた問題解決能力と驚異的なカモフラージュ能力を併せ持つ魅力的な生物です。人間のようにヤクで気持ちよくなってしまう可能性もあるとか。

しかしその半面、1年から2年程度しか生きない短命な動物でもあります。その理由は、一回繁殖性にあります。つまり、死ぬまでに1度しか繁殖しないのです。雌でいうと、一度卵を生んでしまうことが死へのカウントダウンとなります。

実際、雌は卵がかえるまで、餌を食べることもやめてしまいます。じっと側にとどまって見張っているのです。さらに、時々自らの皮膚を剥ぎ取ったり、触手の先端をちぎって食べて死に至ることもあります。

今回、シカゴ大学の研究で、なぜこういった残酷な終わりを迎えるのかがわかってきました。それには、ヒトの下垂体に似た、タコの両眼の間にある「視柄腺」が関わっているようです。研究は“Journal of Experimental Biology”で発表されています。

 

1977年、この視柄腺を取り除くと、母タコの母性行動が消失することが発見されました。その結果、卵を放置して餌を摂り始め、ずっと長生きしました。生殖器官の成熟は、視柄腺からの分泌物によって引き起こされると考えられています。そして同じ分泌物が、消化腺や唾液腺とも相互作用しており、その結果タコは餓死してしまうというのです。

新たな研究では、シカゴ大学の神経生物学者たちが、遺伝子配列解析ツールを使って、産卵後のカリフォルニア・ツースポットタコの視柄線のシグナル分子を解き明かしました。彼らはまた、母性行動には4つのフェーズがあることも発見しています。

第1フェーズは、成熟後の交配をしていない状態で、巣の外で活発に狩猟しています。第2フェーズはちょうど産卵後にあたり、卵を見張ると同時に、触覚でなでたり海水を吹きかけたりして世話をします。狩りに出ることは無く、たまに迷い込んできたカニを食べたりします。その期間は3日から4日です。第3フェーズでは、完全に摂食をやめ無気力になっています。この時期は8日から10日続きます。最後の第4フェーズでは、動揺が増します。水槽の壁に体当たりしたり、ボロボロになるまで身繕いしたり、触手を絡めたりし、青ざめてやせ細ります。このフェーズは、卵が孵った直後で死ぬ前にあたります。

研究者は、それぞれのフェーズでの視柄腺を集め、発現しているRNAの遺伝情報を調べることで何が起こっているのかを確かめました。交配前は、他の動物でも摂食行動に関わっていることがわかっているペプチドでできた神経伝達物質が多く出ていました。しかし、交配後、これらの神経伝達物質は急落。コレステロールの代謝を調整するステロイドであるカテコールアミンが増加し、インスリン様因子も増えていました。ちなみにインスリン様因子は、生殖との関わりのない因子としては視柄線で初めて確認されたものです。

この発見が示しているのは、視柄腺は生殖を調節するためにただ1種類のホルモンだけを使っているのではなく、複数のシグナル伝達系を使っているということです。これらの伝達系によって、母ダコは大事な卵を見張り続けているものと考えられます。

 

餓死に至る行動が、視柄腺によって引き起こされていることは以前もわかっていましたが、実際に働いている多くの分子がわかったのは今回が初めてです。しかし、まだ多くの謎は残っています。雄タコは、卵の世話をする必要がないのに、交配の後死んでしまうのです。タコの謎がすべて明かされるとき、果たして人類はどうなっているのでしょうか―。

 

タコに幻覚剤「MDMA」を与えた結果、驚きの現象が判明

 

via: Science Alert/ translated & text by SENPAI

 

なぜ母親になったタコは壮絶に「餓死」するのかが判明