伊集院光が最初に言った中二病って言葉、すっかり定着しましたねえ。
よくできた言葉ですよ。
確かに中2の時、思春期で一番面倒臭い14歳前後の時って、なーんか「俺は・私は人と違う」という自我がこじれて、変な方向に行っちゃうものです。

ただ、この「中二病」の言葉って使い方、なんとも難しい。
他の人が楽しんでいることに対して「それって中二病だね」と言ったら、それは傷つくもん。
逆に、そういう風に中二病的なことを小馬鹿にするのを「高二病」と読んだりなかなか大変。
難しいね。
もちろん、病気じゃないです。

今は、ぼくのなかでは「中二病」は愛すべき青春の1ページだと理解しています。
だってさー、みんな飲み会とかで中二病自慢や黒歴史トーク、楽しそうにするじゃないですか。
確かに通過して恥ずかしかったかもしれない。
けれどもその「中二病」的なことを、あんまりおおっぴらには言いづらいかもしれないけど、大好きなんじゃないか?
大好きだった自分のことは、否定できないよ。

けいおん!』や『らき☆すた』などを作った京都アニメーションの新作は『中二病でも恋がしたい!』という、もうタイトルからしてズバリな作品です。
KAエスマ文庫という京都アニメーションから出ている小説が原作ですが、ちょっと流通が特殊でオンラインショップか一部取扱店のみ、通常の本屋さんでは売ってません。注意!
このタイトルを最初に見た時「中二病」をネタに笑い飛ばす作品なんだろうなー、まあ好きだけどなー、と複雑な気持ちでした。

そう、中二病ネタは「あるある」だったり、痛かったりして面白い。実に面白い
けれど、自分がそれらのことを大好きだったのも思い出して、なんか笑うのが切なくもなるんです。
自分を否定したくない。恥ずかしいけど好きだったじゃないか。

ところがタイトルに騙されましたね。
中二病でも』って、「でも」じゃないよ。
中二病全肯定アニメですよこれ。
「人の中二病を笑うな」ってことですよ。

主人公の富樫勇太は、元中二病患者。今は抜け出して、過去の自分を消し去りたい派です。
中学時代は自分を「ダークフレイムマスター」と呼んでこじらせていましたが、今は「普通になりたい」と願っています。
そんな彼の元に、現中二病こじらせまっただ中の少女、小鳥遊六花がやってきます。
わりと強制的な感じで乗り込んできます。においを嗅ぎ取った、とでもいいましょうか。
中二病だった自分を捨てたい主人公。
中二病的なものを愛する六花。
この二人のドタバタをメインに描くコメディなんですが、この作品、中二病的なものが好きだった人達への愛情が半端じゃない。

まず六花視点の描写が、アホみたいに凝ってます。
中二病的視点の時って「わたしかっこいい」という妄想混じりになる、とします。
その「かっこいい」を、具体的な絵で表現しちゃってるんです。
ほんとは傘を振り回しているだけなのに、六花から見たらその傘は強大な武器。
アニメーションで、彼女の妄想する強大な武器と華麗なアクションは、間違いなくかっこいいんですよ。
まあ、傘振り回しているだけなんですけどね。
そこに技術力を、京アニはあえて注ぎ込みました。

そしてもうひとつ。
勇太が過去の自分を捨て去ろうと、ゴミにしようとするとき、六花はそれを全力で肯定します。
なんかねえ。おじさんになった自分はさあ。そこで泣いちゃってねえ。
過去の自分なんて、痛いんですよ。見たくないんですよ。消したいんですよ。
高校になれば中学時代を、大学になれば高校時代を、大人になれば大学時代を。
常に通り過ぎた時間を消したい、捨てたいと思ってしまいます。若さ故の過ちです。
けれど、現在進行形で過去に勇太が好きだったものを好きな六花が、彼の過去を肯定する。
勇太は、肯定されるんです。
中二病」と言われた、彼の趣味を。

京都アニメーションは他の様々な作品で、青春期に経験した様々な出来事をノスタルジックな演出で描くことにこだわっています。
けいおん!』では、ほんわか女子高生ライフを描くようでいて、しっかりと過ぎ去っていく日々の儚い光を描きました。
今回の『中二病でも恋がしたい!』ではすでに通過した痛みを大切に、宝箱に入れて愛でるような愛情たっぷりです。
考えてみたら、中二病妄想シーンを全力でアニメ化するのって、いうなれば創作の原点が中二病的なドキドキ感からスタートしていることを形にしたようなもの。
確かに忘れたいことって山ほどあるけど、それ、好きだったんでしょう。
今一度、中二病的な気持ちを肯定してみようよ。

ちなみに中二病ヒロインの小鳥遊六花役の内田真礼は、『アイドルマスターシンデレラガールズ』で中二病トークをする少女神崎蘭子役も演じています。
中二病声優の誕生でしょうか。っていうか中二病っ子実はみんな好きなんだろ!
はい好きです。

あっ、でもそのノートは開いたらだめ。
めだから!マジで!
(たまごまご)

主人公は元中二病。ヒロインは現中二病。京都アニメーションによる、こじらせちゃった子達の学園コメディ『中二病でも恋がしたい!』は、中二病という思春期のワクワク感を、否定することなく肯定する、ノスタルジック感あふれる作品なのだ。