106人が亡くなったJR福知山線脱線事故(2005年)。JR西日本の歴代4社長が起訴されたが全員無罪が確定している。9人が死亡した笹子トンネル天井板崩落事故(2012年)でも、中日本高速道路の元社長らが書類送検されたが、2018年に8人全員が不起訴となった。

「誰も罰せられない。組織は責任を取らない」ーー。重大事故の遺族らでつくる「組織罰を実現する会」は、事故を起こした企業にも刑事罰を科せる「組織罰」の創設を求めている。

同会は10月26日、山下貴司法務大臣と面会し、制度の創設を求める署名約1万筆も提出した。制度ができても、さかのぼって自分たちの事件に適用されることはない。それでも「私たちのような悲しみを味わう遺族が出ないようにしたい」と強く願っている。

遺族たちは同日、司法記者クラブで記者会見を開いた。

●業務上過失致死罪に「両罰規定」求める

「組織罰を実現する会」が問題視しているのは、重大事故を起こしても「業務上過失致死罪」は個人にしか問えないという点だ。同罪を切り出し、特別法で「両罰規定」を科すことを求めている。

両罰規定とは、業務における犯罪行為について、行為者を処罰するのに加え、法人にも罰金刑を科すというものだ。遺族らを支援する郷原信郎弁護士は、こう解説する。

イギリスの『法人故殺罪』のように、法人そのものの行為や過失を問うものだと、日本の刑事司法では実現のハードルが高かった。まずは第一ステップとして、ハードルが低いものとして考えた」

仮に業務上過失致死罪に両罰規定が設けられたらどうなるのか。

「まず、行為者の犯罪が立証されないといけない。たとえば、福知山線のような事故が起きた場合、運転手の過失が立証できれば、企業側が十分な安全対策をしていたことを立証できない限り、高額の罰金が科されることになる。

逆に個人の過失が立証できなければいけないので、(不起訴になった)笹子トンネルのような事件は難しいかもしれない」(郷原弁護士)

「組織罰」の意義について、津久井進弁護士はこう語る。

「日本では、懲罰的損害賠償がない。民事はあくまで損害に対する補填。そうではなく、会社の命運にかかわるような罰金があって良いと思っている。立証責任が転換し、安全性の立証は企業側がしなければならないから、普段から十分な安全対策をする必要が生まれる」

津久井弁護士は、「現在の法制度でも、十分に実現できると確信を持っている」と力を込める。

●「悲しみを味わう遺族が出ないように…」

笹子トンネル事故で長女を亡くした同会の松本邦夫副代表(67)は「日本では組織を罰する法律がないと知って、驚いた」と事故当時を振り返る。

「誤解して欲しくない。法律ができたとしても、私たちの事件には適用されない。自分たちの事故について、蒸し返したり、もう一度やってくれと言っている訳ではない。

誰も罰せられない。人が亡くなっているにも関わらず、組織は責任を取らない。(組織の責任者が)『知らなかった』と言ってしまえば、言い逃れができてしまう構造が日本にはある。それでは企業、組織は改めない。

組織罰を導入することによって、私たちのような悲しみを味わう遺族が出ないようにする。それが願いだ」

福知山線事故で長女を亡くした同会の大森重美代表(70)は、「組織罰ができたら、経済界に悪い影響を与えるという意見がある。しかし、本当にそうなのだろうか」と企業側の論理に疑問を投げかけていた。

(弁護士ドットコムニュース)

「企業が罰せられないのはおかしい」福知山線事故遺族ら「組織罰」求め法相と面会