「学校でなかったことにされている息子の人権と名誉の回復をしてもらうには、もう裁判しか方法がないのです」。こう話すのは、東京都立小山台高校1年の男子生徒(当時16)の遺族。男子生徒は2015年、自ら命を絶った。

この問題を受け、都教委のいじめ対策委員会は初めて調査委員会を設置。約1年8カ月かけた調査で出された報告書(2017年9月14日付)は「学校対応の不備があった」としながら「いじめとの判断は極めて困難」と結論付けたものだった。

加えて、報告書の基礎資料は、肝心の生徒や教師への聞き取り部分が60ページ以上にわたって黒塗りにされていた。再調査の結果を待たずに遺族は9月20日、「これ以上真相に迫る方法は裁判しかない」と、学校側がいじめの対策を怠ったとして都に約9300万円の損害賠償を求め東京地裁に提訴した。

「私たち当事者だけの問題ではなく、(誠実な対応をしようとしない)都のあり方の現実を世の中に広く知ってもらい改善してほしい。社会全体の問題なのです」。遺族はこう訴えている。(編集部・出口絢)

●都教委の担当者、遺族を怒鳴りつける

訴状などによると、男子生徒は2015年4月に都立小山台高に入学。クラスや部活の中で、身体的な特徴を繰り返し指摘されたり、無視されたりした。

生徒は入学直後の4、5月に行われた学校生活についてのアンケートで悩みを書き込んでいた。そこで「スクールカウンセラーに相談したい」と書いていたが、対応は何も取られなかった。また、2学期に入ってからは保健室に4回行き、2回早退をするなどSOSを発していた。

遺族側は、保護者と共有していじめの状況について調べるなど学校が適切な対応を取らなかったと主張している。

さらに、遺族は都教委の担当課長からも厳しい言葉で傷つけられるという「二次被害」にあったと主張している。遺族が「真相を調べて説明してほしい」と懇願すると、当時の教育計画担当課長は「他の人は迷惑と言っているんだ」「他の生徒にも人権があるんだ」などと言い、資料を机に叩きつけたり怒鳴りつけたりしたという。

●「裁判は最後の苦渋の決断」

遺族側代理人の尾林芳匡弁護士は「今の都教委の調査委員会の運用は、遺族の納得や理解が得られるようになっていない」と批判する。

男子生徒の自殺をめぐり都教委の調査委員会が設置されたのは2016年1月。遺族は翌月に男子生徒が自殺した直後に行った生徒と教員への聞き取り、2015年11月実施のアンケートなど個人情報開示請求をしたが、非開示が決定。

これについて審査請求を申し立てたが、開示されたのは担任と行った面談記録の一部のみ。核心の生徒や教員などへの聞き取り部分は黒塗りのままだった。

黒塗り部分には生徒への聞き取りアンケート部分が含まれていた。そのアンケートに追加して行われた聞き取りでは「ツイッターに気になるつぶやきがあった」と書かれていたが、その内容を都教委に問い合わせても明かされなかった。

非開示の理由は「他の生徒の人権や個人情報に関わるため」。これについて尾林弁護士は「過労死事件が起こった際には、事業主が労働時間などを遺族に開示し、原因説明を行うのが今や常識になっている。それと対比すると、遺族が訴えている内容が開示されないのは、あまりにも消極的な対応です」と疑問を呈する。

遺族は初めから裁判をしたかったわけではない。「もう3年経つのに結局、都から誠実な対応も説明も謝罪も得ることができませんでした。裁判は最後の苦渋の決断です」。遺族は9月20日の提訴会見でこう訴えた。尾林弁護士はいう。

「亡くなった生徒と周りの生徒との人権が衝突していることは間違いありません。ただ、ある程度生徒の名前や筆跡を伏せた上で、写しを渡したり、閲覧したりするなど、いくらでもやりようはあります。学校と都教委の対応は『責任回避』『事案隠蔽』と言われても仕方がありません」

都教委は「まだ訴状が届いておらず、コメントできない」と話した。

(弁護士ドットコムニュース)

いじめ調査委、資料は「黒塗り60ページ」、遺族を裁判に駆り立てた「都の不誠実対応」