いよいよTBSの日曜劇場(よる9時〜)で「下町ロケット」の新シリーズが始まった。

各分野から集められた出演陣。注目は誰?
先週放送の第1話は、新旧さまざまな人物が次から次へと登場し、さながら顔見世興行といった趣きだった。あまりに出演者が多くて、エンドロールのクレジットで、初めて出ていたことを知った俳優もいたほどだ。大河ドラマや朝ドラならともかく、1クールのドラマでこれだけ人物が出てくるのも珍しいのではないか。そのキャストも、本職の俳優にとどまらず、落語家お笑いタレント歌舞伎役者、アナウンサーと多岐にわたる。

なかでも注目は、イモトアヤコだろう。何しろドラマ初挑戦、しかも他局の日曜夜の人気バラエティの看板タレントが、時間帯こそ重ならないとはいえ、同じく日曜夜のドラマに起用されたのだから、ちょっとした事件である。劇中、タレントとしてのトレードマークである太い描き眉を捨てて登場した彼女の役どころは、ベンチャー企業の副社長にして天才エンジニア。池井戸潤の原作小説『下町ロケット ゴースト』(小学館)では、ざっくばらんな人柄ながら仕事で敏腕を振るう女性として描かれる役だが、第1話を観たところ、これが見事にハマっていた。相方の社長を演じるのが歌舞伎界のサラブレッド尾上菊之助とあって、イモトの庶民っぽさが際立ち、まさに配役の妙といえる。

さらに意表を突かれたのが徳重聡だ。くわしくは後述するが、劇中で徳重はメガネをかけたドライなエンジニアとして登場、周囲の人たちとたびたび衝突する。私は最初、徳重が演じているとは知らず、途中で気づいて驚いた。思えば、「21世紀の石原裕次郎」オーディションに合格してデビューした徳重は、7年前には連続ドラマ初主演の「Dr.伊良部一郎」(テレビ朝日)で二枚目からのイメージチェンジをはかったが、残念ながらうまくいったとはいいがたい。それが今回、大きく脱皮しそうな予感を抱かせる。

ピンチから見出したチャンス
ここで第1話の話を振り返っておこう。前シリーズから3年。佃製作所社長の佃航平(阿部寛)の娘・利菜(土屋太鳳)は、父と同じくロケット開発の夢を追うため、佃製作所がロケットエンジン用のバルブシステムを提供する帝国重工に就職していた。

しかしその帝国重工のロケット開発に暗雲が立ち込める。それまでロケット開発を後押ししてきた藤間社長(杉良太郎)が、買収の失敗などにより経営責任を問われ、社内で窮地に立たされたためだ。次期社長候補と目される取締役の的場(神田正輝)は、ロケット開発撤退を訴える急先鋒だった。佃と信頼関係を築いていた宇宙航空部長の財前(吉川晃司)も、的場から、準天頂衛星システムヤタガラス」の最後の機の打ち上げを花道として異動を切り出される。

帝都重工がロケット開発から撤退するとなれば、「ロケット品質」を標榜し、開発にかかわることを誇りとしてきた佃製作所にとっても打撃だ。さらにそこへ来て、大口取引先である農機具メーカー・ヤマタニ製作所の蔵田(坪倉由幸)より、佃の主力製品であったトラクターの小型エンジンの取引削減を切り出される。

しかし、佃はくじけない。トラクターのエンジンに代わり、トランスミッション(変速機)に新たな活路を見いだしたのだ。そのきっかけは、経理部長の殿村(立川談春)の郷里である新潟を訪れたことだった。

父親が病気で倒れたため、実家の農家に戻った殿村は、父に代わりトラクターで畑を耕していた。彼を心配して、技術開発部長の山崎(安田顕)と一緒に見舞いに訪れた佃も、そのトラクターに乗せてもらうのだが、殿村はその後ろにくっついて何やら作業をしている。何かと思えば、トラクターではよく耕されるところとそうでないところとムラ(作業ムラ)ができてしまうので、それを鍬で直しているのだという。作業ムラは、トラクターの耕耘(こううん)爪の回転数が一定でないために起こる。何とかしてこれを改善できないか。そこで佃が目をつけたのが、トランスミッションだった。殿村の不在は会社にとって痛手だが、それを佃は逆にチャンスとしたのである。

ちなみに原作では、佃は殿村がトラクターを運転するのを見ながら、耕耘爪の回転数が一定でないことに気づく。これに対しドラマでは、殿村が実際に作業ムラを直す姿から気づくというふうに変更されたおかげで、より現実味が増したように思う。

バルブ採用をめざし業界最大手とのコンペへ
佃はトランスミッションづくりの第一歩として、そのバルブから着手することにした。バルブはトランスミッションにおいても重要な役割を担うパーツだけに、自社がこれまでに培ってきた技術が活かせると踏んだのだ。そこで組むトランスミッションメーカーとして選んだのが、ギアゴーストというベンチャー企業である。前出の尾上菊之助イモトアヤコは、それぞれこの会社の社長の伊丹、副社長の島津の役で登場した。

しかし、ギアゴーストのバルブ開発には、すでに業界最大手の大森バルブが名乗りをあげていた。いずれを採用するかはコンペで決めることになったが、ギアゴーストからは技術的な条件に加え、コストと納期に厳しい制限が課せられる。佃製作所は果たして大森バルブに太刀打ちできるのか、島津からは不安視されるも、佃や山崎たちはがぜんやる気を出す。

こうしてコンペに向け、佃製作所の技術開発部内でバルブ開発チームが組まれ、徳重聡演じる軽部がそのリーダーとなる。しかし軽部は、同じチームの立花(竹内涼真)や加納(朝倉アキ)の提出する設計図を「やぼったい」「オリジナリティがない」と言って突き返すばかり。ついには立花がキレて衝突してしまう。このとき「おまえらの言うロケット品質はこんなもんか」という軽部の捨て台詞が、立花と加納の心に響く。

原作とドラマで微妙に違う「ロケット品質」の意味
第1回では、佃製作所の複数の社員の口から「ロケット品質」という言葉が出てきた。加納も、かつて手がけた人工心臓弁「ガウディ」のことを思い出し、「ガウディ、これこそがロケット品質でしたよね」と立花の前で漏らす。

そこで立花と加納は、いま一度「佃プライド」「ロケット品質」と向き合うべく、ガウディを提供した福井の病院へ赴く。佃もそれを聞いて二人を追いかける。病院近くのグラウンドでは、ガウディによって病を克服した子供たちがサッカーをしていた。そこで医師の一村(今田耕司)から、ロケットのエンジンバルブを応用した技術が、子供たちの命を救ったと言われ、佃たちはロケット品質とは、誰かのために寄り添う姿勢だと気づく。その後、あらためてバルブに取り組んだ結果、できあがったのが、スペックこそ高くはないが、部品数が少なくて強度の強い、トラクターにふさわしい製品であった。

ところで、この「ロケット品質」という言葉だが、原作とドラマでは微妙にニュアンスが異なる。そもそも原作の『下町ロケット ゴースト』には(電子書籍版で検索したかぎり)この語は2ヵ所でしか出てこない。それも、《ロケット品質のハイスペックバルブが登場するかと思いきや、テスト用として送られてきたバルブのスペックは、想定の範囲にすんなりと収まるものであった》という具合に、ロケットエンジンのバルブシステムのようにスペックの高い製品という意味合いで使われている。これでいくと、トラクターのトランスミッション用に佃製作所のつくったバルブは、ロケット品質ではないということになる。

これに対してドラマでは、ロケット品質は佃製作所の精神といったニュアンスで使われている。ガウディで子供たちに寄り添ったのと同じように、トランスミッションのバルブ開発でも、ギアゴーストの求めるものに応えねばならないことにチームのメンバーに気づき、それがコンペでの成功につながることは原作も同じだ。だが、この流れをドラマでは、ロケット品質という語に象徴させたわけである。

このほかにも、原作とドラマではいくつか違いが見出せる。先にあげた佃が殿村からトラクターの作業ムラについて教えられる場面もそうだし、ギアゴーストの島津と佃が仕事で出会う以前に、ボウリング場で遭遇していたというのも、ドラマ独自のエピソードである。佃は前シリーズより、ことあるごとにボウリングに興じていたが、これはプロデューサーの伊與田英徳によれば、理系出身の友人がボウリングをやっているときに、曲がる曲がらないとか、ワックスのかけ方がどうだとか色々と言うのが面白くて、参考にしたのだという(『週刊女性』2015年12月5日号)。今回のシリーズでも、コース取りとかレーンコンディションなどにこだわりブツブツ言う佃に、隣りのレーンにいた島津があきれるシーンがあった。

さらにいえば、ギアゴーストのコンペで佃製作所と大森バルブが直接対決する場面も原作にはない。小説では、ギアゴーストの社員たちが両社から届けられたバルブを比べて迷い、結論を島津に委ねた結果、佃製作所が選ばれる。しかしこれでは絵にするといかにも地味だ。そこで両者が直接向き合うなかで結論が出されることになったのだろう。このとき、六角精児演じる大森バルブの営業部長・辰野が自社の製品を何としてでもねじこもうとしていたが、六角はこの手の俗物というか小悪党を演じると本当にうまい。

第1話では、佃たちがトランスミッション開発に向けて、まずは第一関門を突破した。だが、ラストシーンでは、前シリーズにおける佃製作所と他社の裁判で争った弁護士の神谷(惠俊彰)や中川(池端慎之介)らが再登場して、次回以降の展開がほのめかされていた。はたして佃に何が待ち受けているのか、今夜放送の第2話で確認したい。
(近藤正高)

イラスト/まつもとりえこ