来年度4月から保育園の入園を考えている方は、そろそろ入園申し込みの季節が近づいてきましたね。未だ待機児童問題は解消されず、我が子が希望の保育園に入れるかどうか、まさに死ぬ思いで保活をがんばっている方も少なくないはず。

【画像】人生はRPG?伝説の魔法使いがワンオペに悩む…漫画『伝説のお母さん』がおもしろい!

現実世界でも厳しい保活状況ですが、なんとRPG世界でも、魔王が復活したのに伝説の魔法使いが待機児童を抱えていて冒険に出られない、ということがあるようで……?

そんな現実の育児をとりまく問題のあれこれをRPG世界に落とし込んで表現した漫画がネットで発表され話題となり、『伝説のお母さん』として書籍化。

今回は、著者であるかねもとさんにインタビュー!物語が産まれた背景や、自身の子育て観について伺いました。

ゲームキャラクターに「お母さん」っていない?

――RPG世界での育児問題という、あってもおかしくないけど今まで描かれてこなかった世界が斬新でした。ご自身の保活体験もお話に活かされているんでしょうか?

かねもとさん「保活は当時、『在宅自営業ではフルタイムの正社員の方に比べると厳しいと思います』と言われ、一時保育すら渋られるような状況でした。

ただ、自身の経験というよりは、『保育園落ちた日本死ね』のブログから、都市部における保活の厳しい現状が世間に知られるようになったことや、私自身の“ゲーム好き”という、一見交わることのない要素が交わっての発想でした。

私は子どもの頃からずっとゲームが、特にRPGが好きで、子どもを産んでからもプレイしていました。

ただ、母親になってからゲームをしていると、『そういえばゲームキャラお母さんってあまりいないなあ』と考えたのが、この作品を思いついたきっかけでした」

――「専業主婦という職業は神殿にも登録されていませんよ あなたは無職です」という神官のセリフがありますよね。ご自身で感じている子育て系の問題を漫画に落とし込んでいった感じでしょうか。

かねもとさん「『母親=無職』というのは、世間の空気やニュースから感じたように思います。

主婦のしていることを年収に換算するといくら! とか、よくありますよね。いちばん気になるようになったのは、母親・主婦の方が事件・事故などに関わった場合のニュースで『無職』と表現されることでした。

自分の時間や技術を用いて懸命に家事や育児をこなし、家庭における労働をしているはずなのに、『無職』と表現される。確かに、一般常識では、給与の有無という意味で職業ではないという意味はわかるのですが、納得はできませんでした。

神官のセリフはそこから思いついています」

――そんなところも含め、今回どういったところからヒントを得て、作品を作っていきましたか?

かねもとさん「自身のゲームRPG経験からでしょうか……あとはSNSで学んだこと、影響を受けたことはとても多いです。

この作品は書き終わるまで1年以上かかりましたが、そのあいだに当初は思いつかなかったネタなどがSNSでの交流や目にする投稿でたくさん出てきました」

ゲームをしている時間は「母親」から解放される

――RPG好きならクスリと笑えてしまうようなオマージュもたくさんありますが、RPGのどういった点がお好きですか?

かねもとさん「RPGのいいところは、重厚なストーリーでしょうか。マンガアニメ、映画でもストーリーに感動するという体験はできますが、ゲームキャラクターを育て、戦いを経て、ストーリーの中に入り込むという経験をさせてくれます。まさに自分ではない誰かになれるという、『ロールプレイ』なんだと思います。

今はゲームの時間に、母親という時間から解放される自分を感じます。ただ、そうやって解放されなければゲームの世界の一員にはなれないのかな、というのも寂しくもあります。矛盾しているようですが……」

――今もゲームはできていますか?

かねもとさん「育児中の今もたくさんゲームをしています! ただ時間がないので、発売日には買っても、前のがまだ終わらず、プレイするのは数ヶ月後ということばかりです……。どうしてもプレイしたい場合は、睡眠時間を削っています……」

「なにもしない夫」のモデルは?

――最終的には「仲間」になり成長が見られましたが、主人公の夫のキャラクターは読んでいてなかなかイライラしました(笑)

かねもとさん「これは世間一般的に愚痴られている『なにもしない夫』をイメージしています。私の夫はこの夫よりは家事育児に参加していますよ(笑)

ただその『なにもしない夫』も、子どもの頃に“母が家事育児・父が仕事”という家庭、社会、価値観のなかで育った場合に、自ら『なぜ父親が家事育児をするのか』という問題には気づきづらいのではないでしょうか。

私がもし男性(父親)の立場だったら、妻側からの問題提起なしに『これはおかしい』とは思わなかっただろうなと、正直感じます。言われたところで、そういう常識で生きてきて、今自分が楽をできていて、有利な立場から苦労する立場へ自ら歩み寄ろうとするだろうか、と……そういった自分のなかの正直なずるい部分が産み出したのが、あの『なにもしない夫』であったように思います」

――ご自身で、描いていて楽しかったのはどういった部分ですか?

かねもとさん「全部楽しかったです! お話を考えるのも、社会問題をどのように絡めていくのかも、この作品に関わる全ての作業を楽しくすることができました。

全体的にギャグなので、シリアスシーンは特に描いていて楽しかったです。『離婚したほうが……』のシーンと、最後の魔王との戦いは、このお話を思いついた時から頭にあったので、ようやく描けたときは嬉しかったです」

子どもたちが新たな価値観を運んできてくれた

――あとがきにとても感動しました。「お母さんになったことであきらめた夢が、お母さんになったことで叶っている」など、印象的な言葉がたくさんあります。

待機児童問題など、漫画にも描かれている育児の大変な面ばかり取沙汰されがちではありますが、「お母さん」になってよかったな、子どもを産んでよかったなと思うのはどういったところでしょうか。

かねもとさん「あとがきについてはたくさんの反響をいただき、本当に光栄です。

子どもを産んでよかったことというか、驚くことはたくさんありました。自分自身がこんなに子どもを愛しいと思える人間であったことは最大の驚きです。

それに、子どものこれからの未来を考えたときに、今の社会を疑問に思ったり、価値観などについて色々と考えるようになりました。それは、子どもを産まなければ一生疑問に思わなかったかもしれないことだらけです。

子どもたちは私に新たな価値観を運んできてくれました。そうでなければこの作品は生まれませんでしたし、本を出すという一度はあきらめた夢が叶うことはありませんでした。

母親になる前よりも、くよくよ悩んだり落ち込むことも多いのですが、私は今の自分の考え方が人生のなかでいちばん好きです。それは、子どもたちのおかげだと思っています」

――現在もTwitterで漫画をUPされていますが、今後の漫画活動について考えていることをお聞かせください。また、「伝説のお母さん」の続編だったり、その後のちょっとしたエピソードなどは今後期待していてもいいんでしょうか?

かねもとさん「ありがとうございます! 実はもっと書きたいものがあったんですが……神官と拳闘士が合コンに行くとか、シーフの夫との話とか、後輩魔法使いの結婚に対する意識とか、夫と魔法使いの馴れ初めとか、もちろんRPGの世界での子育てはどうなるのか?という、保活だけではないギャグも。

結婚する人もしない人も、しても家族の形は様々で、いろんな女性の生き方や、多様な価値観や家庭の形を描けたらなと思っていました。そういう家庭のあり方や生き方については、専門家の意見や、もっとわかりやすくまとめている本などがたくさんあります。

私にはそういう力はありませんが、マンガという形で何かを伝えることができるなら、機会があればぜひまた挑戦したいです」

『伝説のお母さん』は、育児中なら共感できるシーンの連続なのですが、登場しているそれぞれのキャラクターも魅力的で、つい続編&番外編にも期待してしまいます……!

ギャグマンガなので、ちょっとした息抜きにも最適。ぜひ一度、手に取ってみてくださいね

©Kanemoto/KADOKAWA