皆さんも鋭い牙で首筋に噛みつき、人の生き血を吸う吸血鬼の話を聞いたことがあるはず。 ホラー映画や漫画などで広く語られてきた吸血鬼伝説ですが、いつから語り継がれ、恐れられていたのでしょうか?

吸血鬼の遺骨が語る700年前の事実

皆さんは吸血鬼が創作話ではないと言ったら、信じますか? 2012年6月、ブルガリア南東部にある黒海沿岸の都市・ソゾポルの教会跡で、700年前の人骨が多数発見されました。それらの遺骨は鉄の棒で胸を刺され、歯が引き抜かれていたそうです。ここで発掘された人骨は吸血鬼の遺骨として、ブルガリアの国立歴史博物館で展示されました。

また、2009年にはイタリアでも、16世紀の吸血鬼の遺骨が発掘されています。この遺骨は鉄の棒が打たれているのではなく、レンガで口を塞がれていたものでした。

これらの発見により、「現世で悪行を働いた人間は、死後、吸血鬼となって蘇る」という宗教的な考えを持った当時の人々が、鉄の棒を打ち込んだり、レンガで口を塞いだりして吸血鬼への変化を防いでいたと考えられています。
つまり、吸血鬼がただの創作話ではなかったことを物語っているのです。

吸血鬼の正体は腐敗した古死体?

吸血鬼信仰がピークを迎えたのは17世紀頃だといわれています。当時、結核やコレラなどの疫病が大流行していた中世ヨーロッパ。疫病で亡くなった人を墓に埋めようとした際、腐敗した古死体から血のような液体が流れるのを見て、まだ死体の腐敗や疫病の知識がなかった人々が、それを吸血鬼と結びつけた可能性が高いと考えられています。

ただし、実際に当時を知っている人は誰もおらず、その考えの証拠を実証するのは書物や発掘された遺体のみ。また、吸血鬼神話の起源は11世紀までさかのぼるともいわれており、考古学者は現在も吸血鬼と呼ばれる人の遺骨を発掘し、その起源を明らかにしようとしています。

古代からの伝統を、恐怖とともに再構築

16世紀以前の吸血鬼の人骨が発見される前は「吸血鬼のように死者が人肉を食べるという考えは、ヨーロッパでは17世紀まで現れない」と考えられていました。しかしこれらの人骨が発見されたことで、それまで唱えられていた説が覆えされました。

「死人に口なし」という言葉がありますが、何百年も前の遺骨が当時の考え方の証拠を裏付け、これまで常識とされていた事実を覆すこともあるのが考古学のおもしろさです。人骨に限らず、遺跡や遺構、遺物などを残された書物など、あらゆる情報と突き合わせながら、当時の社会の姿を浮き彫りにしていく考古学考古学者がこぞって明らかにしようとしている、吸血鬼の本当の起源を見つけ出すのはあなたかもしれません。

【出典】
NATIONAL GEOGRAPHICブルガリアの吸血鬼、鉄杭と抜歯の意味
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/6437/

NATIONAL GEOGRAPHIC|第5回 バンパイアと人狼、伝説誕生の経緯を検証する
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/web/16/111800018/041300007/

Mirror|Grab the garlic! 'Vampire' skeletons with iron rods stabbed through their hearts found in Bulgaria
https://www.mirror.co.uk/news/latest-news/vampire-skeletons-with-iron-rods-stabbed-864391

REUTER|ブルガリアの博物館で「吸血鬼」の遺骨公開へ、100体以上発見
https://jp.reuters.com/article/tk0826054-bulgaria-odd-vampires-idJPTYE85B03I20120612