海外では最大級の日本酒の利き酒イベント「ジョイ・オブ・サケ」が、9月28日ロンドン市内でヨーロッパにおいて初開催された。米ハワイで立ち上げられ、日本国外では最も歴史が長い日本酒イベントだ。従来は日米間のみで開催され、ニューヨークホノルル、東京を中心にサンフランシスコやラスベガスを回ってきたが、18年目を迎える2018年は、第50回目の開催地としてロンドンが加わりヨーロッパ初進出となった。

日本で「酒」は日本酒でも特に清酒を指す固有名詞であると同時に、酒全般という意味でも使われるが、欧米では主に「サケ(Sake)」イコール日本酒、つまり清酒を指す。発音も「サーケー」に近く、その名称は以前にも増してより広く親しまれている。日欧米の四都市での順次開催となる本年のジョイ・オブ・サケは、累計約4500人の来場者数を見込んでいて、11月7日の東京開催がフィナーレを飾る。

ジョイ・オブ・サケのロンドンでの初開催には、どんな意義があるのか。現地取材してみた。


大吟醸から山廃、生もとまで478種類が試飲可
ジョイ・オブ・サケの醍醐味は何よりも「飲み食い」だ。多種多様な日本酒の銘柄を集めつつも、開催地内外の和食を主としたレストランや食品会社が日本酒と「おつまみ」との組み合わせを模索する。

同イベントの公式発表では、今回は過去最多となる478種類もの日本酒が利き酒のために用意された。日米の41都道府県と1州から194軒の酒蔵が参加し、それらの中にはカリフォルニア州の米国宝酒造と米国月桂冠も含まれている。会場となったロンドン市内のバービカン・センターの催し物会場は文字通り日本酒で埋め尽くされた。会場内には吟醸、純米、大吟醸という周知の各部門に加えて、昨今日本国外でも脚光を浴びている、より伝統に根ざした「山廃・生もと」部門も用意され、日本酒通もうならせた。とはいえ、大半は高級路線の大吟醸である。

特に好評だったのが「山廃・生もと」部門だった。例えば京都の「木下酒造」が造る「玉川 Time Machine 1712」に高い関心が寄せられていた。この日本酒江戸時代の製法で造られ3年間熟成された、黄金色で超甘口の古酒である。大分の「西の関酒造」が出品した1988年醸造の琥珀色の古酒「超辛口」にも人だかりができていた。色つきの古酒がイギリス人来場者の心をつかんだ背景には、現地で根強く定着しているウイスキーやワイン文化の存在があるのかもしれない。

今回出そろった日本酒のお披露目は、ホノルルで毎年行われる日本酒の品評会「全米日本酒歓評会」に出品された銘柄の一般公開という形である。「歓評会」とは「鑑評会」をもじったもので、「日本酒を味わう歓び」という意味合いが込められている。全米日本酒歓評会では、日米両国より11名の審査員が招かれ、日本酒の最高峰である大吟醸部門を中心に、各部門ごとに金賞・銀賞をブラインド・テイスティングにて選出する。「日本文化の紡ぎ手」を担う親善大使として5代目「ミス日本酒」の須藤亜紗実さんも日本から参加した。


海外進出で切っても切れない日本酒と現地の食とのペアリング
日本酒の海外展開で不可欠となるのが食べ物との組み合わせだ。ジョイ・オブ・サケのロンドン開催では、ロンドンの有名和食レストランが筆頭となり14種類の工夫を凝らしたおつまみを提供した。和食はすし、刺身、南蛮漬、高野豆腐など多岐にわたった。

一例を挙げると、「銀座おのでら」のロンドン支店で料理長を務める岸亮介さんが考案した鹿肉のにぎりずし。この時期、鹿肉が良く食されるイギリスでは鹿肉の癖のある味を「ゲーミー(gamy)」と表現するが、その臭みを田舎みそ、酒粕、有馬山椒でマリネすることにより消してあるのだ。日本酒に合うように、赤身魚顔負けの芳醇な味とキレのある食感を引き出し、口直しにフランス風の金柑のコンポートを添えた一品だ。

一方、ロンドンのすしレストラン「ダイニングス」と「スシ・サンバ」は、今世界中で注目度が高まる南米やハワイの日系人が培ってきた「日系料理」寄りの料理を提案。日系料理は、唐辛子などでパンチを効かせたり、トッピングが豊富なのが特徴だ。「ティラディト」と呼ばれるスタイルの刺身と、見た目重視の飾り巻きずしが提供された。

他にはチーズ、アンチョビ、生ガキなどヨーロッパならではの食品も散見され、日本酒とペアリングされた多彩なおつまみが会場を彩った。


ジョイ・オブ・サケがロンドン初開催となった背景は?
今回のロンドン初開催に至った経緯を、同イベントの主催者であるアメリカ人のクリス・ピアスさんは「日本酒の市場はヨーロッパではロンドン日本酒市場が一番回転していて、日本酒を知っている方が多い」と語った。そして「ロンドンには良い日本酒に見合う良いレストランがあり、現地で日本酒の管理や説明を徹底すれば、日本はおいしい日本酒を造ることに専念できる」と流通についても説いた。

今回出品した日本酒の輸入を受け持った松井恒治さんは「アメリカでは日本酒を輸入する際の審査が厳しいが、イギリスはそうでもない」とイギリス市場の利点を述べた。

今回のロンドンでのジョイ・オブ・サケの初開催は、日本酒のヨーロッパ全土への普及に向けた建設的な第一歩に違いない。日本国内での日本酒需要が低迷するなか、いかに海外へ向けてアピールし、世界的な需要を確保していくべきかと、日本の各蔵元は試行錯誤を重ねている。ロンドン初のジョイ・オブ・サケは、その可能性を先導する革新的なイベントとなった。
(ケンディアナジョーンズ

大きめの猪口からスポイトで日本酒を手元の酒器に移し替えて試飲する