Point
・父親の喫煙は、その子どもや孫に認知障害を引き起こす要因になることが判明
・父親の喫煙が引き起こす子世代以降の認知障害は、受動喫煙などの環境的因子ではなく、脳の発達を司る精子内の遺伝子が後成的に変更されることが要因
・これまでは主に妊婦だけに禁煙が求められていたが、今後は父親にも同じように禁煙を呼び掛けることが必要

愛煙家にはかなりの悲報です。妊婦さんたちはよく禁煙が要求されますが、父親はどうでしょうか?

父親の喫煙が、子どもだけでなくその後に続く世代においても認知障害を引き起こす可能性が、最近の研究で明らかになりました。研究を行ったのはフロリダ州立大学のPradeep Bhide氏らです。研究内容は、オープンアクセスの雑誌PLOS Biologyに掲載されました。

Nicotine exposure of male mice produces behavioral impairment in multiple generations of descendants
https://journals.plos.org/plosbiology/article?id=10.1371/journal.pbio.2006497

以前より母親の喫煙は、子孫にADHDなどの行動障害を引き起こす危険因子になるといわれてきましたが、同じことが父親にも当てはまるかどうかは明らかになっていませんでした。その理由の一つは、ADHDの遺伝的素因などの遺伝的因子と、たばこの煙への直接暴露などの環境的因子を区別することが難しいことです。この問題に対処するため、Bhide氏らはあるマウス実験を行いました。

まず、雄のマウスに、精子を生産する時期の12週間、濃度0.02パーセントのニコチン水を飲み水として与え続けました。その後、ニコチンを摂取したことのない雌と交配させ、親マウスと子マウスの歩行活動、作業記憶、注意などを調査。その結果、雄の親マウスの認知行動には問題が見られませんでしたが、マウスでは雄雌ともに多動、注意欠陥、認知柔軟性(思考や行動を状況にあわせて柔軟に調整する能力)の障害などが観察されました。

さらに、子マウスニコチンを摂取したことのない相手と交配しても、雌の子マウスから生まれた雄の孫マウスに、認知柔軟性の顕著な障害が見られました

また、最初にニコチンを与えた雄の親マウスの精子を調べたところ、脳の発達や学習に重要な役割を果たすドーパミンD2受容体遺伝子を含む複数の遺伝子のプロモーター領域のDNAメチル化が後成的に変更されていることがわかりました。これは、こうした遺伝子の変更が子孫の認知障害を引き起こす可能性を示唆しています。雄のマウスニコチン摂取は、精子のDNAを書き換え、こうして何世代にもわたって子孫の行動を変化させてしまうのです。

ニコチン摂取や喫煙がさまざまな後成的変化をもたらすことは過去の研究でも明らかでしたが、注目すべきは、それが母親の喫煙にだけに限るのものではないこと、そして父親の喫煙による子や孫への悪影響が受動喫煙などの環境的因子によるものではなく、遺伝子そのものが要因だったということです。「今回の発見は、母親だけではなく、父親の喫煙が子どもたちの健康に与える影響について、さらなる研究が必要なことを表しています」と、Bhide氏は研究の焦点を広げることの重要性を訴えています。

 

これからは、妊婦さんだけではなく、お父さんたちにも公平に禁煙を呼び掛けること大事になってくるかもしれません。

 

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viamedicalxpress, journals.plos/ translated & text by まりえってぃ

 

父親の喫煙が「遺伝的に」子や孫の認知障害を引き起こすという研究