新感覚のホラー映画イット・フォローズ』(14)のデヴィッドロバート・ミッチェル監督が放つ最新作『アンダー・ザ・シルバーレイク』(公開中)が公開された。舞台はLAの北西部に位置するシルバーレイクアンドリュー・ガーフィールド演じる主人公のサムは、ひと目惚れした隣人・サラの失踪をきっかけに暗号や都市伝説の知識を駆使して彼女の行方を追う。本作の脚本にはサブカルチャーや暗号解読、都市伝説などをふんだんに盛り込まれており、観るたび発見がある。そんなリピート欲を誘う本作について、都市伝説やオカルトにまつわるトークを様々なメディアで配信している若手放送作家コンビ、都市ボーイズの岸本誠と早瀬康広が徹底解説!劇中に登場する様々な謎について、独自の見解を語ってくれた。

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※物語の核心に触れる内容を含みます。映画鑑賞後にお読みいただくことをオススメします。

■ 主人公の自堕落な生活の原因はコレ?早逝した大物スターたちの総称 “27クラブ”

岸本「アンドリュー・ガーフィールドが演じている主人公・サムの部屋に、カート・コバーンのポスターが貼られているんです。それを見て、27歳で亡くなった才能あるミュージシャンやアーティスト、俳優たちの総称“27クラブ”を暗示しているのかなと思いました。冒頭、カフェの窓を拭いている女の子が着ていたのがドアーズのジム・モリソンのTシャツで、そのあとにポスターも出てきたので、もしかして…と。2人とも“27クラブ”のメンバーだと言われているんです」

早瀬「カート・コバーンが薬物を服用し、ショットガンで自分の頭を撃ちぬいて亡くなっているのが見つかったあと、彼の母親は『だから私は“27クラブ”に入るなと言ったのよ』と言っていたらしいです。2011年に亡くなったエイミー・ワインハウスも『“27クラブ”に入るのが怖い』と、まるで本当にそんなクラブがあるかのように言っていたとか」

岸本「LAには有名になってやろうという人たちが集まってきますが、27歳までになにも成し遂げられなかった人が “自分は選ばれなかった人間なんだ”と感じてしまう。おそらく27歳を超えているサムも夢に破れ、“27クラブ”に選ばれなかった虚無感から、自堕落な生活をしていたんじゃないかな」

■ 音楽業界を牛耳る男と関係する“フクロウのキス”

早瀬「劇中、シルバーレイクについての陰謀論を唱えていた都市伝説マニアの男は『剥製のフクロウの仮面をつけた裸の女性の姿をしていて、男性、女性問わずに誘惑したのち、寝ている間に殺す魔物“フクロウのキス”は、古くから続くアメリカのカルト集団の一員ではないのか』と言及していましたが、アメリカの先住民のあいだでは、もともとフクロウは死の象徴として忌み嫌われていたんです。また、歴史的事実を多く言い当てたと言われているホピ族という部族がいるのですが、彼らの意思を継いでいるカルト集団はアメリカにたくさんいるので、“フクロウのキス” はそのなかの1つなのではないかなと」

岸本「『“フクロウのキス”がすべてを統治している』という台詞や、1ドル札に隠されたフクロウの絵柄などを見て、“フクロウのキス”は秘密結社“イルミナティ”のことを暗喩しているのかなとも思いました。しかも、のちのち出てきた“音楽業界を牛耳る老人”という怪しい男にも関係がありそうなんですよね」

早瀬「“27クラブ”のメンバーは、悪魔に魂を売った代わりに売れたというようなことはよく言われています。ある1人のものすごいプロデューサーがいて、その人が“悪魔”なんだと。その人と契約しないと音楽業界では大成しないというような具合に」

岸本「それが本作に出てきた“音楽業界を牛耳る老人”のことなのかもしれませんね。彼と“フクロウのキス”も何らかの関係がありそうでしたが、明確な答えは出なかったですね(笑)。ちなみに、パッヘルベルの『カノン』で使用されたコード進行カノンコード”を使うと曲が売れるという都市伝説があります。それにいちはやく気付いた人がいて“カノンコード”をうまく使ってヒット曲を生みだしてると言われているんですよ」

■ 地下帝国への案内人…アヤシすぎる“ホームレスの王”

岸本「数々の謎を解いたサムを地下帝国に誘う“ホームレスの王”が興味深かったですね。海外や日本でも、僕らよりも稼いでいるホームレスはいっぱいいるんです。彼らの中には、もともと相当なお金持ちの人もいて、あえてそういう生活をしている。彼らに相談をしに来る大企業の重役なんかもたくさんいると聞くので、その部分は本作にもリンクしているなと思いました」

早瀬「本作に出てきた“ホーボーのサイン”というのも実在します。“ホーボー”は、もともと19世紀の終わりから20世紀初頭の不景気だったアメリカで、働きながら各地を渡り歩いた労働者たちを指す言葉。日本語の“方々へ行く”が語源になり、転じて放浪者という意味になったという説もあります。アメリカの鉄道を作るために集まった労働者たちなので、本作でホーボーが地下帝国に詳しいのも納得です」

岸本「サムや失踪したサラの部屋、トイレの中や街の壁にもホーボーの暗号が描かれていますよね。次にその場所を訪れた仲間のために、『狂犬がいるから気をつけろ』などと暗号を残す文化は、本当にあります。日本でも『誰が何時にいる』という印を残すなど、空き巣に使用されていたりします。だから、自分の家に謎のマークが刻まれていたら、ねらわれている可能性があるかも知れません」

大富豪やセレブしか行けない!?秘密の地下帝国

早瀬「有名な都市伝説で、ロサンゼルスには地下帝国のような巨大施設があると言われているものがあります。5000年ほど前に作られた施設で、流星群が地球に落ちてくることを恐れた当時の権力者たちが、シェルターとして建設したと言われています。一部の権力者しか入れない施設内には金銀財宝が保管されており、あらゆる災害や攻撃から守られているとか。でも、未だに誰も見つけることができていないんです。ところが、“世界最高の起業家”と謳われるイーロン・マスクが、『地下にトンネルを作って、車を移動させる施設を作りたい』と言って、最近ロサンゼルスの地下を掘りまくっているんです。それはフェイクの理由で、本当は地下帝国を探しているんじゃないかと言われています」

岸本「サムが見つけた大富豪と美女たちが、“アセンション(上昇)”という言葉を使いますが、アセンションという言葉自体が最近『精神を向上させて、次の段階へ行こう』といった意味で使われだしています。まさに本作で描かれる大富豪たちの目的とも合致します。実際、海外セレブにはスピリチュアルやオカルトにハマる人が多いと言われています。少し前に流行ったものでは 、自分の身体から幽体離脱した者同士が幽体の状態で交わるというもので、精神の融合が行われるため、通常の性交の何万倍も気持ちが良いと言われていて、結構信じられているんです。」

早瀬「ヨーロッパには金持ちしか住めない島があり、大富豪たちがそこに家を建てまくっていて、誰にも干渉されないところで静かに隠居しようとしているという説もあります」

岸本「劇中にもありましたが、Google Earthで検索しても表示できない場所は本当にあります。私有地で表示できないということ以外に、山の中にポツンと謎の黒い一角が隠されているところもあるんです」

早瀬「日本でもある場所に向かおうとすると、車のナビが拒否してくる場所があります。通常、ナビの指示には“進む”しかないですが『バックしてください』、『行かないでください』と指示してくるんです。そういうリアルなネタも満載です」

■ 一部の人に向けたメッセージ…街にちりばめられた暗号

早瀬「失踪する前日、夜空に打ち上げられた花火を見てサラの様子が変わるというシーンがありますが、あれは彼女だけにわかる連絡方法だったんじゃないのかな。実際に、一部の人にだけにしかわからない連絡方法はいろいろあります。例えば、街の大型モニターに動画を流し、そこに映っている人物の服のボタンが2個外れ、3個留まっていたら、『23日に会合がある』ということを伝えている…とか」

岸本「一般の人が見ても、なんの広告なのか全然わからないようにね。最近も新しい秘密結社“ノンフェイス”がSNSを中心に話題になりました。謎のシンボルマークが急に街中に貼られ始め、見つけた人たちが出どころを調べていくと、あるサイトにたどり着くんです。そこでは怪しいグッズがいっぱい売られているんですよ。さらに辿っていくと、『ある日付、東京のある場所で会合を行っています』というメッセージに行き着いたという話もあります」

■ マニアなら主人公よりも先に解ける?都市伝説&謎解きのススメ

岸本「日頃から都市伝説を追ったり、暗号解読をしたりしているダメ男でオタクな主人公には、すごく感情移入できました。本作には、暗号を解く時に、いちから情報を集めて、それらをパズルのように組み合わせることで真実にたどり着こうとする“自力感”がとってもある。多くの人は日常的に暗号を解いたりしていないじゃないですか(笑)。本作を観て、そういうものの楽しさを知ってくれたらいいなと。最近だと、Googleが優秀な人を探すために数学の難問を街の広告塔や看板に掲載し、謎が解けた人だけを入社させるという事例もありました。なかなか日本では馴染みがない文化ですが、そんなポップな暗号の話もアメリカにはあるんです」

早瀬「CIA本部の庭にも、無数の文字が彫られた“クリプトス”という4面の彫刻があって、まだ3面までしかクリアされていないんですが、最後の1面をクリアしないと意味が分からないんです。いまのところ、なぜ作られたのかはわかっていません」

岸本「僕らがオカルト業界で見かける暗号や都市伝説って、一見バカっぽいんです。とんでもなくバカっぽいなと思うけど、それがすごいことにつながっていたりする。本作でサムが真実に近づけば近づくほど、周りの人が引いていくっていう感じはとってもリアルでした(笑)」

岸本「本作は序盤から多くのヒントが出てきているんです。僕たちは『アンダー・ザ・シルバーレイク』に完敗しましたが、勘の良い人ならサムよりも先に謎を解けるかもしれない。1度目観るのと、2度目観るのではとっても印象が変わる作品なので、ぜひ何度でも劇場に足を運んでほしいです!」(Movie Walker・取材・文/山崎伸子)

落書きを消す女性が着ていたのは“27クラブ”のメンバー、ジム・モリソンのTシャツ!