平均視聴率20%を超える大ヒットシリーズ『Doctor-X~外科医・大門未知子~』の米倉涼子が木曜21時枠に帰ってきた! 先週からスタートした新ドラマ/『リーガルV~元弁護士・小鳥遊翔子~』は、米倉が黒い噂が絶えない正体不明の元弁護士・小鳥遊(たかなし)翔子を演じる。

第1話の視聴率は15.0%と上々のスタート。これも米倉涼子テレ朝ブランドの賜物だろう。だが、正直なところ、第1話はそれほど褒められたものではなかった。

7人の弁護士事務所VS詐欺師&ストーカー&完全悪女
大ヒットシリーズの後釜となる作品ということで、豪華なキャストが勢揃いした。主人公・小鳥遊翔子が開いた弁護士事務所に集うのは、翔子に「ポチ」と呼ばれる若手弁護士・青島圭太役の林遣都、ヤメ検・大鷹高志役の勝村政信、元ストーカーのパラリーガル・馬場雄一役の荒川良々、大金横領犯のパラリーガル・伊藤理恵役の安達祐実、現役ホストのパラリーガル・茅野明役の三浦翔平、元大学教授の初心者弁護士・京極雅彦役の高橋英樹という面々。

林遣都は『おっさんずラブ』のヒットでの抜擢、勝村政信は『ドクターX』での名脇役ぶりが買われての登板だろう。何でも情報を集めてくる三浦翔平と見た目は重厚なのに無邪気な高橋英樹は、『リーガル・ハイ』の田口淳之介と里見浩太朗をちょっと思い起こさせる。

敵対する弁護士事務所に集うのは、大物弁護士の天馬壮一郎役の小日向文世、若きエリート弁護士・海崎勇人役の向井理、野心家の弁護士・白鳥美奈子役の菜々緒という顔ぶれ。

『コンフィデンスマンJP』の詐欺師リチャード、『きみが心に棲みついた』のサイコなストーカー・星名、『サイレーン 刑事×彼女×完全悪女』の完全悪女・橘カラが集まったと思えばわかりやすいキャスティングである。

小鳥遊翔子と古美門研介
リーガルV』は『ドクターX』のもじりのようなタイトルだが、『リーガル・ハイ』を少々意識している部分があるかのように見える。特に主人公の翔子が「弱者を救う」「正義」などと口にはするがただの方便であり、実際はお金にしか興味がないというところが、多額の報酬と法廷での勝利だけを追い求める古美門研介と共通している。

ただし、徹頭徹尾クレージーだった古美門と比べると、翔子は「法律を利用してズルをする人間や、法律に甘えようとする人間を許さないという矜持もあり、本当に困っている依頼人を見分ける眼を持つ」(公式サイトより)など正義感がかなりあるようだ。

ドクターX』の大門未知子はフリーランスの一匹狼だったが、今回の小鳥遊翔子は仲間とのチーム感を前に出している。翔子は弁護士資格を剥奪された「元弁護士」であり、自分自身は法廷に立つことができず、必然的に仲間を頼らざるを得ないという設定になっている。特に「ポチ」こと青島圭太とのコンビがストーリーの中心になるだろう。

大門未知子との差別化は米倉涼子自身、大いに意識していたようで、『ドクターX』のイメージを変えるために髪を20センチ以上切ったと明かしている(公式サイト)。近年の水谷豊が『相棒』以外の作品に出演するとき、いつも過剰な役づくりをしてしまうこととちょっと似ているような気がする。

鉄道オタクというわかりやすいキャラクターが与えられているが、第1話の法廷で鉄道の専門家として証言するという展開はちょっと強引だった。時刻表トリックを解いたりするほうがよかったのに。

痴漢冤罪おっさん好みの題材
第1話のテーマになっていたのは痴漢冤罪だった。もう少し詳しく言うと、痴漢冤罪を装って大企業の特許に関するプロジェクトチームのリーダーを務めていた安田(児嶋一哉)を周囲が陥れるというストーリーである。

男が被害者となる痴漢冤罪は非常におっさん受けのするテーマである(このテーマに強く反応する若い男性もいると思うが、便宜上おっさんと呼ぶ)。おっさん向け雑誌やメディアではよく痴漢冤罪の特集が組まれてその恐ろしさが喧伝されており、読者のおっさんたちが賛同のコメントを大量に寄せていたりする。しかし、実際にははるかに多い女性の痴漢被害についてはスルーされることが多い。

安田を陥れる真央(『劇場版コード・ブルー』では余命わずかな患者役、『手裏剣戦隊ニンニンジャー』でモモニンジャーを演じていた山谷花純)は、清楚な女子大生のふりをしていたが、実はホスト狂いのキャバ嬢だった。キャバクラ嬢=犯罪に手を染めかねない存在と描いている時点でおっさん目線過ぎるのだが、彼女にはドラマが一切なく、ただ目先のお金(50万円というはした金だ)欲しさに男たちに言われるがまま、痴漢冤罪を起こす女性として描かれている。非常にステレオタイプ痴漢冤罪の犯人像だと感じる。

クライマックスの一つである法廷シーンでは、徹底的な彼女の供述の虚偽を暴くために費やされた。「有罪率100%」の検事・片山(矢島健一)らはうっすらと批判されてはいるものの、基本的に視聴者のヘイトは真央一人に向くように仕向けられている(翔子があからさまに憎悪の視線を向けている)。最後は供述の嘘が暴かれ、真央は傍聴席で泣き崩れて謝罪するが、彼女のその後は描かれない。

驚いたのは痴漢の再現シーンがあったことだ(虚偽の供述が元だが、忠実に映像化している)。しかも、けっこう執拗な描写だった。児嶋一哉が実際に触っていないのは彼への配慮だろうが、山谷花純のほうは臀部をしっかり触られている。これは何の必要があったのだろう? ついでに麻央の正体を突き止めるため、キャバクラに潜入しようとした米倉涼子が25歳だと言い張るという年齢ネタで笑いを取ろうとするシーンもあった。

何が言いたいのかというと、このドラマは徹底しておっさん目線で作られているのだなぁ、ということだ。痴漢冤罪をテーマに選んだのもおっさん受けがいいから。痴漢シーンをダイレクトに入れちゃうのもおっさん好みだから。米倉涼子の年齢ネタもおっさんしか笑わないだろう。反面、痴漢冤罪の黒幕だった安田の同僚・富樫(安井順平)には「才能への嫉妬」という(薄っぺらいものの)それなりのストーリーが用意されていた。これもおっさん目線だと思う。

米倉涼子だけでなくスタッフも『ドクターX』をかなり意識していたと思うが、『ドクターX』の大門未知子が並み居るおっさんたちを向こうに回して活躍して視聴者をスカッとさせていたのに対し、『リーガルV』は視聴者のおっさんたちに媚を売る方向へとシフトしてしまったように見える。

オフィシャルサイトには「スキャンダラスな“元”弁護士が弱者を救う!?」というキャッチフレーズがある。痴漢冤罪の被害者もたしかに弱者ではあるし、痴漢冤罪を描くのが悪いというわけではないのだが、最大の弱者である痴漢被害者に目線が届いていないという時点で、端的にセンスがないし、ヒネリもないと感じたのが正直なところだ。

第2話ではパワハラ上司、斉藤由貴に関する裁判についてのお話。巻き返しなるか? 今夜9時から。
(大山くまお

リーガルV~元弁護士・小鳥遊翔子~』
木曜21:00~21:54 テレビ朝日系
キャスト:米倉涼子向井理林遣都菜々緒、荒川良々、内藤理沙、宮本茉由、安達祐実、三浦翔平、勝村政信、小日向文世高橋英樹
脚本:橋本裕志
演出:田村直己(テレビ朝日)、松田秀知
音楽:菅野祐悟
プロデューサー:大江達樹(テレビ朝日)、峰島あゆみテレビ朝日)、霜田一寿(ザ・ワークス)、池田禎子(ザ・ワークス)、大垣一穂(ザ・ワークス)
制作著作:テレビ朝日

イラスト/Morimori no moRi