三省堂が10月16日に発売した高校生向け国語辞典「三省堂現代新国語辞典(第6版)」に注目が集まっている。「ググる」、「バズる」などのネットスラングが多く収録されたためだ。

同社によると、同辞典は、4年ごとに行われる高校国語の教科書改訂にほぼ合わせて改訂され、「最新の教科書に新たに登場した言葉を収録するのが一番の特色」だという。第6版では、教科書に新しく加わった作品に出てくる単語を含め、1000語を追加した。

今回、このような改訂をしたのはなぜなのか。編集部に話を聞いた。

「沼」の説明「趣味などに、引きずり込まれるほどのめり込んでいる状態のたとえ」


新たに発売された同書

新しく追加された単語には、「ググる」「バズる」のほか、「意気がる」を意味する「イキる」、経済や流行に影響を与える人を意味する「インフルエンサー」など、時代を反映したものが並ぶ。「フェイクニュース」、「チャラ男」、「JK」もあった。

スマホやSNSに関連する単語も多く収録された。「ツイート」を意味する略語「TW」や、SNSでのフォロー・フォロワー関係を意味する「FF」などがこれにあたる。「FF」の用例には、ツイッターで相互フォローではない人にリプライする時にかけられる言葉「FF外から失礼します」も載っている。

「ギガ」、「草」、「誤爆」、「爆死」、「マウント」、「沼」、「DM」などは、言葉自体は前から掲載されていたが、俗用・俗語として新たな説明が加えられた。例えば「沼」の欄には「くぼ地に自然に水がたまってできた、どろの深い所」の次に

「趣味などに、引きずり込まれるほどのめり込んでいる状態のたとえ」

とある。用例には「(カメラで)レンズの沼にはまる」と記載されている。

また、昨今の性自認の多様性を受け、約100項目を見直し、説明文中で「男女」と限定されていたものを変更している。主だったところでは、「恋愛」の説明文が「二人が恋をしたり、愛し合ったりすること」と、異性に向けた感情・言動に限らないものになっていた。

「辞書には、誤用、俗用であることを示すためにこそ記述する意義のある項目もある」

三省堂現代新国語辞典の編集部によると、ネットスラングを多く盛り込んだのは「SNSの利用層と社会的影響力に老若男女の差は無く、社会常識語とさえ化してきているから」だという。

同社は2015年から、「今年の新語」を決めるイベントも行っている。こうした背景もあり、第6版を作るにあたっては、

「いわゆる新語および新語義というものをある程度従来より重視し、国語辞典をより身近に、古くさくない、新鮮な言葉のツールと感じてもらえるのではないか」

と意識したそうだ。実質的に改訂作業に費やした時間は2年半ほど。「最新の高校教科書に使われている語句・語義の採録を特に重視している点に限らず、現代の名にふさわしい新語・新語義を盛り込むことによって、言葉の疑問についての時代の要請に応えようと努力を続けています」とアピールする。

主な対象である高校生を超え、幅広い世代から注目が集まる中、教育現場からは懸念の声も出ている。「辞書に載っているものを正解とする手法は使いにくくなる」ためだ。確かに、小論文など言葉遣いも採点対象となるものに関して、どこまでを可とするのかは難しくなりそうだ。

こうした声に、編集部は「辞書には、誤用であること、俗用であることを明示するためにこそ記述する意義のある項目もあります」と主張する。

「言葉をあらかじめ排除するのではなく、その意味・用法を踏まえ、場面によって適切に使い分けるようにすることが言語の運用能力でもあるわけです。辞書にあるからといってその妥当性を考えずに不適切な語句を選択することは、そもそも回答基準を満たしていないとも言えるのではないでしょうか。逆に申しますと、そういう使用をしないで済むように、あえて辞書にその語を入れて、適切な解説を行っているということです」

その上で、「小論文での使用語句としてふさわしいかどうかを判断する基本的言語感覚は、高校生にもなればお持ちであろうと、編集部は確信しております」とも話していた。

今後、同社の他の辞典でも同様の言葉を追加する予定があるかどうかについては、

「それぞれの編集委員の考えや方針に応じた収録基準に基づいて、時代に応じた辞書作りを続けてまいります」

という回答だった。