iPhone大好きメディアには礼讃記事が並び、一部のアーリーアダプターたち限定で、いつも通り発売日に“iPhone売れてる祭り”がハイタッチで演出された新型iPhone。一方、手に入りやすかったとさえ言われる今期のiPhoneだけに、どこか普通のiPhoneユーザー不在というか、“コレジャナイ感”が漂っていると感じるのは実は本誌だけじゃないだろう。iPhoneが世界中で唯一Androidより売れている我が国日本。だが、それは多くの普通のスマホユーザーが当然買い支えているからなわけで……。というわけで、本誌はそのメインユーザーである普通のスマホユーザーたちに、「本当に欲しいiPhoneってどんなiPhone?」と耳を傾けてみた。

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“スマホ=iPhone”が常識 女子大生の頭にAndroidはない
革新的なガジェットがやがて日常へと溶け込んだ時、果たしてその未来はどうあるべきなのかーそんな考えが筆者の頭を巡っている。2018年9月12日(米国時間)、アップルはiPhoneの新モデル『iPhone XS』と『iPhone XS Max』、そして『iPhone XR』を発表した。

最新チップ「A12 Bionic」を搭載、eSIM+nanoSIMによるDSDS(デュアルSIMデュアルスタンバイ)対応、カメラはインカメラにもボケと深度をコントロールできるポートレードモードが搭載されるなど、テクノロジーが進化した新型iPhoneだが、筆者の周囲でも反応が鈍い。新機種が発売されるごとに買い替えていたガジェットマニアたちですら、アップル10周年モデルである『iPhone X』以降、二の足を踏むというか、買い控えている印象だ。

しかし、テック系メディアは新型iPhoneの話題で変わらず賑やかだ。日本は諸外国の中でiOSのユーザー数がAndroidよりも越えているという特異な国であり、新モデルが発売されるとなれば興味を持つ人は確かに多い。では、なぜ普通のユーザーたちは購入にまで至らないのか。そのナゾを解き明かすべく、ガジェットマニアではない普通のiPhoneユーザーたちに集まってもらい、話を聞いてみた。

まずは日本でもっともiPhoneを支持する層である女子高生に話を聞くことを考えたが、彼女たちはまだ金銭的に自立していないケースが多く、価格を含めた考察は難しい。そこで、最近まで女子高生としてiPhoneとともに青春を謳歌してきた女子大生4人に集まってもらった。

現在彼女たちが使用するiPhoneは、3人が『iPhone 7』、1人が『iPhone 6s』。ちなみに初めて使用したスマホについて尋ねたところ、一人をのぞき全員がiPhoneだった。中には「iPhone以外のスマホがあることを知らなかった」という子も存在。家族全員がiPhoneだったためで、今やそんな状況は珍しくないだろう。

彼女らにiPhoneの好きなところを尋ねると、「シンプルでわかりやすい」「カメラの画質がきれい」「ブランド感がある」「アプリはiOSが先にリリースされることが多い」などの声が挙がったが、全員がうなづいたのは「みんなiPhoneを使っているから」の意見。

周囲がiPhoneを使っているのに、なぜわざわざAndroidを使うのか、Androidのことは調べないとわからない、と彼女たちの頭の中には、初めからAndroidが存在しないことに気づかされた。

いかにも若い世代といった意見には、「AirDropがめっちゃ便利」というものがあった。データ通信量を使いすぎてしまう彼女たちにとって、自撮りした写真を友人とシェアするときに使える「エアドロ(AirDrop)」は重要な機能だということだ。

また、「iPhoneはケースがどこでも買えるし、豊富だから」という意見も多く聞かれた。iPhoneケースは電気量販店だけでなく、雑貨店やアパレルショップでも手に入る。「大好きな洋服ブランドのケースを付けている」と一人の子がブランドロゴ入りのケースを嬉しそうに見せてくれた。

新機能にも冷ややかな反応 すごいけど、だから何って感じ
さて、女子大生だけでは意見が偏るため、30代男性たちの声も聞いた。こちらも全員iPhoneユーザーで、利用機種は『iPhone 6s』、『iPhone 7』、『iPhone 7 Plus』だ。一人は『iPhone 3GS』からのiPhoneユーザーで、今さらAndroidに買えるのは面倒だという。

もう一人は、Android(INFOBAR)をデザイン面の良さから使っていたが、「なんか動きがカクカクする」「誰も使ってないから使い方がわからない時に詰む」といった理由から、故障を機に家族と同じiPhoneに変更し、現在もiPhoneユーザーだという。残る一人はずっとiPhoneユーザーだが、格安SIMでの運用に切り替えたそうだ。

30代男性の中には2009年に発売され、当時センセーションを巻き起こした『iPhone 3GS』を購入した人もいた。「外国人の女性が『iPhone 3GS』を颯爽と使っている姿が様になっていて、かっこいいと思って購入した。『iPhone 6』ぐらいから、スティーブ・ジョブズならではのカリスマ性がiPhoneに感じられなくなったが、惰性でiPhoneを使っている」と、iPhoneへの思いを語ってくれた。

他の人にiPhoneを使う理由を尋ねてみると、「特に理由はないが、みんなと一緒だから安心する」「他に選択肢がない」といったやはり惰性的な意見が満載。この辺りは女子大生と変わらず、世代共通の意見だと言えそうだ。

そこで、「iPhone以外を考えていない」彼ら彼女らに、iPhoneの新モデルの中から『iPhone XS』を使ってもらうことにした。CPUの速度体感などは難しいため、Face IDのデモを見せたり、インカメラでのポートレードモード、ミー文字(自分に似せたキャラクターを動かしてアニメーションが作れる機能)などを試してもらった。

女子大生はさっそくインカメラでの自撮りを試し、「一眼レフみたい」と背景のボケに喜んだ。ミー文字もそっくりなものが作成できて、みんなで大はしゃぎ。しかし、一通り試したあとに「でも、この機能はなくてもいい。あれだけの価格を出す機能ではない」とばっさり斬った。

顔認証できるFace IDやインカメラで一番レフ並み写真が撮れるポートレードモード、ミー文字は確かにすごいけど、だから何って感じ。あれだけの価格を出す機能ではないとバッサリ斬る。

『iPhone X』以降、「価格が高い」という不満はあちこちから聞こえるようになった。マイナビニュースが9月19日に公表した「新iPhoneを購入するか」のアンケート結果を見ると、「新iPhoneに対する不満」はiPhoneユーザー、Androidユーザーともにダントツで「価格」だ。

iPhoneの進化が高性能へと進んでいるため、どうしても価格は上がっていく。「なぜこんなに高いのか」と尋ねられて、チップやセンサーの性能について説明したが、インタビューした普通のユーザー全員が納得しなかったことから、一般の人はそこに価値は感じていない印象。

言い換えると、おそらくそれらはメーカーが机上で考えた進化、もしくはモデルチェンジをしないと価格がキープできず、利益を生み出さないとビジネスが立ち行かなくなるメーカー都合で、ユーザーのニーズとはかけ離れたデバイスへと変化しているのではと感じた。

iMaceMacが出た時の衝撃やワクワク感はすごかったけど、今のiPhoneにそれはない。生活や仕事が劇的に便利にならない限り、スマホに10万円を出す意味はない。他の用途に使う。

他媒体にもこんな本音データが

「新iPhone買うよ? 買うけどさ……購入者が明かす、新iPhoneへの不満 - マイナビニュース調査」(2018/09/19掲載)よりグラフ抜粋

iPhone好きだからこそ今のiPhoneを望まない!?
では、どんなiPhoneなら買いたいのか。これからのiPhoneに望むことを聞いた。女子大生からは、「イヤホンジャックを復活させてほしい」「機能は少なくていいから安くしてほしい」「形状を変えられるとそのたびにケースを買い替えなければならないから、変えないでほしい」「周辺機器を買い直したくないので端子も変えないでほしい」などの声が挙がった。

一方、ホームボタンがなくなることについては「使い始めれば慣れる」と考えているなど、柔軟性も感じられた。

30代男性は、「現在のiPhoneはトゥーマッチな気がする。その部分が面白ければ購入するかもしれないが、現在のようにブラッシュアップしただけではわかりづらい」と言った意見や、「バッテリー含め、このままずっと使える状態をサポートしてほしい」「スマホにこれ以上面白さを求めていない。スマホにお金をかけるなら他に使いたい」「画面が割れないiPhoneが欲しい」と、スマホは必需品ではあるが、ワクワクするモノとは異なると捉えていることを明かしてくれた。

今回インタビューした人たちは、『iPhone 6s』から『iPhone 7』までのユーザーで、つまり全員『iPhone 8』以前を利用していることになる。その誰もが今のiPhoneに不満を感じていない。さらに、ずっと今のiPhoneを使い続けたいと言っていた。

それだけiPhoneは数年前からすでに完成していて、ユーザーに愛され続けているデバイスなのだ。一方で、スマホはすっかり私たちの生活に密着しており、未来感やワクワク感にときめかされるモノではなくなっている。通話やメッセージ、カメラなどの用件がこなせるのであれば、高い出費を出したり、新しい操作を覚えたりしてまで機種変更したくはないのだ。

アップルがiPhoneを発表した時の驚きと興奮をリアルタイムで体感した者としては、この状況はいささか寂しくも感じられる。が、これこそが現実だ。iPhoneが日常の道具となった今、アップルの次なる一手は何か。

筆者の腕に付けていたApple Watchに興味を示した男性たちが多かったことはヒントなのかもしれない。iPhoneとの連携だけでなく単体でテクノロジーの進化を感じさせるデバイスとなれば、またはまったく新しいデバイスが誕生すれば、私たちは驚きと興奮を求めて飛びつくのだ。

女子大生たちの本音

顔認証などの機能はなくてもいいから安くしてほしい。

ホームボタンがなくなると使いづらそうだけど慣れるとは思う。

イヤホンジャックはぜひ復活してほしい。

ミー文字とかすごいとは思うけどなくてもいい。だから何って?

インカメラのポートレードモードは一眼レフで撮ったみたいですごい。

30代男性たちの本音
Androidに今更変えるメリットはないので惰性で使っている。

元々マックユーザーだしこだわり派だけど今のiPhoneが欲しくない。

INFOBARみたいに選べるデザインのiPhoneがあれば嬉しい。

バッテリーが持たなくなったから買うのではなく欲しいから買いたい。

そんな使わない機能を載せるより画面が割れないiPhoneを作ってくれ。

普通のユーザーはこんなiPhoneだったら買い換えてでも欲しい!

自分の仕事や生活に直結するような便利な機能がちゃんと載ってたら

iPhoneケースを楽しみたいので本体の形を変えずに中身だけ進化してほしい

自撮りでよく落としてきたので絶対に画面が割れなくて壊れないiPhoneがほしい

※『デジモノステーション』2018年12月号より抜粋。

text鈴木朋子
(d.365

掲載:M-ON! Press