「仕事とは本当はすごく楽しいものだし、幸せなものだと思っています」──こう語るのは、『転職の思考法』(ダイヤモンド社刊)を著した「職業人生の設計」の専門家、北野唯我(きたの・ゆいが)さんです。

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「世の中のためになって、しかも自分が成長できて、共感できる仲間も得られる。冷静に考えて、仕事以上に幸せなものってあまりないんじゃないでしょうか」

 だけど現実には、世の中の多くの人は仕事に幸せを感じられていません。自分は今の仕事をずっと続けていてもいいのか? このまま今の会社にいるべきなのか・・・? 毎日モヤモヤとした気持ちで会社に通っている人は少なくないのではないでしょうか。

 北野さんは『転職の思考法』の中で、そうした悩めるビジネスパーソンに向けてキャリア設計の道しるべを示しています。

 転職という局面を題材にしていますが、その内容は転職を考えていない人にとっても大いに有用なはずです。本書に記されているのは、キャリア設計に関する長期的な視点からの「答え」。いわば、あらゆるビジネスパーソンが知っておくべき、幸せな職業人生を手に入れるための手引書と言ってもいいかもしれません。

 私たちはどのようにキャリアを設計すればいいのでしょうか? そして、どうすれば楽しく幸せに働けるのでしょうか? 北野さんに話を聞きました。

「いつでも転職できる」という確信を

──『転職の思考法』の中で、「すべての人がいつでも転職できる状態をつくりたい」と書かれています。なぜその思いを抱くようになったのですか。

北野唯我氏(以下、敬称略) 最近、過労死や過労自殺のニュースをよく見聞きします。僕は、ああいう事件は、会社と社員の間の認識の違いによって起きているのではないかと感じています。つまり、これまでの日本型雇用では、会社が社員に「雇用を最後まで保証しますよ」と約束していました。社員はその約束を信じていたので、ちょっと理不尽なことがあっても「分かりました、会社のために頑張ります」と働いていた。

 けれども今の世の中は、人間の寿命は延びる一方で、会社や事業の寿命はどんどん短くなっています。そうなると、会社はもう完全な雇用を守れません。社員との約束を守れないような状況になっているのです。

 今や、社員はいつ会社から「もう雇用を守れません」と言われるか分かりません。そんなときに備えて、社員はいつでも転職できるような自分をつくっておく必要があります。「いつでも転職できる」という確信があれば、自由に生きていくことができます。私は、すべての人がその自由を得られるよう支援したいと考えています。

大企業に行くべきか、ベンチャーに行くべきか

──本書によると「転職に必要なのは知識でも情報でもなく、どう選べばいいかという思考法だ」とのことですが、なぜ知識や情報よりも「思考法」なのでしょうか。

北野 例えば、引っ越しをするとき、いきなり「家賃〇〇万円で、△△駅から徒歩□□分」と決め打ちして物件を探す人は少ないですよね。まずは、そもそも自分にとって何が重要か、どんな場所に住みたいのか、オフィスからどれぐらいの距離なら許容範囲か、といった基本的な条件を設定して物件を調べていくはずです。

 転職やキャリア設計においても、そういう思考法の枠組みやフレームワークが必要です。特に会社や国が守ってくれないこの時代においては、思考法こそが自分を守ってくれる命綱になります。

──その思考法は自分の体験から導き出されたものですか?

北野 僕自身の体験から導き出したものもありますし、他の方々から学んだものもあります。これまでいろいろな業界のトップランナーの方々にお会いして、お話を聞いたり、対談をさせていただいたりしました。なぜ彼らは市場価値が高いのかを紐解いてみると、やはりきちんとした思考法に基づいて行動しているんです。

──思考法のある人は市場価値が高いということでしょうか。

北野 転職の際に思考法や大まかな方向性があれば、市場価値を高められる可能性が高い。成功確率を高められるということですね。

──例えば本書には「どこを選ぶか」の考え方として「成長産業に行くべき」とあります。

北野 いくら自分の技術資産や人的資産が高くても、そもそも衰退している業界に転職したら市場価値は高くなりません。伸びている業界の中からベストな会社を見極めるのが鉄則です。

──ネット上では、大企業に行くべきか、ベンチャーに行くべきか、という議論があります。会社の将来性という観点ではやはりベンチャーに行くべきですか?

北野 決してそんなことはありません。「大企業に行くべきか、ベンチャーに行くべきか」という議論は、実は「りんごか、オレンジか」ではなく「青いりんごが、赤いりんごか」みたいな話をしているのと同じで、本質的な部分を見ていません。

 大企業の中でも伸びている事業部や有望な新規事業はあります。一方、ベンチャーでも事業の成長が見込めないところや、自分の市場価値を高められないところはいっぱいあります。あくまでも、その業界や事業が伸びているかどうかを見るべきなんです。「大企業かベンチャーか」というくくり方はやめたほうがいいと思います。

──考え方次第で自分の市場価値を高められるし、自分が活躍できる場も見つけられる。思考法を見につけてこそ、“自由”を手に入れられるということですね。

大金持ちでも退屈で不幸な人がいる理由

──本書には、「人には自分に合った緊張と緩和のバランスが存在する。バランスが崩れていると幸せを感じられない」という話が出てきます。楽しく幸せに働くためのカギとして、非常に納得させられました。この法則は、どうやって導き出されたのでしょうか。

北野 元アスリートの為末大さんとトークイベントをやらせていただいたとき、事前に為末さんから「自分の人生を生きるとは何か」という難しい質問が来たんです。そのとき、人生を例えるものとして、僕の中で一番しっくりきたのがRPG(ロールプレイングゲーム)でした。RPGとは、プレイヤーが主人公をコントロールして敵を倒しながら、最終的な目的を達成するゲームです。実際の人生でも、自分の中の司令塔が自分の体をコントロールしながら、いろいろな出来事に対処していきます。RPGと一緒なんですね。

 じゃあ、RPGの面白さって何だろうと考えたときに、緊張と緩和だなって思ったんです。弱い敵と強い敵が交互に現れる。だから飽きないというわけです。

──成功して大金持ちになって、何でも思い通りになったけど、退屈で不幸せな人っていますよね。ああいう人たちは、緊張がないから不幸せなんでしょうね。

北野 本当にそうですね。僕は、「飽き」をどうやって乗り越えるのかって人類の壮大なテーマだと思っています。実はほとんどのイノベーションは飽きとの戦いから生まれているんじゃないかとさえ思っているんです。イーロン・マスクなんて典型的なんでしょうが、実際にイノベーターは常に自分を緊張状態に追い込んでいないと気が済まないような人が多い。

 ただ、世の中の人はみんながイーロン・マスクのようなイノベータータイプというわけではありません。緊張と緩和の最適なバランスは人によります。仕事においても人生においても、そのバランスをキープすることが重要なのではないかと思います。

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北野 唯我(きたの・ゆいが)氏 兵庫県出身。神戸大学経営学部卒。就職氷河期に博報堂へ入社し、経営企画局・経理財務局で勤務。その後、ボストンコンサルティンググループを経て、2016年ハイクラス層を対象にした人材ポータルサイトを運営するワンキャリアに参画、サイトの編集長としてコラム執筆や対談、企業現場の取材を行う