大河ドラマ「西郷どん」(原作:林真理子 脚本:中園ミホ/毎週日曜 NHK 総合テレビ午後8時 BSプレミアム 午後6時) 
第38回「傷だらけの維新」10月14日(日)放送 演出:野田雄介

西郷どん 完結編 (NHK大河ドラマ・ガイド) NHK出版

彰義隊、1分
長州藩主・大村益次郎林家正蔵)の作戦に従い〈彰義隊〉を壊滅させた吉之助(鈴木亮平)。
わずか半日の闘いを、ほぼ1分で見せた。
〈彰義隊〉のターン、これで終了なり。

そしていつものタイトルバック。
明治天皇 野村万之丞というクレジットに、おおとなった。
狂言の超名門のお生まれで、17年に万之丞を襲名したばかりの21歳。シン・ゴジラの中の人こと野村萬斎も親戚筋に当たる。
大河ドラマのいいところのひとつに伝統芸能の方々が生きることがあり、こういうキャスティングだけは長く続けていってほしいと願う。

それはともかく。
彰義隊が倒れてもなお東北、北越諸藩の抵抗は止まらず、最後の最後まで闘う意思の吉之助は援軍を頼むために薩摩に戻る。
あとで描かれるが、島津久光青木崇高)が久しぶりに出てきて(亀も一緒に)、すっかり西郷を信頼し、兵も金も何もかも思うようにしていいと許可を与える。

「いまじゃった」(ただいま)と帰って来た吉之助を、西郷家は大歓迎。
小兵衛(上川周作)が、戦場で大負傷しながら生き延びた信吾(錦戸亮)の話を小芝居風にして見せる。
真田丸」でも描かれていたことだが、こうやって人が人へ伝えていったことが、今、歴史や歴史物語として残っている。だから、正しいこともあれば、間違っていることもあるだろう。
武勇伝のように語られることを信吾は「(戦は)ただの命の奪いあいじゃ」「醜くて酷い」「畑で食い物つくってるほうが立派」だとあくまで戦争反対の意思を示す。

38話は信吾と反対の立場の吉二郎(渡部豪太)の生き方がクローズアップされる。
彼は、吉之助のいない間、ずっと薩摩の西郷家を守り、吉之助が大島に残した子・菊次郎にも書物を送っている(実際、送る作業しているのは糸〈黒木華〉)。

どうでもいいが、吉之助、吉二郎、菊次郎・・・なまえが似ていて音だけ聞いているとわからなくなる。

吉二郎、戦へ
家(城)を守ることは立派な仕事だと言われながらも、吉二郎は〈薩摩隼人〉として戦に出たいという思いが募っていた。

畑に木刀をもっていく吉二郎に信吾が声をかけ、ふたりは木刀で勝負する。
渡部豪太はカフェ好きハルさん(ふるカフェ系 ハルさんの休日)の印象が最近強いが、ミュージカルでダンスなども披露していて運動神経はいい。錦戸亮は歌も踊りも才人。動きのよいふたりの緊張感が漲る! 
だが戦場経験のある信吾に打ち負かされてしまう。バシッと木刀を打ち落とす錦戸亮の動きがまた切れ味良い。
戦の負傷が元で耳が聴こえなくなっていることを明かす信吾。
戦で武勲をあげると華やかに見え、男としては憧れるのかもしれないが、いいことなんかないと信吾は体現する。

38話2回目の「いまじゃった」。
西郷どん」では「いまじゃった」という台詞がよく出てくる。
琴(桜庭ななみ)が嫁ぎ先からやって来て、家でがんばっている吉二郎のことをもっと労ってほしいと頼む。
ほしいものをなんでももらえ、鋤か桑かお城に着ていく袴かと問えば、
たすきをとって真顔で「戦ばたらきがしたか」「戦場をかけまわりたい」と言うではないか。

戦には行ってほしくないが、はじめて吉二郎さんが自分のしたいことを口にしたのだから、と妻・園(柏木由紀)は「家のことはこの人の分まできばりもす」から戦場に連れていってあげてほしいと一緒に頼む。
吉二郎と園、畑仕事で日焼けした姿が印象的。

侍が剣を交える闘いではなく銃や大砲という驚異にさらされる覚悟があれば「共に参れ」と言う吉之助。
みんなに送られて吉二郎が晴れ晴れと越後に出発したのが、8時21分(テレビオンエア時間)。
長岡藩がガトリング砲(ぐるぐる回転させながら途切れることなく撃ってくる)を使い大暴れ。苦戦する新政府軍。これが〈北越戦争〉。
そして、あっという間に吉二郎は撃たれて倒れてしまう。8時25分。
まったく活躍することなく、撃たれて苦しむ画のみ。
軍議を優先し、ようやく吉之助が見舞いにやってきたときには虫の息。
「侍働きができて嬉しかった」と礼を言って死んでいく。悲しすぎる、ハルさん、じゃない吉二郎。8時29分。
信吾の運の強さを思い知らされるばかり。

笑う瑛太、泣く鈴木亮平
8時30分(テレビオンエア時間)、時代は明治に。
明治天皇(野村万之丞)が京都から東京城(元・江戸城)へ。神々しいお姿が映る。
さあ、いよいよ、西郷、大久保(瑛太)らによる新時代がやってくる。
これからのことを語り合う吉之助と大久保だったが、新しい国をつくるため多くの人を殺してしまった罪を背負い、薩摩に帰りたいという吉之助に、ショックを受ける大久保
吉之助の置き土産は、子どもの頃(1話)に斉彬(渡辺謙)のカステラが包んであった鹿児島と書いた紙。
はははと空虚な笑いが尾を引き、やがて、がす! 紙を叩きつける瑛太。

薩摩に帰ってきた吉之助。「いまじゃった」3回目。
吉二郎がいない。
「ああっ」とすべてを理解した顔する川口雪篷(石橋蓮司)の名・顔演技。

一歩も引くことなく最後まで闘ったと園に伝えられるが・・・たぶんほぼ無駄死に。でもせめて園にはいいふうに伝えたい。これが、前半、小平衛がさも自分の活躍のように語っていたこととつながっているのだろうと思う。

吉二郎が兄のために小金を貯めていたことを知る吉之助。丁寧に記録してある帳面を見て、泣く。
このエピソードは良かった。
いまや、吉之助は、巨額や多くの兵を動かせる身である(島津とのエピを見ても)。一方、吉二郎の貯めていたお金はそれほどでもないだろう。下級武士の家に生まれながら、畑仕事をして慎ましく生き、金を少しずつ貯め(しかも自分のためでない人のため)、戦闘能力も身に着けないまま戦場で命を散らしてしまった、その儚くも尊い命を、吉之助は激しく惜しむ。渡部豪太の草食系動物ぽい黒目がちの瞳とやさしげな雰囲気がここで効いてくる。

鈴木亮平の泣き。いわゆる様式的な泣きでなく、あくまで自然な泣きだった。この人は、渡辺謙のような派手な様式的演技を選ばない。どっちがいい悪いではない。これが鈴木亮平のあくまでも庶民目線で生きる西郷吉之助なのだろう。これまで1〜38話のなかでここが最もいい芝居に感じた。なにしろ、西郷吉之助のとても大きな転換点だ。鈴木亮平は誠実に誠実に、自分が演じるべき吉之助を形作っている。

そして吉之助は髪を切る。
視聴率は、10.2%(ビデオリサーチ調べ 関東地区)だった。

いよいよ39話から最終章に突入。
髪型角刈りのおなじみ西郷隆盛の姿に。
愛加那、復活。
西田敏行も声だけでなく出演。
歴史コーナーの歌も変わった。
(木俣冬)