マジックマッシュルームとは、シロシビンやシロシンを含んだキノコの俗称でその特徴は主に幻覚作用である。
200以上の種類があるのだが、不思議なことにそれらはお互い関係がない。
常識的には、シロシビンのような複雑かつ強力な幻覚作用を持つ化学物質を作り出すような種は、共通の祖先を持っていると考えるのが普通だろう。
だが、そうではなく、それらは5つの遠く離れた系統に属しているのだ。それはいったいなぜなのだろう?
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「水平移動」により伝搬していったマジックマッシュルーム
これを疑問に思ったアメリカの研究者は、シロシビンを作り出す遺伝子を特定し、さまざまなマジックマッシュルームを比較することで、その謎の解明を試みることにした。
そしてやはり、その遺伝子は同じ起源から生じたものであることが分かった。だが、どういうわけか、”水平移動”というプロセスによって遠く離れた種に伝搬していったようなのだ。
動物、植物、菌類において水平移動は、おそらくトランスポゾンというジャンピング遺伝子がほかの遺伝子を拾い、道連れにしたときに起こっている。
両者が遭遇したとき、菌類がDNAを直接交換することだってあり得るだろうし、また昆虫やウイルスなどの第三者が媒介している可能性もある。
キノコを作る菌類は、菌類の中でも高度で複雑な存在であると考えられているが、このような方法でDNAを交換している場面が観察されたことは滅多にない。
したがって、幻覚作用を持つ持つ化学物質、シロシビンを作る遺伝子については例外だったということは、これがそれだけ重要なものだったということだ。
昆虫の脳を混乱させるために進化していった
だが、なぜなのか? この疑問は、コーヒーからカフェインを、コカからコカインを抽出できる理由に対する疑問と同じようなものだろう。
なぜマジックマッシュルームはわざわざ魔法を編みだそうとしたのか?
驚いたことに、自然由来のレクリエーションドラッグ(カフェイン、ニコチン、モルヒネ、シロシビンなど)の大半は、昆虫の脳を混乱させ、くらくらさせるために進化した。
人間の脳がそれらを楽しめてしまうのは単なる偶然かもしれないが、人間の脳もゴキブリの脳もそれほどの違いはないという、きっと知りたくないだろう事実もある(ついでに言うと、人間は植物ともそう違わない)
人体の中で、シロシビンは分解されてシロシンになる。このシロシンは、快感をもたらす神経伝達物質セロトニンと同じ受容体の1つを活性化させて、ドラッグから得られる強烈な作用を引き起こす。
しかし、なにもセロトニンは人間の専売特許というわけではない。昆虫を含め、左右対称な脳を持つ動物なら誰でもこれを作り出す。一部の植物や菌類もしかりである。
ドーパミン報酬系のない昆虫にとっての幻覚作用とは?
植物にとって、化学物質で武装することには明白なメリットがある。むしゃむしゃと食べられないためだ。だがキノコはどうだろうか?
じつはシロシビンを作るキノコの大半は、木や糞を分解する仲間だ。
そうした環境においては、昆虫に食べられる危険があるばかりか、食べ物を巡って競合する関係にもある。腐った木の中では、キノコとシロアリはライバル同士なのだ。
シロシビンはそうした昆虫の頭を真っ白にしてしまうのかもしれない。たとえば、別のセロトニン受容体拮抗薬である5HT-2Aには、果物の上にとまっているショウジョウバエに食べるのを忘れさせてしまう効果がある。
そのときのショウジョウバエがどのような体験をしているの分からないが、おそらく楽しいものではないだろう。人間に快感をもたらすドラッグは、ドーパミン報酬系に作用しているが、昆虫にはこれがないのだ。
また別のキノコの毒であるムスカリンは、やはりシロシビンを作るアセタケ属の仲間でよく見られる。
このことは、こちらにも似たような目的があることを示唆している。ムスカリンは、電気信号を筋肉の動きに変換するのを助ける神経伝達物質アセチルコリンの振る舞いを真似する。
これが昆虫に対してどのような影響を与えるのか分からないが、人間がムスカリンを含むキノコを食べた場合、PLS症候群を引き起こす――異常な発汗、唾液の分泌、流涙が生じるのである(ちなみにアセチルコリン模倣体として一番有名なのは、ニコチンだ)。
昆虫を操るのはこうした木や糞を分解するキノコだけではない。寄生性のキノコもまた神経伝達物質を模倣する化学物質を利用して、犠牲者を奴隷にしてしまう。
シロアリのような社会性の昆虫はこうした侵略に対して特に弱い。
と言うのも、彼らの生存の鍵を握るのは個々の強さではなく、社会性であって、それにはより繊細な脳の力が必要になるからだ。
共通の祖先よりも共通の環境
研究者はシロシビン遺伝子を探すついでに、別の発見もした。
遠く離れた木材腐朽菌同士の遺伝子のバリエーションは、腐朽菌とその近縁であるが別の生息域に生息する仲間とのそれよりも少なかったのだ。
木材腐朽菌と糞生菌とに共通のテーマは、リグニン(木質素)のような丈夫な植物繊維を分解することと、それらを競合する関係にある昆虫を追い払うことだと考えられる。
共通の祖先よりも共通の環境のほうが、同じような遺伝子を持つにいたる強力な推進力になるという事実は、率直に言って驚きである。
また糞や枯れ木の中で勃発しているキノコと昆虫の化学戦争の顛末からは、そこには新しい神経活性薬の材料が眠っているかもしれないことも窺える。
こうしたキノコは、神経伝達物質を標的とする薬の工場になれるかもしれないのだ。もともとは昆虫との戦いに勝つための秘策だったかもしれないが、図らずも我々人間に利用される運命へ向かってしまったのかもしれない。
References:Magic Mushroom Drug Evolved to Mess with Insect Brains - Scientific American Blog Network/ written by hiroching / edited by parumo
全文をカラパイアで読む:http://karapaia.com/archives/52266618.html
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