陸上自衛隊水陸機動団は10月2日から11日にかけて、フィリピンで開催された米比共同訓練「カマンダグ」における人道支援・災害救援(HA/DR)活動のための水陸両用作戦訓練に参加した。

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(筆者注:カマンダグに参加していた水陸機動団隊員2名が10月2日に現地で交通事故に巻き込まれ、うち前原傑2等陸曹 [1等陸曹に特別昇任] は6日に死亡した。謹んで哀悼の意を表します。)

 また、その後の10月14日鹿児島県種子島で、陸自水陸機動団(陸自第1ヘリコプター団、海自輸送艦おおすみ」も参加)はアメリカ海兵隊海兵隊員10名が参加)とともに“島嶼奪還”のための“共同訓練”を実施した。

米比の水陸両用作戦共同訓練「カマンダグ2」

 アメリカ軍フィリピン軍による共同訓練である「カマンダグ」(海の戦士たちの連携)は2017年にスタートした。2016年まで長年にわたって実施されてきた米比共同水陸両用上陸作戦訓練(PHIBLEX)に代わる米比水陸両用作戦共同訓練である。

 2回目となる本年の「カマンダグ2」には、アメリカ海兵隊(第3海兵旅団、第31海兵遠征隊から抽出した部隊)、フィリピン海兵隊フィリピン空軍、佐世保を母港としているアメリカ海軍ドック型揚陸艦アッシュランド」(満載1万6883トン、海兵隊員400名と36輛のAAV7、あるいは4隻のLCAC、などを積載可能)、フィリピン海軍「ダバオ・デル・スル」(満載1万1583トン、海兵隊員500名と2隻の汎用揚陸艇などを積載可能)、それに陸上自衛隊の水陸機動団が参加した。

 アメリカ海兵隊フィリピン海兵隊、陸自水陸機動団それぞれの部隊は洋上の揚陸艦から「AAV7」(水陸両用兵員輸送軽装甲車)で海岸に上陸し、反対にAAV7揚陸艦に帰還する訓練が実施された。このようなAAV7による上陸訓練の他に、日米共同訓練では上陸部隊による大規模災害を想定したHA/DR活動訓練が行われた。また、米比共同訓練としては、上陸訓練やHA/DR訓練に加えて実弾を用いての対テロ掃討訓練も実施された。

 自衛隊は、揚陸艦から海岸線に到達する道具の1つであるAAV7を手にしたものの、AAV7や上陸部隊を積載して作戦目的地沖合まで運搬する揚陸艦をいまだ手にしていない。だからこそ、アメリカ海軍揚陸艦海兵隊とともに乗り込み、揚陸艦からAAV7を発艦させたり揚陸艦に帰還したりする訓練は、自衛隊にとってこの上もなく貴重な機会である。陸自水陸機動団は、海上自衛隊揚陸艦を装備するまでの期間、アメリカ海軍揚陸艦をはじめとする各国の揚陸艦に乗り込んで少しでも多くの経験を積みノウハウを身につけなければ、せっかく手に入れたAAV7が宝の持ち腐れとなってしまうであろう。

誤解されている水陸機動団

 フィリピンでの水陸両用訓練と違い、種子島での水陸両用訓練では、自衛隊揚陸艦を保有していないこともあり、海上自衛隊輸送艦おおすみ」からCRRC(戦闘強襲偵察用舟艇)と呼ばれるゴムボートに水陸機動団隊員たちが乗り込んで海岸に上陸したり、陸自輸送ヘリコプターから水陸機動団隊員とアメリカ海兵隊員たちが作戦目標地点に降下して、敵が占拠している飛行場を取り戻すという、いわゆる“島嶼奪還”作戦の訓練が行われた。

 日本での水陸機動団の訓練は「島嶼防衛」を標榜せざるを得ない事情がある。そもそも水陸機動団を発足させる時点で、尖閣諸島をはじめとする南西諸島方面への中国の軍事的脅威から日本の島嶼を防衛することを表看板に掲げているからだ。

 それだけではない。日本ではメディアや政府そして防衛当局自身の水陸両用作戦に対する認識の浅さから、「水陸両用作戦」を「上陸作戦」と混同し、「島嶼防衛」を「島嶼奪還」と混同してしまう傾向が極めて強い。

 そのため、水陸両用作戦を表芸とする水陸機動団は、あたかも「島嶼防衛」の中核部隊、「島嶼奪還」作戦に投入される部隊、「上陸作戦」のためのエリート部隊とみなされてしまいがちである。それだからこそ、水陸機動団の訓練は必ずといってよいほど“島嶼奪還”訓練という報道がされている有様だ。

これで「日米共同訓練」?

 さらにおかしなことには、陸上自衛隊220名にアメリカ海兵隊10名が加わって実施された種子島での“島嶼奪還訓練”を、日米同盟の強化状況を中国側に誇示する効果を狙った“日米共同訓練”とみなすような報道がなされている。だが、それは認識が甘いと言わざるを得ない。

 数百名単位のアメリカ海兵隊員とフィリピン海兵隊員それに米比双方の航空機や米海軍揚陸艦アッシュランド」とフィリピン海軍揚陸艦「ダバオ・デル・スル」が参加しての「カマンダグ」は名実ともに米比共同訓練といえる。しかし、わずか10名のアメリカ海兵隊員が参加しただけの訓練を“日米共同訓練”と称することには大きな疑問符が付く。

 ようやく水陸両用作戦に特化した水陸機動団が発足した日本と違い、かねてより中国海軍は海兵隊組織(中国海軍陸戦隊)の構築に努力を傾注してきた。そして、アメリカ海兵隊のドクトリンはもとより、現代の水陸両用作戦に関する知見もかなり蓄積していると考えられている。そんな中国海軍陸戦隊や中国海軍にとって、わずか10名しかアメリカ海兵隊員が参加していない“日米共同訓練”をもってして日米連携の強化を謳っても、威圧にはほど遠いことはもとより「米海兵隊の虎の威を借る」効果すら生じない。

“展示訓練”用の強襲上陸作戦

 何よりも問題なのは、水陸機動団による水陸両用作戦の訓練に「島嶼奪還」というタイトルを付す風潮である。

 現代の水陸両用作戦環境では、水陸機動団が島嶼防衛作戦に何らかの形で投入される余地はないわけではないが、AAV7やCRRCそれにヘリコプターオスプレイで敵が占領した島嶼に着上陸(すなわち強襲上陸)して敵占領部隊を排除し島嶼を取り戻す島嶼奪還作戦は、水陸両用作戦を「派手に宣伝する」ための展示訓練だけのシナリオといっても過言ではない。

 それにもかかわらず、水陸両用作戦の訓練を“島嶼奪還”訓練と繰り返し宣伝しているようでは、日本国防当局の水陸両用作戦に対する理解のなさ、というよりは日本国防当局には“まとも”な島嶼防衛戦略が欠落していることを中国軍当局や国際社会に向かってさらけ出しているのと同じである。

 日本国防当局そして日本のメディアは、「水陸両用作戦」と「上陸作戦」の混同、「島嶼防衛」と「島嶼奪還」の混同を排除する努力をすべきであろう(本コラム2018年4月12日島を奪われることを前提にする日本の論外な防衛戦略」、2015年7月16日島嶼防衛の戦略は人民解放軍に学べ」、2014年3月27日米軍から見るとアマチュア?日本の島嶼奪還シナリオが通用しない理由」など参照)。

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  島を奪われることを前提にする日本の論外な防衛戦略

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上陸する陸上自衛隊水陸機動団「AAV7」(写真:米海兵隊)