こんにちは!学生ライターの高木です。今回の企業潜入レポ第17弾では、独立行政法人国際協力機構(JICA)で働く北松祐香さんからお話をお伺いしています。

前回の記事では1日のお仕事の流れや海外でのご経験について大まかにお話しいただきましたが、今回は海外赴任時のエピソードをさらに詳しく伺いながら、海外で働くことのやりがいや苦労に迫ります。

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現地の人々の生活をより豊かにするために

f:id:hito-contents:20181011172601j:plain独立行政法人国際協力機構 社会基盤・平和構築部 北松祐香さん

高木:JICAに新卒で入ってから6年目でネパールへの海外赴任を経験されたとのことですが、どれくらいの期間ネパールに滞在されたのですか?

北松:ネパールのJICA事務所には、2年8ヵ月間赴任していました。赴任当初は総務班に配属され、日本人とネパール人、合わせて50名ほどの事務所の運営の役割を担っていました。事務所の安全管理や人事業務などの他、「何でも屋」みたいな感じで何かトラブルが起こったらそれに対応するなど臨機応変に仕事をしていましたね。その後、事業班に移り、主に地方行政のプロジェクトを担当しました。

高木:海外で様々なことを経験されていて本当に尊敬します。印象に残っているネパールでの仕事は何ですか?

北松:ネパールのいくつかの地方の郡との協力で、「地方行政強化を通じた流域管理向上プロジェクト」(通称SABIHAA)を担当したことが一番印象に残っています。これはネパールの土壌保全と流域管理に取り組むプロジェクトで、元々の始まりは1991年に遡ります。以降20年以上に亘って、その時々の政治情勢や行政の構造を踏まえて断続的にJICAが支援を行い、ネパールの土壌保全局と共に村落部の土壌保全モデルを形成したのです。

実は、土壌保全ってあまり語られないテーマですけど、農業のためにも土砂災害等から身を守るためにも、村落部ではとても重要なんです。そこで、「住民が高い関心を寄せる生活向上を主眼とした村づくり」の一環に土壌保全を据えることで、生活向上や村づくりをしながら土壌保全もできちゃう、そんな仕組みを作ったプロジェクトでした。
具体的には、対象の村の中で住民組織を作り、どんな問題を解決したいのかなどを話し合ってもらいながら村の開発計画を立てました。開発計画の中では、必ず土壌保全の計画も立ててもらいます。その上で、プロジェクトからは主に土壌保全分野の計画に予算付けを行うのですが、それ以外のもの、例えば病院や学校の建設等、土壌保全と直接関連のない計画については、住民組織が村役場と交渉するためのサポートを行いました。村役場としても、人手不足でなかなか住民の意見を反映した計画づくりができていない中で、住民発意の開発計画はとても歓迎され、実際たくさんの予算配分が実現しました。

また、開発計画をつくる過程で、住民組織のメンバーの女性がなかなか積極的に議論に参加できない状況が見られたんです。お金を稼がない女性たちは家庭内でも発言権がないことが多かったので、このプロジェクトの中で女性組合をつくり、マイクロクレジットとヤギの飼育を行うことによって、お金を稼げる仕組みを作るようにしました。

f:id:hito-contents:20181010172631j:plain日本人専門家、土壌保全局職員らで構成された土壌保全のプロジェクトメンバー。後列の左から1番目が北松さん。

高木:色々なプロジェクトが動いていたのですね。村はどう変わったのですか?

北松:村がまとまったと喜んでくれる住民が多かったです。村の女性も仕事を持ったことでどんどん力をつけてきて、住民組織の協議で積極的に意見をする女性の姿がたくさん見られました。最終成果の報告会でも村のお母さんが堂々と、そして生き生きとスピーチをされました。「ネパールの村では、これまでも外国によるさまざまな支援が行われていますが、本当に貧しい村人を巻き込み、ニーズをくみ取り、活動に反映したのは、このプロジェクトだけです」と言っていただいた時は、とても嬉しかったです。

高木:すごいですね!自分の仕事によって現地の人々の生活が良くなっていくことが見えると、大きなやりがいになりますね。

日本とネパールの生活のギャップ

f:id:hito-contents:20181010173048j:plainネパールはこのあたりです!

高木:ネパールで働いていた時、文化や考え方など日本との違いを感じたことはありますか?

北松:ネパールでは、家族・親戚との交流を日本以上にとても大事にしていると思います。遠い親戚も繋がっていて、家族皆でよく集まっています。
また、ネパールお祭りが多く、皆お祭りに全身全霊で取り組むんです!その活気ある姿を見ると感動しますね。お祭りが多い分、休日も多いです。 

高木:僕も東南アジアを旅行した時、現地の方にたくさん親戚を紹介してもらったことがあります!アジアにはそういう国が多いのかもしれません。ちなみに食べ物はお口に合いましたか?

北松:ネパールの料理は本当に美味しいですよ!特にダルバートっていう豆カレーが大好きでした。サラサラのカレーとお米に、野菜の炒め物もついたオードブルのようなものです。日本人が好む味だと思います。

高木:ダルバートですね!早速調べてネパール料理屋さんで食べてみようと思います。

北松:ぜひ!ちなみに、ダルバートは国民食という感じでどこの地域でも食べられているのですが、地方部の貧しい地域に行くとほとんど具が入っていない、付け合せもないダルバートが出てくるんです。普段街中で私が食べているダルバートとは全く違っていて、その時自分がもっと目を向けるべき貧困格差があることを実感しました。

震災で壊れてしまった世界遺産を守りたい

高木:ネパール赴任中、北松さんが一番達成感を感じた仕事は何でしたか?

北松:震災によって壊れてしまった世界遺産を修復するプロジェクトです。ネパールに赴任して1年半経った頃、現地でマグニチュード7.8の地震が起こって、8,000人以上の人が亡くなり、たくさんの方が家を無くしました。特に震源地付近では地滑りで村ごとなくなってしまった場所や、カトマンズのJICA事務所や私の家の周りでも世界遺産のお寺が跡形もなく崩れ、レンガ造りの伝統的な住宅街も失われてしまいました。ネパールの建物の耐震性は日本と比べるとかなり低く、日本であればそれほどの被害になる揺れではなかったと思うのですが、ネパールにとってはとても大きな打撃となりました。

地震後、JICAも復興支援をすることになりました。はじめは緊急援助隊の派遣や住宅再建の検討など、生活に必要な復興が優先されましたが、ネパール人の友人から「多くの現地の人々が壊れた世界遺産を建て直したいと思っている。避難キャンプの人たちもお金を集めて努力している」という話を聞いて、世界遺産の建物の修復も復興の一環として取り組むべきだと感じました。JICAの中でもそのような議論が醸成されていき、文化遺産の修復プロジェクトを形成することとなったんです。
震災から2ヵ月ほど経過したところで、日本の文化財研究の先生方にネパールにお越しいただき、日本の技術をどう使えばネパールの文化遺産の復興に役立つかの検討を行いました。色々検討した結果、震災後、とても危ない状態になっていた世界遺産のお寺の一つの修復支援にたどり着きました。JICAには文化遺産の支援実績はありますが、ユネスコ世界遺産の修復支援はおそらく初めての事例だと思います。私は元々、文化的なアイデンティティや心の充足といった考え方に関心があり、文化遺産を守る意義を強く感じていたので、とても達成感を感じました。

高木:北松さんの想いがJICA初のプロジェクトを後押ししたのですね。では逆に、海外赴任中に失敗してしまった経験はありますか?

北松:たくさんあるのですが(笑)、震災の時にネパール人の同僚とのコミュニケーションで失敗してしまったなということが印象に残っています。日本人である私は地震に対して免疫がありましたが、現地職員にとっては初めての経験で、地震が起こった時はパニック状態でした。私は援助を受け入れることばかりに目が向いてしまって、スムーズに援助が受けられるように現地職員に対しても協力を仰ぐような指示を出していたのですが、彼らの家族が大変な状況になっていたり、自宅の建物にも被害が出たりしている中で、彼らに対して自分のペースでどんどん物事を進めてしまったことは良くなかったな…と反省しました。

高木:地震に慣れている日本人の感覚で行動してしまったということなんですね。援助を受け入れることが現地の方を救うことになるので、正しい行動ではあるのですが、確かに進め方が難しそうですね…。

北松:そうですね、現地の方にもっと寄り添えればよかったと感じました。

目標は文化財の価値をもっと高めること

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高木:海外で様々な経験をされてきた、北松さんの今後の目標を教えてください。

北松:短期的な目標で言うと、文化財への支援をもっと盛り上げていきたいと思っています。また、大学の頃から興味があった都市計画や都市の景観に関するプロジェクトも現在担当しているので、成功させることができるよう頑張りたいです。
少し長期的な目標としては、文化財支援の意義をもっと多面的に、定量的に語れるようになることでしょうか。現状、文化財は経済効果の観点でしか意義がないというような風潮があります。私は文化財には経済的価値だけではなく、精神的な面での実用性も多いにあると考えています。例えば、お寺などの文化遺産が地域の人々の信仰の対象、心の拠り所になって多くの人がそれによって救われるということがあるのではと思うんです。この価値についてもっとロジカルに自信を持って打ち出すことができるよう、研究していきたいです。アメリカ留学中に大学院で心理学や幸福度の勉強をしたことも活かせるのではないかと思っています。

次回は北松さんの就活のお話やJICAで働く魅力をインタビューします! 

北松さん、ありがとうございました。ネパールでのお話、どれもとても興味深かったです。僕も北松さんとまではいきませんが、残りの大学生活で様々な経験をして、魅力的で面白い話ができる人間になろうと思いました。

さて、次回はJICAで働く北松さんのインタビュー記事最終回です。北松さんの就活時代のお話を中心に、JICAで働く魅力とは何かをインタビューしました!是非ご覧ください。

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取材&執筆:高木智也

明治大学4年生。大阪府出身だが、現在は会話の8割が標準語。ゴルフにハマりかけているが、パット能力がなく一向にスコアが伸びない。残りの大学生活を満喫するため、日々いろいろなことに挑戦している。

【JICA取材】ネパールでの国際協力・復興支援を経験し、見えた目標