結婚式

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結婚式や新婚旅行は、おめでたいもの。会社にも、それを祝う休暇や給付金などの制度を用意しているところが多い。しかし、それだからこそ、ブラック企業とそうでない企業の差が現れやすいのかもしれない。

GPSを使って残業時間の証拠を自動で記録できるスマホアプリ『残業証拠レコーダー』を開発した日本リーガルネットワーク社には、結婚にまつわるブラックすぎるエピソードが寄せられた。

■結婚の予定を半年前から相談

てむじんさんは、結婚の予定が決まり、以前から上司に休暇について相談していたという。

「4月に結婚式及びハネムーンをあげるため、その半年前から慶事休暇の相談を上司にしていたが、『入れ替わりがある時期のため何とも言えない』と休暇の返答を引き伸ばされていた。

2月になってもそれは変わらないため「予約の都合もあるから返答が欲しい」と言うと『4月という忙しい時期に結婚式やハネムーンなんて非常識過ぎる。仕事に関するリスク管理ができていない』と怒られた。

一応返事を待ってから予約を、と考えていたたため、第1希望のツアーは逃してしまった」

■労組に相談しても実らず

てむじんさんは泣き寝入りせず、労働組合に相談する道を選んだ。

「半年前から相談していたのに、と腹が立ったので、職場の労働組合に相談した。一応は動いてくれて、さらに上の上司からの面接が設定された。

そこで言われたのは『忙しい時期に休暇を与えるとあなたを責める人が出てくるから、そういう人から守るために希望通りの休暇は与えられない』だった。

結果的には、就業規則ではほぼ無条件で8日間はもらえるはずの慶事休暇が5日間となり、足りない分は年休で補う形となった」

■同僚の参列も妨害

結婚式といえば、同僚や会社関係の人も招待するのが一般的だが、それに対しても妨害が行われた。

「休暇はもらえたから良しかと思ったら、今度は、式に声をかけた全ての同僚が呼び出され、『忙しい時期に人の結婚式に出るとは何事だ』と怒られ、6人中3人は欠席にさせられた。ちなみに部署は30人以上。

再度組合に相談し、これも一応動いてはくれたようだが、法人は『調査をしたがそのような事実はなかった』と返答したとのこと。ハネムーンに行っている間に何もなかったことにされていた。それが転職の決意に繋がった」

■弁護士の見解は…

早野述久弁護士(©ニュースサイトしらべぇ

人生の思い出に残るはずの晴れ舞台が、最悪にブラックな記憶になってしまった今回のケース。この会社の法的な問題点について、鎧橋総合法律事務所の早野述久弁護士に聞いたところ…

早野弁護士:結婚は一生に一度のめでたい日。結婚はだれもが祝福を受けてしかるべきもの。しかしこうした慶事が常に優先されるとは限りません。とりわけ会社員が、常に好きなタイミングで慶弔休暇を取得できるかは、会社の就業規則の規定を確認する必要があります。

というのも、就業規則上の慶弔休暇については、通常は休暇の取得条件が就業規則に定められており、就業規則に定められている取得条件に従って取得しなければならないからです。

という前提を語る。

■条件の確認が大切

条件については、慎重な確認が必要だと早野弁護士は解説する。

早野弁護士:てむじんさんのケースに当てはめると、勤務する会社の就業規則の規定上は「ほぼ無条件」であったとのことですから、てむじんさんは新婚旅行のための休暇を取得できた可能性があります。

ただし、注意点は「ほぼ」という部分で、本当に無条件かどうかは確認が必要です。例えば、慶弔休暇の取得について就業規則上に「会社側の繁忙期に該当する場合は除く」「上長の許可を要する」等の定めがある場合には、これらの条件を満たさないと慶弔休暇を取得することはできません。

てむじんさんの場合は、当初4月に新婚旅行を予定していたとのことですが、一般に4月は人事的な移動等の社内・社外行事が多く、雇用者側にとって確かに繁忙期だったかもしれません。

■休日の過ごし方について命令は可能か?

では、結婚式への参列を妨害した行為については、問題があるのだろうか。

早野弁護士:さらに、てむじんさんの上司による同僚に対する「忙しい時期に人の結婚式に出るとは何事だ」という言動についても検討します。

てむじんさんの結婚式は、会社の休日に行われたものと予想されますが、その上司は同僚に対して、「てむじんさんの結婚式に出席せずに休日出勤することを命じた」ということになります。

労使間で時間外労働・休日労働に関する労働協約(いわゆる36協定)が締結されており、かつ、就業規則等に業務上の必要があるときは休日労働を命ずることができる旨の定めがある場合には、上司は部下に対して休日労働を命じることが可能です。

しかし、いくらそのような定めがあっても、具体的な必要性がないにもかかわらず部下に対して休日労働を命じることはできません。

■嫌がらせ目的なら違法の可能性も

今回のケースについては違法の可能性もあるが、早野弁護士は、両者の歩みよりについても触れた。

早野弁護士:てむじんさんのケースでも、仮に欠席させられた3人に対して具体的な必要性がないのに休日労働を命じたり、てむじんさんへの嫌がらせの目的で休日労働を命じたといった事情があるのであれば、そのような命令は違法ということになります。

今回のてむじんさんのケースのように、個人の思惑と企業の思惑が対立する場合があります。状況によりけりで本件に該当しない場合もありますが、雇用者と被雇用者自身が、互いに歩みよれるように、一定の配慮をしあうという努力が必要かもしれません。

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(取材・文/しらべぇ編集部・タカハシマコト 取材協力/日本リーガルネットワーク

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