高橋一生主演のドラマ『僕らは奇跡でできている』。変わり者でマイペースな動物行動学者・相河一輝(高橋一生)とまわりの人々の姿を描く。脚本は『ピュア』や『僕の生きる道』シリーズの橋部敦子。第2話の視聴率は少し下がって6.1%。

第2話のサブタイトルは「鳥と話す男、ひとり焼肉へ」。一輝が学生たちを引き連れてフィールドワークに出向き、バードコール(木の枝とボルトネジを組み合わせた道具)を使って鳥と会話する。家政婦の山田さん(戸田恵子)が出かけてしまったので、ひとりで焼肉を食べに行って、偶然居合わせた歯科医師の育実(榮倉奈々)と少し話す。本当にそれだけの話だった。医療もの、警察もの、不倫もののドラマが多い昨今、この何も起きなさが心地よい。

今の日本では稀有となった大ボケ
ストーリーの前半の見どころは高橋一生のウサギの鳴き真似……ではなくて、学生たちを引き連れてフィールドワークに行くところ。同僚の樫野木(要潤)からフィールドワークは学生に人気がないと忠告されるが、一輝はどこ吹く風で嬉々として準備を進める。フタを開けたら学生がほとんど来なかった……なんてことになるんじゃないかと心配したが、そんなこともなくて安心。出席4回分らしいからね。

一輝が学生たちに手渡ししたのは、手製のバードコール。森の中でキコキコ鳴らすと、遠くのほうで鳥が鳴き返してくれる。

「半径250メートル以内にシジュウカラが3羽います」
「マジかよ」
「適当に言ってんじゃね?」

教え子の新庄(西畑大吾)と須田(広田亮平)にこっそりツッコまれるが、一輝はニコニコ。この2人はしじゅう何かにツッコミを入れている。一億総ツッコミ時代の代表選手。一輝は今の日本では稀有となった大ボケだ。

このドラマが面白いのは「半径250メートル以内にシジュウカラが3羽」いることをいちいち証明しないところだ。本当にシジュウカラが3羽いるところを見た学生たちがザワつき、視聴者が溜飲を下げる……という安っぽい展開がなくて気分がいい。このドラマは「すごい」ということに価値を置いていない。

最初はブーブー言っていた学生たちも、一輝の楽しそうな振る舞いを見ながら森の中を歩いているうちに、だんだん微笑みが漏れるようになる。フィールドワークが終わった後も学校でバードコールをキコキコ鳴らし、それを見た教授の鮫島(小林薫)に琴音(矢作穂香)が「楽しかった」と言う。鮫島は楽しそうに学生たちに語りかける。

「相河先生は面白がる天才だから、見てて飽きないでしょう?」

いいなぁ、面白がる天才。だが、天才は一日にして成らず。一輝にもいろいろあった。

く自分のことが大嫌い
歯科医の育実はドンヨリしていた。恋人の雅也(和田琢磨)と上手くいっていないのだ。

前回、高級ディナーを奢ったら雅也は「見下している」と腹を立てて去ってしまった。今回は健気にも手作りのハンバーグで雅也をもてなしたのだが、「輝く女性」として取材を受けた雑誌の件についてぼかして答えたところ、今度は「すごいよ、育美は」と言い残して去っていってしまった。どうすりゃいいんだ。

雅也との関係に苦しむ育実だが、雅也のほうも苦しんでいるように見える。彼を苦しめているのは、「男とはこうでなければならない」という固定概念である。「男なら稼いで当然」「男なら女をリードして当然」「男なら妻と子を養って一人前」……そんな雰囲気は過去のものでしかないのに、いまだに男を苦しめていて、ついでに一緒にいる女も苦しめている。

家政婦の山田さんが出かけてしまったため、一輝は大好きな焼肉をひとりで食べに行くのだが、隣にはストレス解消のためにやってきた育実がいた。

話が噛み合わず、ギスギスした問いかけを続ける育実。彼女も常にひとりごとのような形で一輝にツッコミを入れ、リスについてものすごくうれしそうに話す一輝を「いいんじゃないですか、リスたちと仲良くなれば」と突き放す。

「僕は人となかなか仲良くなれませんから」と言う一輝に「えー、わかってるんですね」と返す育実。一輝が怒らないことをいいことに、だんだん失礼なことを言う声が大きくなっている。

「でも、一番仲良くなりたい人と仲良くなれたから、それでいいんです」
「昔の僕は、僕が嫌いで毎日泣いてました」

とにかく自分のことが大嫌いで毎日泣いてばかりいた一輝。自分と仲良くなろうと思っていても、どうしても無理だった。オープニングでは授業中、ハエに夢中になって教師に叱責される幼い頃の一輝が登場する。

「どうして僕は言われたとおりできないんだろう」と泣く一輝にハエの足の数のことを尋ね、答えが返ってくると、

「すごい発見だ。大発見だ」

と喜ぶのが祖父の義高(田中泯)だ。一輝を生きづらさから救ったのは、間違いなくこの人の力が大きい。

義高が一輝に(遠回しに)伝えていたことは、リスが通れなかった道に橋をかけてやることに似ている。リスが渡れない道は、人の行動を自然に制限している常識であり、同調圧力であり、固定概念だ。

「渡るか渡らないかはリスの自由です。ただ、向こう側に行ける方法があるということをリスに見せるんです。結果として渡ってくれたら、うれしいですけど。いえ、ものすごくうれしいです」

心の中にある道に橋をかければ、人は何でもできる。誰の目も気にすることなく、好きなことをやり続けられる。やるかやらないかはその人が選べばいいが、オルタナティブの道があるとわかっていれば、ずいぶん気が楽になるはずだ。義高の教えは一輝の中に息づいている。たぶん、一輝はこれからこのことを学生に、そしてまわりの人たちに、押し付けがましくなく伝えていくのだろう。見た後、清々しい気持ちになるドラマだ。

本日放送の第3話は、ドラマらしいアクシデントがありそう。今夜9時から。
(大山くまお

「僕らは奇跡でできている」
火曜21:00~21:54 カンテレフジテレビ系
キャスト:高橋一生榮倉奈々、要潤、児嶋一哉、田中泯、戸田恵子、小林薫
脚本:橋部敦子
音楽:兼松衆、田渕夏海、中村巴奈重、櫻井美希
演出:河野圭太(共同テレビ)、星野和成(メディアミックスジャパン
主題歌:SUPER BEVER「予感」
プロデューサー:豊福陽子(カンテレ)、千葉行利(ケイファクトリー)、宮川晶(ケイファクトリー)
制作協力:ケイファクトリー
制作著作:カンテレ

イラスト/Morimori no moRi