新兵器の投入が戦況を覆すというのは、フィクションではよく見られる筋書きですが、実際のところはどうでしょうか。歴史に名を残す戦闘機のデビュー戦を見てみると、やはり名を残すだけあって相当のインパクトを与えたものも見られます。

鳴り物入りのF-35、やや地味な実戦デビューを果たす

アメリカ海兵隊は2018年9月27日海兵隊に所属するF-35B戦闘機アフガニスタンで、反政府武装勢力のタリバンに対する攻撃を行なったことを明らかにしました。

F-35は飛行場の滑走路を使って離着陸する通常離着陸型のF-35A、短距離離陸垂直着陸型のF-35B、空母からカタパルトを使って発艦し、航空機を短距離の滑走で停止させる「アレスティング・ワイヤー」を使って着艦するF-35Cの3つのタイプが開発されています。

イスラエル航空宇宙軍は2018年5月22日に、同軍のF-35A'(イスラエルでの呼称はF-35I)を実戦に投入したと発表しています。同軍はそれ以上の詳細を明らかにしていませんが、シリアで活動するイスラム原理主義武装勢力に対する攻撃を行なったものと見られており、これでまだ実戦部隊での使用が承認されていないF-35Cを除く2種類のF-35が、実戦デビューを果たしたことになります。

アメリカ海兵隊F-35Bイスラエル航空宇宙軍のF-35Aとも、高性能戦闘機との空対空戦闘や、レーダー地対空ミサイルが多数配置された国家に対する地上攻撃ではなく、武装集団相手の地上攻撃という、やや地味な形での実戦デビューとなりました。

とはいうものの、21世紀に入ってから実用化されたそのほかの戦闘機にしても、国家間の大規模な紛争が発生していないため、F-35と同様、地味な形で実戦デビューを果たしています。

地味なのはまだマシ、デビュー戦の不名誉な記録

アメリカが開発したF-22は、いかなる戦闘機に対しても空対空戦闘で負けないことを目的に開発された戦闘機で、開発を担当したロッキード・マーチンF-22に対して「Air Dominance(航空支配)」というキャッチフレーズを与えていますが、2018年10月の時点で一度も空対空戦闘を行なっていません。F-22の初の実戦は2014年9月に行なわれた、イスラム原理主義武装勢力「ダーイシュ」(ISIS)に対する精密誘導爆弾による爆撃で、ほかヨーロッパのユーロファイタータイフーン」とダッソーラファール」、ロシアSu-34も、イスラム原理主義武装勢力に対する地上攻撃で実戦デビューを果たしています。

一方で、20世紀に実用化戦闘機のほとんどは国家間の大規模紛争で実戦デビューを果たしていますが、デビュー戦の結果が芳しくなかったため、評価が急落してしまった戦闘機も少なくありません。

イギリスドイツ(当時は西ドイツ)、イタリアの3ヵ国が1970年代に共同開発したパナヴィア「トーネードIDS」は、1991(平成3)年の湾岸戦争で実戦デビューを果たしていますが、イタリア空軍のトーネードは、イタリアを出発した16機のうち14機が空中給油に失敗してイタリアに引き返し、かろうじて到着した2機のうち1機もイラク軍に撃墜されて乗員が捕虜になるという、なんともしまらないデビュー戦となってしまいました。またイギリス空軍の「トーネードIDS」も、対地攻撃で少なからぬ戦果を上げてはいますが、低空を飛行して爆撃するという運用を行なったため、イラク軍の対空砲火により6機が撃墜されるという、苦い実戦デビューを果たしています。

踏んだり蹴ったりのMiG-29

旧ソ連が開発したMiG-29も、やはり湾岸戦争で初めて実戦に投入されていますが、イラク空軍のMiG-29が、ソ連本国や東欧諸国に引き渡された機体に比べて、意図的に能力を落とした「モンキーモデル」だったこともあって、空対空戦闘では多国籍軍戦闘機の絶好のカモとなってしまい、湾岸戦争の空対空戦闘でイラク空軍が失った33機のうち、8機を占めるという不名誉な記録を残しています。

もちろん戦闘機の評価は一度の戦いで決まるものではなく、ベトナム戦争の初期にはMiGシリーズの戦闘機に対して苦戦したものの、空中戦戦術の確立と、搭載するミサイルの信頼性向上によってベトナム戦争の中期以降は数々の戦場で活躍して名戦闘機となったF-4「ファントムII」のように、名誉を挽回する事もあります。「トーネードIDS」も精密誘導兵器の運用能力を得て以降は、コソボ紛争やリビア攻撃など数々の実戦で活躍して、湾岸戦争の汚名を返上しています。

その一方でMiG-29は1999(平成11)年のコソボ紛争でも、一度に出撃した5機のうち2機がアメリカ空軍のF-15C戦闘機に撃墜され、1機がオランダ空軍のF-16の攻撃によって、どうにか基地までたどり着いたものの大きなダメージを受けたほか、1999年に発生したエリトリアエチオピアの国境紛争ではエリトリア空軍のMiG-29エチオピア空軍のSu-27が交戦し、一説によればSu-27によってエリトリア空軍のMiG-29が1機から3機撃墜されたとも言われており、今のところMiG-29は汚名を返上したとは言い切れない状況にあります。

格が違う! 「セイバー」と「イーグル」のデビュー戦

トーネードIDS」やMiG-29とは異なり、実戦デビューで華々しい戦果を挙げたことで、名機の地位を確立した戦闘機も存在します。

1940年代にアメリカが開発したF-86Fは、1950(昭和25)年に勃発した朝鮮戦争で実戦デビューを果たしていますが、実戦投入から休戦までの約2年間で、同時期にソ連が開発したMiG-15との空対空戦闘において、F-86Fの78機損失に対して約800機を撃墜しています。

自らが1機撃墜されるまでに何機を撃墜できるかを示す「キルレシオ」という軍事用語がありますが、朝鮮戦争でのF-86FのMiG-15に対するキルレシオは1対10ということになります。ベトナム戦争F-4「ファントムII」は66機のMiG-21を撃墜し、逆に37機がMiG-21によって撃墜されており、キルレシオは約2対1ということになりますが、この数字と比較すれば、朝鮮戦争におけるF-86Fがどれだけ強かったのかを、おわかりいただけるのではないかと思います。

F-86Fをさらに上回る鮮烈なデビューを飾ったのがF-15戦闘機で、初陣となったレバノン紛争では、1979(昭和54)年6月27日の1日だけでイスラエル航空宇宙軍(当時は国防軍空軍)のF-15が、シリア空軍のMiG-21を5機(うち1機はクフィル戦闘機との共同撃墜)しています。

その後もF-15湾岸戦争コソボ紛争、2003(平成15)年のイラク戦争などでも空対空戦闘での撃墜を記録しており、実戦に参加したアメリカ、イスラエルサウジアラビア各空軍機の戦果を総合した2018年10月時点の空対空戦闘でのキルレシオは、メーカーのボーイングによれば105.5対0(別資料によれば115.5対0)という、驚異的な数字を記録しています。

航空自衛隊は創設から現在までに、F-86F、F-86D、F-104J/DJ、F-4EJ、F-1F-15J/DJ、F-2A/B、F-35Aという、8種類の戦闘機を導入してきました。幸いなことに航空自衛隊はこれまで、実戦を行なうことなく日本の安全を守ってきましたが、F-86F、F-4F-15という、実戦において類まれに見る強さを証明した戦闘機を導入したことも、それを可能にした理由のひとつと言えるでしょう。

【写真】空戦未経験だけど「空の支配者」F-22

2018年9月に実戦デビューしたアメリカ海兵隊のF-35B(竹内 修撮影)。