Point
・これまで再現が難しかった「クモの糸」の構造について、クロゴケグモを調べることで解明に成功
・クモの糸におけるタンパク質の構造は、以前考えられていたよりも複雑で階層的であることが分かった
・これが人工的に生産できるようになれば、医療など様々な分野で応用できる可能性がある

アメリカ合衆国ノースウェスタン大学とサンディエゴ州立大学の研究者たちが、クロゴケグモの「タンパク質」を「鋼の強度を持った糸」に変えるための複雑なプロセスを解明することに成功しました。この発見によって、同様の物質が人工的に作り出せるようになるかもしれません。

Hierarchical spidroin micellar nanoparticles as the fundamental precursors of spider silks

http://www.pnas.org/content/early/2018/10/17/1810203115

研究者たちはこれまで、クモの糸を構成するタンパク質のアミノ酸配列については概ね把握していました。しかしその生成プロセスをいざ再現しようすると、本物のクモの糸の強度や性質を持った物質を作り出すことはできずにいたのです。

しかし、今回の研究において研究者たちは最新の技術を活用。MRIにおいても使われている技術である核磁気共鳴分光法を用いることで、研究チームはクモの糸が生成されるタンパク質をさらに詳しく観察することに成功しました。これにより、タンパク質が集まる過程がより複雑で階層的であることが明らかになったのです。

これまで、クモの糸のタンパク質はシンプルな球状のミセルから始まると考えられてきました。ミセルとは、水に結合する性質と水を避ける性質を併せ持つ物質が、水に溶けた時に多数集まり、水に親和性の高い側を表面に、水を避ける側を内側にして丸く集まったものを指します。

しかし今回の研究により、実際の蜘蛛が持つ糸の原料はこの単純な球状ミセルではなく、さらに複雑に階層化され組み合わさったミセルから始まっていることがわかったのです。そしてこの複雑な構造こそが、クロゴケグモが強い糸を作り出すために必要とされていたものと考えられます。

 

もしこの物質が人工で簡単に作り出されるようになれば、様々な分野での応用が期待されます。この物質は環境に優しく、プラスチックの代わりに使用されたり、医療の現場でも活躍することでしょう。環境や医療の未来を明るく照らす「クモの糸」が今、私たちのもとに垂れてきたのかもしれません。

 

蜘蛛が飛ぶ動力は「電気」だったことが判明

 

via: eurekalert / translated & text by なかしー

 

強靭な「クモの糸」の秘密が明かされる。繊維業界に革命?