ピッチ内外で注目を集めるのはさすがスターの証か。

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 ユベントスに総額3億5700万ユーロもの投資を決断させた世界最高のアタッカーは、ピッチでも大いなる存在感を示し、チームの首位に貢献。またユニフォームは発売1日で52万枚を売り上げるなど収益面でも価値を高めている。

 一方で、過去「性的暴行」があったとして訴えられこちらでも大きな注目を集めた。

 スター獲得にあったユベントスの計算、そして今後の対応とは。(JBpress)

ユベントスにあった逆転の発想

 先月29日、トリノのアリアンツ・スタジアム。ユベントスは昨季ホームで敗戦を喫したナポリを3対1で破った。その3ゴールすべてに、クリスティアーノ・ロナウドが関わっていた。 

 20分、左サイドに流れて相手DFのクリアミスを奪う。鋭いフェイントで置き去りにした後で、そして利き足ではない左足で、正確なクロスをクロアチア代表FWマリオ・マンジュキッチに合わせる。後半早々にはロナウドの強引なミドルシュートのこぼれ球が得点につながり、76分には、CKを打点の高いヘディングで落とし駄目押しのゴールも演出した。

 昨シーズンの優勝争いで肉薄された相手に対し、差を見せつける圧勝。CR7の有無が、そのまま差となったというわけだ。チームメイトも、そんな存在を喜ぶ。1点目のアシストの際は、真っ先にロナウドを囲む輪ができていた。

 移籍金は1億ユーロ、その後も4年間毎シーズン3100万ユーロの年俸を支払うなど、規格外のタレントはコストも破格だ。それをトリノの街に呼べたのは、アンドレア・アニェッリ会長以下経営陣の野心があってこと。ロナウドの存在を使ってマーケティングを強化し、投資額の回収と収入増を同時に図るという逆転の発想だった。

 ユベントスは近年、経営の優良化に成功していた。

 コスト管理に定評のあるジュセッペ・マロッタGMのもと、移籍金ゼロ選手の獲得やレンタルで支出を抑え、市場価値の上がった選手を売却することで多額の収入を得る。こうした(あるいは中堅クラブが取りそうな)ビジネスモデルを主体に、健全経営と戦力の増強を両立させた。

 2011年からは近代的な専有スタジアムを運用し、入場料収益も飛躍的に改善させていた。だがそれでも、欧州で比較すればレアル・マドリーバルセロナ、プレミア勢やバイエルン・ミュンヘンなどのメガクラブとは大きな差ができていた。それは戦力面のみならず、クラブの経済面でも然りだった。

 例えば過去5年間で2度、欧州最高クラブを決めるCLの決勝に出場したが、対戦相手となったクラブの総収入はいずれもはるかに上。2014/15シーズンのバルセロナとは、ユーベの3億2900万ユーロに対して5億6000万ユーロと2億ユーロ以上の差が、2016/17シーズンの決勝で対戦したレアル・マドリーとも、4億ユーロに対し6億7000万ユーロと2億7000万ユーロの差ができていた。ユーベは両方ともに完敗を喫したが、身も蓋もない言い方をすれば経営規模通りの結果となったというわけだ。

ロナウド獲得に動いた「マーケティング」部門

 収入の大きな差は主に、スポンサードや商品化権収入などの商業収入によって生じていた。2016/17シーズン、レアル・マドリーは約2億9600万ユーロを商業収入で稼いでいたのに対し、ユベントスはその半額の1億4000万ユーロに留まっていた。ここを強化しなければ、資金力の差を埋めることはまず不可能になる。ユーベは比較的弱かった海外マーケットを開拓すべく、17年からクラブのロゴやエンブレムをモダンなデザインに変え、ブランドイメージの構築を目指してはいた。だが、メガクラブの海外での知名度は遥か上を行く。

 UEFA欧州サッカー連盟)がクラブの経営状態に厳しく目を光らせる今、「クラブが稼いだお金で選手を買うべき」というのが絶対的なルールとなっている。以前のように金満オーナーが直接資金を補充をすることは認められていないし、そもそもユーベの親企業グループのFIAT(現フィアットクライスラー・オートモービルズ)は以前からクラブを独立採算で運営させている。新戦力の補強のためには、現有戦力を売って収入を手にする必要にも迫られていた。

 とはいえ、ただコツコツと切り盛りをするだけでは、彼らとの差は開くばかりになる。そこでアニェッリ会長は賭けに出た。SNS上だけで1000億円以上の市場価値を生み出すとされるC・ロナウドを獲得し、商業収入の拡大を画策したのだ。

 選手に移籍の意思があるとききつけるや、マーケティング部門を介入させ、将来的な営業収入という観点でロナウド獲得の損益を計算させた。

「強化部門とマーケティング部門がともに新戦力の査定を行ったのは、クラブの歴史の中でも初めてのケースだった」と、アニェッリ会長は英ファイナンシャル・タイムズ紙に語っている。獲得がまだ噂にもなっていなかった6月末、アリアンツ・スタジアムのシーズンシートの価格設定を3割増にすることを発表したのも、CR7獲得に基づくビジネスプランが存在していたことの証左だ。ファンの間で物議を醸したが、パリ・サン=ジェルマンがネイマールの獲得後に3割収入をアップさせたというデータを横目で見ていればこその数字だ。

 そして1億ユーロの移籍金を叩いてロナウドを手に入れた彼らは、その後の3ヶ月にして目覚ましい経済効果を上げた。年間シートはたちまちソールドアウト。シーズンに突入しても、毎試合で昨季の2〜3割増となる270万ユーロのチケット売上を記録している。オフィシャルユニフォームは当初の年間予定分を売り切り、現時点で移籍金の半分の収入を得たとの報道もある。

 さらには6月の時点で1株0.66ユーロだったクラブの株式も、ロナウド獲得後に倍増。時価総額も株式上場後初めて10億ユーロを突破し、9月半ばに株価は1.75ユーロにもなった。

「今後の戦いは収益面での勝負」と言ってはばからないアニェッリ会長は、今月1日にある重要な人事を発表した。共同収益責任者としてグローバル・パートナーシップや商業収益管理を統括していたジョルジョ・リッチ氏を、収益部門のチーフへと格上げすることを発表した。その一方で堅実経営を是とし、ロナウド獲得にも難色を示していたといわれるマロッタGMがクラブを離れることも明らかになった。シェアホルダーやスポンサーへの訴求力を重視する新たな経営路線を、今後も突き詰めていくいう意思の表れである。

スキャンダルにもユベントスはロナウド全面支持を表明

 ただ当然ながら、投資や投機は予想されるリターンが返って来なければリスクになる。その上で、C・ロナウド関連のビジネスを動かす人々にとっては無視のできないことが起こった。アメリカ在住の女性が、2009年6月にラスベガスでロナウドから性的暴行を受けたとネバダ州地方裁判所に申し立てを行い、ラスベガス警察が捜査を再開したという一件だ。

 ナイキやEAスポーツといったロナウド個人に関係するスポンサー企業が「深い憂慮」を口にした一方、ユーベはロナウドの立場を擁護する姿勢を明らかにした。

「この数カ月間に偉大なブロ精神と忠誠心を見せてくれており、ユベントスに属する者は皆そのことを賞賛している。10年前に起こったとされる出来事を前にしても、その評価は変わらない」

 5日、公式ツイッター上でそのような声明を出した。

「とてもナーバスな時期だが、ロナウドはただ良い活躍をすることに集中している。ロナウドが守られるのは正しいことだ」とマッシミリアーノ・アッレグリ監督も語る。昨年に脱税問題が発覚した際に沈黙を保った前所属のレアル・マドリーとは対照的な姿勢だ。そもそも、捜査対象に上がったことが即有罪を意味するものではない。

 ただシェアホルダーの意向という移ろいやすいものに収益の命運を委ねているのは、ユーベも同じなはず。5日の株価は9.92%もの大幅な下落を記録した。その中でロナウド本人を、また彼の立場に立つチームメイトらを擁護する姿勢を貫けるのか。クラブにとっても試練の時である。

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