10月よりスタートしたり『ブラックスキャンダル』日本テレビ系)。仕組まれた嘘のスキャンダルで芸能界を引退した女優が顔と声を変えて復讐するドラマだが、復讐劇と同時に“芸能界の闇”へ切り込む内容にもなっている。(関連)

第1話が扱ったのは「枕営業」で、10月11日の第2話が取り上げたのは「薬物」。しかも、それに「2世」を絡ませているからイケイケだ。

俳優の棚城健二郎(波岡一喜)は5年前、ありもしない藤崎紗羅(松本まりか)との不倫関係を認め、紗羅を地獄の底に突き落とした男。現場で横柄なふるまいを見せる健二郎に対し、その父である棚城正則(山下真司)は「芸能界のお父さん」と呼ばれるほど好感度の高い俳優だ。
健二郎はドラマで共演する阿久津唯菜(松井玲奈)と芸能事務所マネージャー・矢神亜梨沙(山口紗弥加)を馴染みの会員制バーへ誘った。健二郎は店内でカバンから覚醒剤と思われる小袋と吸引器具を取り出した。

「2世俳優」と「薬物」のセット。どうしたって、三田佳子の次男・高橋祐也を連想せずにいられない。どうやら今作、実際にあった芸能ネタを毎週モチーフにしていくようだ。グイグイ行く。

2世の甘さを責める山口紗弥加がガチ
薬物は論外だが、お酒も人の脇を甘くさせる。紗羅が手術で顔と声を変えて亜梨沙になったとは露程も思わない健二郎は、5年前の会見で紗羅との不倫を認めた真相をゲロった。
「あれ、やらせだったの。事務所でお願いされちゃったからね、仕方なくさぁ不倫相手を演じたの」
「オタクの事務所の勅使河原社長(勅使河原友和/片岡鶴太郎)から1億円もらったの」
言っちゃいけないことを本人の前で言いまくる健二郎。お酒による失敗も昨今の芸能界のトレンドだ。

今回、亜梨沙が選んだ復讐法はスレスレである。健二郎が過去に出演した作品のDVDを集め、ドラマやCMのセリフから音声を抜き出してつなぎ合わせる。結果、「クスリある? 効くんだよね〜。マジ、あれ、最っ高にテンション上がるわぁ〜! も〜う、たまんねえ〜!」と健二郎が悶えている音声が完成した。

亜梨沙は正則を呼び出し、音声データを聞かせて脅迫する。
「親子共々、引退してください」
「音声は公開します」
そこに棚城親子のマネージャー・保田静江(朝加真由美)が現れ、公開を取りやめるよう懇願した。
「正則さんが助かる道が一つだけあります」
亜梨沙は交換条件を出した。それは正則が謝罪会見を開き、健二郎の覚醒剤使用を認めること。そして、その場で健二郎の芸能界引退を発表することだ。数日後、本人へ知らせないまま謝罪会見は行われた。

この会見そのものが、芸能人がトラブルに直面した際の対処法の典型例である。先手を打って謝罪することで、誠実さをアピールする。これからの芸能活動に支障をきたさず、あわよくば同情票をゲットする。今後を考えると、息子を売るのが最善の策なのだ。そもそも、真っ先に謝ってダメージを最小限に抑える作戦は、5年前に健二郎が選んだ手でもある。その時、健二郎に売られたのが紗羅(亜梨沙)だった。

会見から間もなく、健二郎は逮捕された。追い詰められた健二郎からは“甘えの言葉”の数々が飛び出た。
「俺はずっと不幸だったんだよ! 子どもの頃からずっと『棚城正則の息子だ』って言われて、学校でいじめられたこともあった。芸能界に入ってからもずっと親父に比べられて……。親父のせいで、親父のせいで俺はずっと惨めな思いをしてきたんだ!」
なのに、警察に取り押さえられる時は「離せよ! 俺は棚城正則の息子だぞ!」と絶叫するのだから、始末に負えない。

そんな健二郎に、亜梨沙は冷たく言い放つ。
「才能もないのに親のコネを使って芸能界に入って、うまく行かなかったら親のせい? あんた、本当にダサいわぁ(笑)。マジ、ダサい」
「芸能界にはチャンスすらもらえない人もいるの。けれど、お前は親のおかげで色んな仕事を得ることができた。それを自分の才能だと勘違いして……いつまで経っても親のスネとコネから卒業できない、無様な中年反抗期。そんなお前が居座る場所は、芸能界にはないんだよ……!」

2世というだけでキャスティングされ、座席が用意されるケースをよく見る。彼ら彼女らにアドバンテージがあることは否定できない。亜梨沙のセリフはいちいちガチなのだ。亜梨沙役を務める主演の山口紗弥加は、今作についてこんな発言を残している。
「脚色され、ファンタジーな部分もありますが、私自身が、長年身を置いている芸能界のお話。この25年の経験をここで使わなくてどうする、と。亜梨沙は自分自身と捉え、ドキュメンタリーを撮っていただくような覚悟で臨みたい」(クランクイン!/10月4日

「干されて消えて」と言ってる割にぬるい
少し、苦言を呈したい。『ブラックスキャンダル』が、復讐劇というよりも勧善懲悪のドラマになりかけているのだ。“復讐に燃える狂気の女”ではなく、亜梨沙が喪黒福造みたいになってしまっている。

復讐の内容もぬるい。共犯のような関係性の正則に救いの道が用意されているし、出所後の健二郎には芸能界復帰の芽があるはずだ。空白を置けば前言撤回をいとわないのが芸能界なのだから。「一滴残らず、地球上から干されて消えて」と言ってる割に、干し切ってない。何滴も残っている。前作『ブラックリベンジ』に比べ、全てにおいてパンチが効いてないのだ。

復讐を果たすタイミングで、亜梨沙がいつも正体を明かしているのも気になる。なぜ、そのようなことを? いつかどこかから秘密が漏洩してしまわないだろうか。古巣の芸能事務所に潜り込むため、整形して声まで変えたというのに。
ここからは、筆者の予想であり希望。勧善懲悪な復讐劇のままならば、このドラマには飽きが来る。その前に亜梨沙に危機が訪れるはずだ。「週刊星流」の記者・巻田健吾(片桐仁)は、一介のマネージャーである彼女を追跡している。素性を語る口の軽さから、亜梨沙につまずきが訪れる?


ちなみに、今夜放送の第3話が扱うのは「アイドルとマネージャーのスキャンダル」だ。人気グループ「ミルキーロード」のミカ(田中真琴)が、マネージャーの犬飼遊真(森田甘路)と関係を持ち、妊娠してしまうという内容。アイドルとマネージャーによる妊娠騒動も“芸能界あるある”の一つである。
“芸能界の闇”に切り込む『ブラックスキャンダル』、今夜のテーマはかなり期待できそうだ。
(寺西ジャジューカ)


脚本:佐藤友治ほか
監督:長沼誠ほか
音楽:井筒昭雄
主題歌:「ドグマン」(ゲスの極み乙女。
チーフプロデューサー:岡本浩一
プロデューサー:福田浩之、中間利彦、茂山佳則(AX-ON)、西紀州(AX-ON)
制作協力:AX-ON
制作著作:読売テレビ
※各話、放送後にHuluにて配信中

『月刊山口紗弥加』新潮社