駅ナカの飲食店として親しまれる「駅そば」。さまざまな土地で食べ比べると、それぞれの地域性が見えてきます。最もわかりやすい関東と関西の違いは、どのようなものなのでしょうか。

つゆとネギの境界線は、別々に存在

駅構内にあるセルフサービス形式の「駅そば」店は、毎日の通勤・通学時に利用する人も多く、地域に深く根づいた形態の飲食店といえます。そのため、提供する料理も地域性が色濃く表れるようです。

いちばんわかりやすいのは、「東のこいくち・西のうすくち」というつゆの違いかもしれません。全国約3000の駅そば店で1万杯以上を実食し、『駅そば 東西食べくらべ100』(交通新聞社)などの著書をもつ鈴木弘毅さんによると、つゆの「東」と「西」の境界線は地図上で示すと、愛知・三重県境から関ケ原を通り富山市付近へ抜けるといいます。

ただし北陸側の境界線はやや曖昧で、富山駅にはこいくちの「越中そば」とうすくちの「源」が同居、富山市内では街なかのそば・うどん店でも、こいくちとうすくちのものが混在しているとのこと。このあたりで東西がぶつかり合い、モザイク状になっているのだそうです。

東西を分かつのは、つゆだけではありません。薬味のネギも、「東の白ネギ・西の青ネギ」に分かれます。そして面白いことに、ネギの境界線は、つゆの境界線とは異なる位置にあるのだとか。

鈴木さんによると、太平洋側でネギの東西境界線は、つゆの境界線よりもだいぶ東、静岡県の熱海~三島間。地図で示すとすれば、ここから岐阜県にある中央本線中津川駅の西側を通って、同県南西部でつゆの境界線と交差し、石川・福井県境付近へ抜けるといいます。つゆとネギの境界線は、「×」を描くような形で交差しているのです。このため、静岡県の大部分や愛知県などでは「つゆはこいくち・ネギは青」、富山県西部や石川県などでは「つゆはうすくち・ネギは白」といった現象が起こっていると鈴木さんは話します。

東西の違いはこれだけに留まりません。たとえば「肉そば」は関東だと豚肉を使う店が多いですが、関西は牛肉が一般的。「月見そば」(関西では「玉子そば」の表記が多い)の盛りつけ方は、東日本では「麺→つゆ→卵」の順に、西日本では「麺→卵→つゆ」の順に盛りつける店が多いのだとか。また、サイドメニューのご飯ものも、東日本ではおにぎりやいなり寿司が一般的ですが、西日本ではさらに、ちらし寿司や巻き寿司、バッテラなどが加わるそうです。

なお、出汁(だし)も一般的に「東はカツオ出汁・西は昆布出汁」といわれますが、関東にも昆布出汁中心の店が、関西にもカツオ出汁中心の店があるとのこと。鈴木さんによると、じつは出汁には明確な境界線がないといいます。

「たぬきうどん」は関西では「?」な存在、そのワケは

東西に二分するのではなく、もう少し狭いエリアで、局地的に見られる地域性もあるようです。

関西在住者が関東を訪れ、「きざみそば(うどん)」が存在しないことに驚くといった話を聞いたことがあるかもしれません。しかし、実はきざみそばは、西日本のなかでも大阪周辺にしかない局地的なメニューであり、岡山県以西ではなかなかお目にかかれないと、鈴木さんは話します。

「逆に、関東在住者が関西の駅そば店で何気なく『たぬきうどん』と注文し、店員さんが困ってしまったという話もあります。関西では、『たぬき』はそばと決まっているので、『たぬきうどんください』という注文は、いってみれば『そばうどんください』とコールしているようなものなのです」(鈴木さん)。

というのも、関西以外のほぼ全国で「たぬきそば」といえば揚げ玉をのせたそばを指すのに対し、関西では味付き油揚げをのせたそばを指すのだとか。つまり、関西の「たぬきそば」と「きつねうどん」は同じトッピングで、そばを「たぬき」、うどんを「きつね」と呼び分けているのだそうです。

では、揚げ玉をのせたそばを、関西では何と呼ぶのかというと、正解はハイカラそば」(おもに神戸市周辺。ほかに「天かすそば」などの表記もあり)です。「首都圏などから関西へ出かけた人が、『ハイカラそばなんていう面白そうなメニューがある』とワクワクしながら注文すると、揚げ玉をトッピングしたそばが出てきてガッカリ、というのは『駅そばあるある』のひとつかもしれませんね」と鈴木さん。また、関西にはそもそも揚げ玉を有料トッピングとして扱わず、タッパーなどに入れて客席に常備し、無料で好きなだけ入れられるようにしている店も多いのだとか。

このような地域ごとの違いは、挙げればきりがないほど。「旅先で食べて違いを実感すれば、それはすなわち『旅情』にもなるでしょう」と鈴木さんは話します。

※記事制作協力:風来堂、鈴木弘毅

【写真】つゆとネギ、東西「ハイブリッド」の駅そばはココで食べられる

JR荻窪駅「爽亭」のごぼう天そば。関東は天ぷらの種類も多い(鈴木弘毅撮影)。