うどんとカレーのセットメニューを頼むと、ハーフサイズではなく、フルサイズのカレーとうどんが620円で出てくる山田うどん関東ローカルのチェーン店だが、量に対するコスパが異常に高く、ブルーカラー層の男性客や若者層を中心に根強い人気を誇っている。「山田者」と呼ばれるほどのコアなファン層を獲得できる理由は何か。山田食品産業の山田裕朗社長に聞いた。(取材・文:阿部 崇、撮影:NOJYO[高木俊幸写真事務所]、うどんのみ筆者撮影)

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2018年は第二創業の年

――ももいろクローバーZとコラボして話題になるなど、ここ数年、じわじわと山田うどんのブームが来ています。何が人気を呼んでいると分析していますか。 

山田裕朗氏(以下、山田) よく聞かれるんですけど、特に当社から著名人に売り込んでいるわけでもないし、特別なプロモーションはしていません。 

 ただスーツにネクタイ姿ではなく、家庭の延長線上的な、Tシャツにジーパンサンダルで気楽に入っていける雰囲気作りを心掛けています。その泥臭い姿勢がウケているんじゃないでしょうか。

――そういう熱い支持がありながら、この数年、新規出店はなかった。それが今年(2018年)に入って、ふじみ野店、さいたま丸ヶ崎店、武蔵藤沢店と新規出店が続いている。戦略変更があったのでしょうか。

山田 6年前に私の父親である先代(山田裕通氏)が亡くなってから、お店や会社のあり方を見つめなおす機会がありました。その中で、不採算店等の整理を進めてきました。この数年で20店以上は閉店しましたが、新規出店はしてこなかったんです。つまりスクラップ&ビルドじゃなくスクラップ&スクラップ

 そのお陰でかなり筋肉質の会社になりました。今後の会社成長を考えるとやはり新規出店は基本路線です。そこで今年を第二創業の年と位置づけ、新たな店舗展開を行っていこうということです。

 一方で、160店以上ある既存店の中には老朽化しはじめているところもある。そういう店のリニューアルもしなくちゃいけない。ですから今後は、年に1~2店舗の新規出店と数店舗のリニューアルをしていこうと考えています。

――今年7月、屋号を「山田うどん」から「ファミリー食堂 山田うどん食堂」に変更し、かかしマークの表情もへの字口から笑顔に変えましたが、これも「第二創業」の一環ですか。

山田 そうです。この7月に新規オープンした店から、新しいロゴとマークに変更しています。その他の既存店は、改装をめどに徐々に変えていきます。

 屋号を「ファミリー食堂 山田うどん食堂」に変えたのは、うちのコアなお客さんには「山田うどんはガッツリ系のメニューで定食もある」というのは知れ渡っていますが、利用されたことのないお客さんからは「うどんしか扱っていないのか」と敬遠されることも珍しくないからです。メニューを見てもらえれば分かるように、うどん、そば、ラーメン、定食、丼ものなどバラエティは豊かなので、女性客やファミリー客を迎え入れられるはずなんですが、そこが世の中に十分伝わっていない面があった。

 ですから「うちはうどんだけじゃない。定食もサイドメニューも丼物もある。あらゆるメニューを扱っている“食堂”なんですよ」ということをアピールするために「食堂」を付けることにしたんです。

ライバルはコンビニ

――ブルーカラー層に浸透する一方でファミリー層も取り込もうとすると、今後、競合する業態として想定しているのは、ファミレスなのか、うどんチェーンなのか、あるいは牛丼チェーンなのか。

山田 まずファミレスは価格帯が違います。牛丼チェーンは丼物の単品が主力ですよね。丸亀製麺さん、はなまるうどんさんなどのうどんチェーンも、どちらかといえばうどんの単品。

 うちは「山田うどん」という屋号ですが、ウリはうどんだけじゃない。製麺屋としてスタートしているので麺の製造に関してのこだわりはありますが、うどん以外の人気メニューも豊富です。

 だから私は「意識する業態は?」と聞かれた時には、「コンビニ」と答えています。コンビニとは、価格帯も扱う商品も多いという点も似ている。それから郊外では大型車が停められる広い駐車場を持っているという共通点もあります。ですからコンビニの動向には気を配っているつもりです。

――「早い、安い、うまい、腹いっぱい」がコンセプトの山田うどんにとっては、価格設定も重要な戦略です。ここはかなり気を配られますか?

山田 それは気を使います。価格帯からして、うちは毎日来てくれるお客さん、常連のお客さんも多い。そういうお客さんに対して、たとえ10円、20円であっても簡単に「値上げします」とは言えません。安くてボリュームがある、という山田うどんのイメージは壊さないように気を使っています。

――うどんに関しては、いま全国的にコシのある讃岐うどんに人気があります。また山田うどんの本社のある所沢近辺は、コシが強くて太い「武蔵野うどん」というご当地うどんもある。その中に合って、山田うどんのうどんは柔らかいコシのない麺。柔らかめのうどんを提供し続けているのは何か考えがあってのことでしょうか。

うどんは「柔らかめ」がスタンダード

山田 うちはうちなりに工夫をして作ったいい麺を自信をもって提供しているだけですよ。

 讃岐うどんのブームがあってから「コシがあるのがおいしいうどんだ」っていう意識を持つ人が増えたのかもしれませんが、関東でも、あるいは全国的に見て柔らかめのうどんのほうがスタンダード。讃岐うどんを食べ慣れたお客さんからみれば「柔らかいな」と感じるようになった、というだけのことなんです。

 それに、武蔵野うどんはかなり堅いので、好きな人は好きでしょうが、万人向きではない。歯が悪い人やお年寄りでは食べられないのではないでしょうか。

 コシの強いうどんがもてはやされているからと言って、うちが慌てて追いかけたって二番煎じ、三番煎じにしかなりません。うちはそんなことをせず、昔ながらの独自の路線でいこうというだけのことです。

 それに柔らかめの麺は、セットにした場合、ご飯もののメニューとも相性がいいですし、うちの麺に親しんで大人になった人たちには安心感や懐かしさを感じてもらっていると思っています。

――五反田TOC店のうどんは他の店舗と違うという噂ですが、何か違いがあるのですか。

山田 うちのうどんは、自家製麺したものをセントラルキッチンで茹でて冷やし、それをひと玉ごとに袋詰めしてチルド状態で各店舗に配送しています。一度茹でた麺だから、お店ではさっと茹でればすぐにお客様に提供できる。麺が柔らかめというのも、このチルド状態にしている間に水分が麺に浸透しているから、という理由もあります。

 五反田のお店のうどんは、途中までは一緒ですが、茹でたところで抜き出して、急速冷凍をかけています。ですからそこで水分の浸透もストップしている。他のお店のうどんよりは、コシのある感じになっていると思います。試験的に新しい製法を取り入れています。

――昨年(2017年)暮れには、東京・清瀬市に「県民酒場ダウドン」という居酒屋をオープンし、新業態にも進出しました。

山田 新規の店舗用地を探している中でたまたま駅前の案件がありました。駅前の店なら、山田うどんをやるより、電車の乗降客をターゲットにアルコールをメインに提供することもできます。それで、これも試験的にやってみようかと。

 うちがやるお店ですから、やっぱり値段には妥協しません。レモンサワーは4種類用意しましたが、全て290円にしました。センベロ的な店です。それから山田うどんで扱っているメニューを、あえて別の調理方法をして提供しています。餃子も使っているのは同じ餃子ですけど、「ダウドン」では鉄鍋の羽根つき餃子にしています。山田うどん名物のもつ煮込み「パンチ」も、お皿ではなく親子鍋で熱々のものを出しています。まだ試行錯誤の最中ですが、そういうこだわりを持ってやっています。

「どんくさい」のが山田うどんらしさ

――新規に出すお店は外見も少しオシャレになっています。昭和っぽさが山田うどんの魅力でもあったと思うが、「山田らしさ」はどう残していくのか。

山田 山田うどんのいいところは、自分の家で食べているような味や雰囲気というところ。他の外食だと、空間も含めて、非日常的なものを提供していますが、うちは家でも食べられそうな野菜炒め、生姜焼き、その延長線上のものが受け入れられる傾向があります。

 だからうちでは、奇をてらったメニューやこじゃれたメニューは動きが鈍い。今年夏に季節限定で出して好評だったサラダうどんも、全然ヘルシーじゃなかった。うどんにから揚げが載っていましたから。そういう「どんくさい」ところが山田うどんらしいところだと思っています。

 新規店だからといってメニューの豊富さや店の雰囲気といった山田うどんの良さは外から見て分かるわけではありません。まずはお客様に店に一歩、足を踏み入れていただけるよう、外観や内装に女性客やファミリー客が入りやすいような工夫をしますが、そんな中にも山田うどんらしい「どんくささ」は今後も失わないようにしていこうと思っています。

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