陸自の水陸機動団とその水陸両用車が、米比の海兵隊と共に軍事演習を実施しました。場所はフィリピンのルソン島。いま世界中で最も注目を集めるエリア、南シナ海に面する島です。

「日本版海兵隊」が米比の海兵隊と

2018年10月、南シナ海に面するフィリピンのルソン島で、アメリカ軍フィリピン軍の共同演習「カマンダグ2」が実施されました。この演習には、じつは日本の陸上自衛隊、それも「日本版海兵隊」とも呼ばれる水陸機動団の隊員と「AAV」こと水陸両用車も参加していたのです。

そもそも、今回フィリピンでの「カマンダグ」演習に参加した陸上自衛隊の水陸機動団とは、いったいどのような部隊なのでしょうか。

水陸機動団は、敵によって奪われた島に上陸し、これを奪い返すことを専門として2018年3月に発足した島しょ奪回部隊です。そのため、陸上自衛隊のほかの部隊とは異なり、保有する装備品も「海から陸」を目指すことが意識されています。とくに、水陸両用車AAVはその代表格ともいえる装備品です。

「AAV」は、アメリカ海兵隊をはじめ世界各国の軍隊で採用されているベストセラー水陸両用車で、沖合の船から発進し、海を渡って浜辺へ直接上陸できるユニークな装甲車両です。また、搭載する機関銃グレネードランチャーにより、上陸した歩兵部隊を掩護することもできます。

また、水陸機動団はこのような「海から陸」を目指すという特性から、災害時における活躍も期待されています。2018年だけでも、たびかさなる豪雨や台風などによる水害が日本列島を襲いましたが、こうした水害においては、被災地が水や土砂でおおわれてしまい、通常の部隊では効率的な救援活動を実施することが難しくなるという問題があります。そこで、水陸機動団が保有するボートやAAVが活躍することになります。こうした装備を活用すれば、水浸しとなった被災地でも高い機動力を発揮することができます。

そのような部隊や装備が、日本から遠く離れたフィリピンで、一体どのような訓練を行ったのでしょうか。そして、そこから読み取れる意義とは、いったいなんでしょうか。

陸自はフィリピンで何をしていた? 共同演習「カマンダグ2」とは

水陸機動団が参加した共同演習「カマンダグ2」とは、もともと2017年にアメリカとフィリピンの二国間演習としてスタートした年次(1年ごとの)演習で、今回で2回目の実施となります。訓練内容は「対テロ作戦」と「人道支援・災害救援」というふたつの種類に分かれていて、それぞれの目標を達成するために実弾射撃や都市部における戦闘訓練、負傷者の搬送や治療といった訓練が行われます。

今回、水陸機動団が参加したのは後者の「人道支援・災害救援」に関する訓練で、10月6日にはアメリカ海軍揚陸艦アシュランド」からAAVを発進させて浜辺に上陸し、負傷者を搬送する訓練を実施しました。これは、すでに述べたように水陸機動団が災害時における活躍も期待されていることを考えれば、非常に重要な訓練内容だったといえるでしょう。

ちなみに、今回水陸機動団はAAVをアメリカ海軍揚陸艦アシュランド」に搭載して訓練を実施しましたが、陸上自衛隊のAAVがアメリカ海軍の艦艇に搭載され、かつ運用されたのは初めてのことです。

水陸機動団の「カマンダグ2」参加が持つ意義

共同演習「カマンダグ2」に水陸機動団が参加したことには、いったいどのような意義があるのでしょうか。

第一に、アメリカ海兵隊フィリピン海兵隊との連携を深められたことが挙げられます。水陸機動団は、その母体となった西部方面普通科連隊が発足した2002(平成14)年から数えてもまだ十数年の歴史しかない新しい組織です。その水陸機動団にとって、より長い歴史を持つ他国の海兵隊、とくに長年にわたる実戦経験をほこるアメリカ海兵隊との連携が深まることは、彼らから知識やノウハウを得られるという意味において、そして、有事が発生した際には共に戦うパートナーとなる存在として、非常に有意義なことです。

たとえば、今回水陸機動団はアメリカ海軍の艦艇ではじめてAAVを運用したことは先に触れましたが、いざ有事に際して、アメリカ海軍の艦艇から陸上自衛隊がAAVを運用することになった場合や、アメリカ海兵隊と連携した上陸作戦を実施する場合、相手がどのような手順でどのような動作をするのかを理解しておけば、連携がよりスムーズにいくことは想像に難くありません。そうした意味で、今回のような共同演習は重要な意義があると言えます。

そしてもちろん、「対中国」

第二に、水陸機動団が南シナ海に面するフィリピンに展開したというメッセージ性が挙げられます。南シナ海と言えば、中国による軍事的影響力が高まりつつあることが注目されていますが、その南シナ海に面するフィリピンでの演習に陸上自衛隊、それも島しょ奪回を任務とする水陸機動団がAAVを持ち込んで参加したことは、中国に対するある種のメッセージとなったのではないかと筆者(稲葉義泰:軍事ライター)は感じます。

たしかに、今回の「カマンダグ2」において水陸機動団が参加したのは「人道支援・災害救援」の訓練だけでしたが、実際にアメリカ海軍の艦艇からAAVを発進させ、浜辺に部隊を上陸させるという一連の流れは、有事における上陸作戦においても大きく変わるものではありません。つまり、はっきり明言されているわけではないものの、南シナ海での中国による軍事的影響力の強まりを日本が警戒しており、いざとなれば日本も南シナ海の問題に関与するという姿勢を見せるための演習参加だったということは言えるかもしれません。

加えて、「カマンダグ2」はどこかの国との戦争を想定した訓練ではなく、あくまでも「テロや災害との戦い」に備える演習であるため、いくら実施場所が南シナ海に面しているとはいえ中国を過度に刺激することは考えにくいために、陸上自衛隊としても参加するハードルが低く、かつアメリカ軍フィリピン軍との連携を深められるという意味においてはこれ以上なく理想的な演習だということも言えるでしょう。

最後に、今回の演習に参加した水陸機動団の隊員1名が、2018年10月2日にスービック海軍基地の近くで発生した車両移動中の交通事故によって亡くなられました。亡くなられた隊員の方のご冥福を心よりお祈り申し上げます。

【写真】「カマンダグ2」にて、海原の水陸機動団とAAV

米海軍の揚陸艦アシュランドに搭載された陸自のAAV(中央最前列)(画像:アメリカ海兵隊)。