(筆坂 秀世:元参議院議員、政治評論家)

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 私も30年以上、籍を置いていたので熟知していることなのだが、日本共産党の選挙総括や運動の総括は、本当に牽強付会なものが多い。牽強付会とは、言うまでもなく「道理に合わないことを、自分に都合のよいように無理にこじつけること」である。

 日本共産党の第5回中央委員会総会が、10月13、14日の2日間にわたって行われた。志位和夫委員長は、この会議で来年の統一地方選挙参議院選挙の方針を決めることを第一の課題だと述べたが、それだけではない。

 6月19日付の本欄(「率直に表明された共産党・党勢拡大運動の悲惨な現状」http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53349)でも紹介したことだが、同党は6月11日に緊急の第4回中央委員会総会を開き、6月11日から9月30日の約4カ月間を「参議院選挙統一地方選挙躍進 党勢拡大特別月間」に設定し、その成功のために邁進してきたはずである。その結果がどうだったのかを総括することも、この会議の重要な課題であるはずだ。

 ところが、約1時間40分もかけた志位氏の報告では、党勢拡大についての報告がなかなか出てこなかった。最後になってやっとほんの少し出てくるのである。これだけを見ても上手くいかなかったことが分かる。万が一にも目標を達成していたなら、冒頭からこれでもか、これでもかというぐらい自慢話が続いたことだろう。だが、そんなことは微塵もなかったのである。

絶望的なまでに実現不可能な目標設定

 志位氏は報告で、この「4カ月で、新たな入党承認で4355人、『しんぶん赤旗』読者は、日刊紙で844人増、日曜版で6691人増、電子版(日刊紙)が2000人を超えて新しい層に広がり、あわせて約1万人の読者が増え」た。「『特別月間』の目標は、全党的には達成できませんでしたが、党勢の連続後退から前進へと転ずることができたことは貴重な成果であります」と述べている。

 本当に「連続後退から前進へと転じた」のか。6月に立てた目標は、新聞読者も党員も1.4倍にするというものだった。これは党員で12万人、「しんぶん赤旗」は45万部以上増やすという、できるはずもない目標だった。目標自体が絶望的なまでに実現不可能な不真面目なものでしかなかったのだ。

 しかも実態は、前進に転じたどころではないことは、ベテラン党員なら誰でも知っていることだ。入党承認4355人というが、これだけ党員が増えたということではない。だから志位氏も「増」とは言っていないのだ。ここから亡くなった党員や離党した党員の数を引いて、はじめて純増が何人ということになる。それを言わないということは、ほとんど純増はなかったということである。

 また読者が1万人増えたというが、大半は10月には解約になっているはずだ。多くは「9月末までお願いします」と言って購読してもらっているからだ。

 私は前述の6月の拙稿で、「志位氏や小池晃書記局長の発言を見ても、なぜ40年以上も『月間』『大運動』が成功してこなかったのか、失敗したのか、その原因についての分析が皆無なのである。話を病気に例えてみよう。なぜ病気になったのか、その原因も究明せず、適切な治療法が見つかるわけがないではないか。『病は気からだ。ともかく頑張れ』と言っているのに等しいのが、今回の共産党の『党勢拡大特別月間』なのである」と指摘しておいた。

 そのうえで、「今回も、絶対に失敗すると断言して間違いなかろう」と指摘しておいたが、その通りになった。だが、こんなことは、自慢することでも何でもない。少し気の利いた共産党員なら誰でも同じことを思っていることだろう。ただ声を上げないだけである。

党幹部が一番危機に感じるべきことは何か

 共産党にとっての一番の危機は、党員が増えないことでも、「しんぶん赤旗」が増えないことでもない。

 志位氏は、相変わらず今度の会議でも、「3割増以上の党勢拡大を」という檄を飛ばしている。そして、強く大きな党をつくる大道があり、その鍵が3つあるそうだ。

 第一、支部を直接指導・援助する地区委員会活動を強化する。

 第二、「楽しく元気の出る支部会議」を広げ定着させることです。

 第三、労働者階級、若い世代のなかでの党づくりという点では、党機関とその長が、いかなるときでもこの課題を握って離さない断固たるイニシアチブを発揮することが決定的に重要であります

 地域の支部では、平均年齢が60代、下手をすれば70代の支部が地域ではほとんどだ。10数年、20年前からそうだ。ここで「楽しく元気の出る支部会議」ができるはずがない。地区委員会は財政が窮乏しているため、専従活動家が減らされてきた。地区の専従活動家は、「しんぶん赤旗」の配達や集金の激務もこなしている。ほとんどの地区委員会は、その激務に悲鳴を上げているのだ。

労働者階級や若い世代のなかでの党づくり」などというのは、無責任な戯れ言に過ぎない。それが何十年もできなかったから、今日の党勢の減退があるのだ。こんなことは、「大道」でも「鍵」でも何でもない。何も言っていないのと同じである。

 問題は、「月間」もそうだが、こんな馬鹿げた方針に党内からいささかも異論が出ないことだ。真剣に今の共産党の危機を考えている党員がいるのなら、異論の声を上がるはずだ。それがないことこそが、共産党にとっての最大の危機と言うべきだろう。

「おもしろい」どころか役に立たない党綱領

 共産党のホームページで開くと7月に行われた党創立96周年記念講演会での志位氏の講演が飛び込んでくる。演題が「いま日本共産党綱領がおもしろい――激動の情勢のもとでの生命力」となっている。共産党には大変申し訳ないが、「おもしろい」というのは、興味をそそるという意味ではなく、その頓珍漢さに笑ってしまうことかと思った。

 例えば志位氏は、この講演で「私たちの綱領では帝国主義論を発展させました。すなわち、21世紀の新しい世界にあっては、『独占資本主義=帝国主義』とはもはや言えなくなっている。その国が帝国主義かどうかは、その国の政策と行動のなかに侵略性が体系的に現れているかどうかで決まる。そういう立場から、私たちの綱領では、いまの世界で唯一、帝国主義といえるのは、アメリカだと判定しました」「同時に、そのアメリカであっても、戦争と平和の力関係が変化するもとで、いつでもどこでも帝国主義的行動をとることはできなくなっているという分析もあわせて行ったのです」と語っている。

 この程度のことが自慢なのである。分析と言えるような代物ではない。もともと「独占資本主義=帝国主義」と機械的に位置付けてきたのは共産党自身である。それを変更しただけの話しであって、第三者から見ればひとり相撲を取っているだけである。理論的な「発展」でも何でもない。実際、日本共産党綱領では、日本の現状を「日本独占資本主義」だと規定している。だからといって日本が帝国主義国と言えないことは自明であり、何を今さらなのである。

 具体的な政策と行動によって判断するというのであれば、プーチンロシア習近平の中国はアメリカ以上に帝国主義国と言えるのではないのか。だが、共産党の綱領はこのことにも何らの回答を与えていない。これでは「おもしろい」のではなく、むしろ「役立たず」と言ってよい。

 党の体質についてもそうだ。党の役員や大会などの代議員の選出で、実質的な選挙を行っていない主な政党は日本共産党だけである。規約では、選挙によって役員を選出することとなっているが、そもそも立候補を認めていない。立候補できないような選挙制度は、選挙とは言わない。共産党が党内で選挙と称しているのは、世間や民主主義の常識に照らせば、到底受け入れられないものである。

 志位氏は、「『人間の自由で全面的な発展』――これこそがマルクス・エンゲルスが、若い、最初の時期から、晩年にいたるまで、一貫して追求し続けた人間解放の中心的内容であり、私たちの綱領が未来社会の最大の特質としていることです」と述べている。上意下達、閉鎖性、窮屈きわまりない組織の共産党がこんなことを言っても何の説得力もない。「隗より始めよ」という言葉があるが、党内選挙、自由な発言など、共産党内の自由と民主主義をこそ確立すべきである。

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