大量の銅を中国に密輸出しようとしていた北朝鮮・人民保安省(警察庁)の保安所(派出所)の所長と妹夫婦が逮捕される事件が起きた。国に納める上納金の工面に困っての犯行だった。

デイリーNKの内部情報筋によると、逮捕されたのは咸鏡北道(ハムギョンブクト)のある工場にある保安所のパク所長と、その妹、鉄道駅に勤める夫の3人だ。

所長は、工場で生産された金属合板を盗み出し、妹に指示して平安南道(ピョンアンナムド)平城(ピョンソン)の市場で売り払った。その利益で赤銅と黄銅数百キロを購入し、妹の夫の運転するトラックに積み込み、咸鏡北道まで運ばせた。

そこで妹の夫が軍需用貨物列車の軍糧米(軍向けの食糧)やセメントなどを運んでいる車両に銅を積み込み、両江道の恵山(ヘサン)まで運んだ。その後は、国境を流れる鴨緑江を経て中国に密輸する手はずだった。

ところが、妹夫婦は、恵山駅に着いた貨物列車から銅を降ろそうとしていたところでお縄となってしまった。2人に対する取り調べの過程で、パク所長の存在が浮上し、今月2日に吉州(キルチュ)郡保安署(警察署)捜査課に緊急逮捕された。

北朝鮮では、工場や企業所、農場などからの横流し、横領、窃盗が蔓延しており、3人が捕まったのは運が悪かったと言えよう。

(参考記事:「わが国は災害を口実にした物乞いだ」北朝鮮国民の悲しいホンネ

不運はそれだけではない。妹夫婦を逮捕したのは一般の保安署ではなく、朝鮮人民軍北朝鮮軍)の保衛司令部だったことだ。

保安所長は通常、少佐または中佐が勤めている。もし摘発したのが保安署だったら、職権でもみ消すのはそう難しいことではない。ところが今回の相手は、保安署よりはるかに強力な軍の治安機関である保衛司令部だ。

所長は保安員を辞めさせられ、妹夫婦は6ヶ月以上の鍛錬刑か、1年以上の教化刑、つまり懲役刑を受けることになるだろうと情報筋は見ている。

しかし、これでも軽いと言えるかもしれない。3人の犯した罪は、法の国家財産を盗んだ罪(91条)、密輸罪(119条)、輸出入秩序違反罪(120条)、設備、物資、資材、資金の非法(違法)処分罪(135条)などに相当するが、最高刑は懲役10年だ。さらに刑法附則では、罪状が重い場合に無期懲役または死刑と定められている。

国際社会の経済制裁にさらされている北朝鮮だが、国民から上納金やワイロを吸い上げることで国が成り立っている。所長は、権限を振りかざして庶民からワイロをしぼりたて、それを上に納める役割を担っていたと思われるが、度重なる上納金の要求に応じきれず、人生を棒に振るハメとなってしまった。

(参考記事:北朝鮮で次々に編み出される「バレないワイロの受け取り方」

平壌のサッカースタジアムで保安員と揉める男性。周りの人々は指を指して保安員を非難している。