NHK総合10月20日(土)と27日(土)に2週連続で放送される、北川景子主演の土曜ドラマ「フェイクニュース」(夜9:00-9:49)。ネットメディアの女性記者が事実を追い求めて孤軍奮闘する本作の脚本は、今注目の人気脚本家・野木亜紀子氏が手掛けている。

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2010年の第22回フジテレビヤングシナリオ大賞を受賞したのをきっかけに脚本家デビューを果たし、「逃げるは恥だが役に立つ」(2016年、TBS系)、「アンナチュラル」(2018年、TBS系)、映画「図書館戦争」シリーズといった数々の話題作を世に送り出してきた野木氏。最新作「フェイクニュース」へ込めた思いや、ドラマ作りの際のこだわりについて聞いた。

■ 「フェイクニュース」は「人が死なない『アンナチュラル』」

──ネットメディアの世界を舞台にした「フェイクニュース」ですが、取材会では「社会派と銘打っていてもエンターテインメントドラマです」とおっしゃっていましたね。

「社会派」って言っちゃうと何だか難しそうだし、「フェイクニュース」には実際に笑いどころもあるので、エンターテインメントとして楽しんでいただけたらと思っています。「アンナチュラル」もエンターテインメントとして書いていたんですけど、今回は人が死なない「アンナチュラル」っていう感じですね。今までネットメディアを舞台にしたドラマはほとんどなかったと思うので、そこも楽しんでいただきたいです。

──ネットメディアを取り上げようと思われたきっかけは何ですか。

もともと「誤報」というものには興味があって、日本報道検証機構に寄付金を出したりしていたんですよ。情報を検証する動きは必要だし、これをドラマにしたら面白いんじゃないかとは思ってました。

今回、プロデューサーの北野(拓)さんとお話をしていて、興味のあることとして合致したのがフェイクニュースだった。北野さんが報道出身だったというのもあって、北野さんとならリアリティのあるドラマが作れるんじゃないかなと思いました。

それが“逃げ恥”の直後くらいでしたけど、企画の成立まで少し時間がかかったり、私も「アンナチュラル」を書いたりしていて。放送が今年の10月って決まったときには、ネットメディアをめぐる状況がガラッと変わっていたんです。トランプ大統領が自分に不利なことを書くメディアを「フェイクニュース」と言い出したり(笑)。当初はフェイクニュースとはなんぞやというようなプロットだったんですが、これはダメだなと思って、去年の秋くらいに「プロットを全部書き直したい」って言って、改めて取材をして新しく作ったのがこのドラマです。その際に、いま描くならば外側からネットメディアを見るのではなく、内側の人を中心に据えたほうが新しいものができるんじゃないかということで、ネットメディアで働く主人公にしました。

■ NHKで放送することに意味がある

──NHKドラマは初執筆となったわけですが、そのあたりについて思われることはありますか?

実は題材的に、地上波のテレビでは難しいかなと思っていたんです。WOWOWとかネットドラマじゃないと企画が通らないかな…なんて。でも、そういう限られた人たちが見るメディアでやっても、本来このテーマを伝えたい人たちに届かないなと思ったんですよ。

NHKで放送することで、いろんな人に見ていただけるのは良いですよね。もちろん全ての視聴者を対象にしていますが、ネットに詳しくない人にこそ伝えたいし、詳しい人は詳しいなりに「あー、あるある」って楽しんでいただけたらと思います。

──最初にお聞きした、社会派ドラマではない、エンターテインメント性はどんなところにありますか。

フェイクニュース」は、普通に人間ドラマです。題材が社会問題ではあるけれど、登場人物たちを追い掛けていく物語です。

ドラマが発表された時に「テレビ局がネットを批判するためにつくったプロパガンダドラマだ!」と一部で騒がれもましたが、まったくそういう話ではないです(笑)。この2018年に、「ネットは悪である」なんていう一元的なドラマを作ったら、そのほうがヤバいんじゃないですかね。

■ 私は開拓者ではありません

──今回、本誌「週刊ザテレビジョン」の「テレビの開拓者たち」という連載ページへのご登場をお願いしたときに、「私は開拓者ではありません」とおっしゃっていました。「開拓者ではない」としたら、どんな脚本家でありたいと思われますか。

最後の最後まで、ひたすらに「どうやったら面白く見ていただけるのか」ということを考えています。自分が視聴者歴が長かったというのも、あるかもしれません。「テレビを変えてやるぜ!」みたいな意気込みもいいですけど、むしろ「当たり前に面白いものを作る」っていうことが大事なんじゃないかと思うし、そこを忘れると足元をすくわれてしまいますから。そういう意味では、「当たり前の発想に戻る」ことがマストで、その上で、新しい視点をどう入れていくか。

──視聴率のことばかりを気にするのではなく?

そうですね。結構、企画段階から分かりやすさを求められることが多いんですよ。でも、こうすればウケる、こうすれば視聴率が獲れるっていうロジックにハマっていくと、全てが単純化されちゃうんですよね。「わかりやすいものしかウケない」っていう考えは、視聴者をなめていると思うし、実際に視聴者はそんなに馬鹿じゃない。だから、自分が面白いと思うものを作るしかないなって思います。過去の開拓者の方たちも、みんなそうだったんじゃないでしょうか。

人間の感情は100年前からそうそう変わるものではないので、実はドラマツルギーはオーソドックスなんですよね。それをどういう切り口や視点で見せていくか考えれば、いくらでも新しいものは作れる。その切り口が、「フェイクニュース」ではネットメディアであったということで。

■ “逃げ恥”ブームはどこか他人事だった

──これまで脚本家として活動してこられて、ターニングポイントになった作品は何ですか。やはり“逃げ恥”でしょうか?

逃げ恥”に関しては、それほど“ターニングポイント感”はなかったですね。世間が盛り上がってるなーなんて、どこか他人事みたいな感じでした。

ターニングポイントということでは、「空飛ぶ広報室」(2013年、TBS系)です。一人で連ドラ全話を書いたことのない脚本家に、いきなり日曜劇場を書かせるんですよ。その前にTBSが制作した映画の「図書館戦争」を書いていて、同じ有川浩先生の原作ということで選んでいただいたんですけど、抜擢してくださった方には全話書き終わってから「もしダメだったら、自分が指導しなきゃいけないかと思ってたけど、何も必要なかった」と言っていただきました(笑)。あのドラマに起用していただいたことは感謝してます。

──「空飛ぶ広報室」の新垣結衣さんとは、10月クールの「獣になれない私たち」(日本テレビ系)まで、ご縁が続いていますね。

日テレでずっとバラエティーのプロデューサーをしていた松本(京子)さんの、初プロデュースドラマが新垣さん主演の「掟上今日子の備忘録」(2015年、日本テレビ系)だったんですよ。ずっとドラマをやりたいって言っていながら、「世界の果てまでイッテQ!」(毎週日曜夜7:58-8:54、日本テレビ系)が当たっちゃって、バラエティーから離れられなくなっちゃった人なんですけど(笑)。その松本さんが「図書館戦争」や「空飛ぶ広報室」を見ていて、「掟上今日子」の執筆を依頼されました。「獣になれない私たち」も、プロデューサーは松本さんです。「フェイクニュース」や「アンナチュラル」とはまた全然違うアプローチの脚本なんですが、今までにない新しい新垣さんの魅力を見ていただけたらと思ってます。

■ 最後に

──今後 挑みたい作品像を教えてください。

SF、ジュブナイルものは書いてみたいですね。単純に私が好きだからという理由で! SFもジュブナイルも通らない企画ナンバー1だったりしますけど(笑)、取りあえずここまで一通りのジャンルはやってきたので、まだ扱っていないジャンルを書いてみたいです。2020年くらいまでは予定が詰まってるので、その後になりますけど…。(ザテレビジョン・取材・文=青木孝司)

「フェイクニュース」を執筆した野木亜紀子にインタビュー