Photo credit: Games for Change on Visualhunt.com / CC BY-ND
Point
・VRにより、ホームレスの体験をすることで、他のメディアで体験する以上に、ホームレスに対する共感が増した
・安い住居の提供を求める署名への参加が、VR体験者では80%を越えていた
・VR体験は7分間だったが、共感は長期に渡り持続した

スタンフォード大学の研究者によって、仮想現実(VR)内で「ホームレスになる」という体験をした人が、ホームレスに対してより共感的になり、住居の提供を求める署名にサインする傾向が高まることがわかりました。この研究は10月17日の“PLOS ONE”に掲載されています。

Building long-term empathy: A large-scale comparison of traditional and virtual reality perspective-taking
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0204494

多くのVR推進派は、この没入型テクノロジー「究極の共感マシン」と認識しています。VRは、小説やテレビ、映画などの他のメディアよりも、人々が関わりを持つ助けとなる可能性があるからです。

しかし、この没入型テクノロジーによる人の態度の変化を確かめた研究はほとんどありません。これまでの研究では、結果はまとまりがなく、実験規模も大学生を中心にした小さなものでした。さらに、VRが共感におよぼす長期の影響については調査されたことがありません。

今回の新しい研究は、15歳から88歳までの560人の参加者を対象に、2ヶ月間に渡って行われました。参加者に体験してもらったのは、「ホームレスになろう」というホームレスを体験できる7分間のVRプログラムです。失職した時に起こり得る、複数の双方向的なシナリオを経験できます。その中には、家賃を支払うために、アパートにある持ち物のどれを売り払うかを選ばせる体験や、公共のバスで雨風をしのいだり、持ち物を盗まれないように守らなければならないシーンなどがあります。

実験の結果、VRを体験した参加者には、ホームレスに対する肯定的な態度の持続が見られました。「私たちの社会が、ホームレスに対して十分な援助をしていない」といった、意見への共感も多く見られました。この傾向は、物語を読んだり、VRと同じプログラムをPC画面で見たりした参加者よりも高いものでした。また、VR体験をした参加者は、安い住居の提供を求める請願書にサインする割合が増えました。その数は、2度行った実験の両方で80%を越えていました。他の体験をした人たちがおよそ60%台だったのに比べると圧倒的です。

研究が完了した後、実験を行ったフェルナンダ・エレーラ氏の元には、参加者から「ホームレスを援助する活動に参加するようになった」といった知らせが届いています。中には、ホームレスの人と親しくなり、後に住む家が見つかったという嬉しい知らせが届いたという人もいたようです。

 

テクノロジーの発展が人々の関わりを薄くしていると言われた時代もありますが、テクノロジーは使い方によっては、人々をより強くつなぐこともできるのです。VRが一般に普及し始めてからそれほど経っていませんが、新たな活用法が見出され、人々の感情的な生活が豊かになり、困っている人達に助けの手が差し伸べられる、そんな社会になるといいですね。

 

 

 

via: Science Daily/ translated & text by SENPAI

 

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