北朝鮮金正恩委員長は2014年2月、6月、そして2015年1月1日に平壌の孤児院の育児院、愛育院を訪れ、子どもたちの福祉に力を入れている様子を見せた。北朝鮮メディアは、金正恩氏の施設訪問の様子を大々的に報道し、「元帥様の人民愛」を宣伝してきた。

しかし、宣伝とは裏腹にその内実は極めて劣悪だ。半ば強制的に収容された子どもたちは、厳しい規律、虐待、食糧不足に苦しめられ、逃亡を余儀なくされた。

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逃亡した子どもの多くはコチェビ(ストリートチルドレン)となり、生き延びるため集団窃盗に走って不良化する者も少なくない。彼らを収容する中等学院という施設もあるが、そこでも逃亡は繰り返され、半グレヤクザへと「成長」してしまう例もある。

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このように孤児院、中等学院、養老院(老人ホーム)などの福祉施設は極めて劣悪な状態に置かれていたが、最近になってようやく改善の兆しが見えてきたと、デイリーNKの内部情報筋が伝えてきた。

この情報筋は最近、平壌郊外にある養老院を訪れたときの感想を次のように述べた。

「親戚に会いに郊外の養老院に行ってきたが、施設はかなりよかった。40人あまりの老人がそこで暮らしているが期待していた以上で、食事、衣類、寝具などもよかった」

食卓には白米、魚、野菜が出され、一般庶民よりマシだというのが情報筋の評価だ。男性らは釣りや将棋で暇つぶししたり、近所の農場で働いたりして老後を楽しんでいる。

収容施設の改善は他の地域にも見られる。

「自分が行った平城(ピョンソン)や新義州(シニジュ)など地方都市の愛育院、養老院の食事も以前と比べて大きく改善した」(情報筋)

しかし、中小都市の施設は依然として劣悪な状態だ。

黄海南道(ファンヘナムド)の内部情報筋によると、道庁所在地の海州(ヘジュ)にある各施設は建物が立派だが、食事や衣類の配給は劣悪だという。

政府は地方都市の施設にもコメ、肉、魚を供給しているが、職員に横流しされてしまうことが多い。それを防ぐために職員向けの食料配給も行っているが、根絶には至っていない。まともな給料をもらえていない職員が現金収入を得るには物資の横流しが最も手っ取り早いからだろう。

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また、黄海北道(ファンヘブクト)銀波(ウンパ)の養老院の管理者は、「暇つぶし」の名目で老人を動員し、近隣の農場でわら縄を綯(な)わせている。少しでも文句を言えば「行くあてもなくひとりで暮らしていたころよりはマシではないか、贅沢を言うな」と叱られるという。そしてわら縄の対価が、管理者の懐に入ることは言うまでもない。

以前は、収容された子どもたちが、臓器売買組織の餌食になったとの報道もあったが、そのような状況がいまだに続いているのか否かは定かでない。

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金正恩(キム・ジョンウン)氏