日増しに秋が深まりゆく今日この頃……。昔から「収穫の秋」「食欲の秋」と言われるように、恵み豊かな海の幸・山の幸をはじめ、ふっくらツヤツヤな新米も、この季節ならではの楽しみのひとつですよね。
そんな秋の新物として、そろそろ出まわり始めるのが、味・香りともに絶品の「新そば」です。この時季、そば屋さんの店先で「新そば」の張り紙を見かけると、つい立ち寄ってしまうという人も多いのではないでしょうか。そこで今日は、旬の新そばにちなんで、そばの歴史や豆知識をあれこれご紹介しましょう。


縄文期より栽培され、江戸時代に日本の食文化として広まった「そば」

そばの歴史をたどると、はるか縄文時代にまでさかのぼります。埼玉県の真福寺泥炭層遺跡からは、そばの種子が出土しているほか、高知県佐川町の地層からは、そばの花粉が発見されているそうです。そうしたことから、日本では約1万5000年前の縄文期より、そばが栽培されていたと見られています。
ただ、そばが現在のような麺の形状(そば切り)になった歴史は意外に浅く、江戸時代になってからのこと。諸説ありますが、それまではそばに小麦粉などのつなぎが使われず、ボソボソして麺状に成形するのが難しかったため、そばの実を丸のままゆでた「そば米」や、実を砕いてお湯でこねた「そばがき」「そば団子」として食されていました。
その後、寛永年間に朝鮮の僧侶が、小麦粉をつなぎに使う製法を南都東大寺に伝えたことから、現在の形の「そば切り」が日本に広まっていったといわれています。

薄緑色の甘皮に包まれたそばの実

薄緑色の甘皮に包まれたそばの実


江戸っ子のせっかちな気質から生まれた「かけそば」

そば切りが登場した江戸時代の初期、そばは麺と汁を別の器に入れた「つけ麺スタイル」で食べられていました。その後、江戸中期になると、せっかちな江戸っ子から「いちいち汁につけるのは面倒」「もっと簡単にサッと食べたい」という声が出はじめ、麺に汁を直接かけて食べる「ぶっかけそば」が登場。その「ぶっ」が次第に省略されて「かけ」になったといわれています。
当初、「かけ」には冷たい汁をかけていましたが、寒い季節には熱い汁をかけたものが人気となり、徐々に「かけ」は「温かいそば」が主流に。この「かけ」と区別するために、従来のつけ麺スタイルは新たに「もり」と呼ばれるようになりました。
この「もり」という呼び名は、麺を高く盛り上げた形が由来とされています。店によっては麺を盛った器の名前にちなんで、「せいろ」「ざる」「皿そば」といった別の呼び方も生まれました。こうして江戸時代の中期ごろから、「もり」や「かけ」という江戸そばの基本形が確立していったのです。

「ぶっかけそば」の呼び名に由来する「かけそば」

ぶっかけそば」の呼び名に由来する「かけそば」


「ざる」「もり」「せいろ」の違いってなに?

ところで、皆さんは「ざる」「もり」「せいろ」の違いをご存じでしょうか?
江戸時代中期に広まった「もり」「せいろ」は、麺を皿やせいろに盛るのが一般的でした。そこで、他の店との差別化を図るために登場したのが「ざる」です。そばの実の中心部分だけを使った上質な麺をざるに盛り、ワンランク上の高級版として売り出したのです。
明治時代に入ると、麺だけでなく汁も高級化されました。「ざる」用の汁は、当時高価だったみりんを多めに使い、旨みとコクをアップ。さらに麺の上には、彩りと香りを添える「刻みのり」ものせられるようになりました。
しかし、現在はどれも麺や汁の違いはほとんどなく、以下のように「刻みのりの有無」と「盛りつける器の違い」で区別するのが一般的のようです。
【ざる】ざるに盛られている。麺に刻みのりがのっている
【もり】せいろや皿に盛られている。麺に刻みのりがのっていない
【せいろ】せいろや皿に盛られている。麺に刻みのりがのっていない
※呼び方の区別は、店によって異なる場合もあります

ざるに麺を盛って刻みのりをのせた「ざるそば」

ざるに麺を盛って刻みのりをのせた「ざるそば


そばの旨さの条件「三たて」と、ツウに食する「作法」とは?

そばは時間とともに風味がどんどん落ちていくので、「挽きたて・打ちたて・ゆでたて」の「三たて」が、旨さの条件とされてます。製粉してすぐの粉を使い、打ったばかりの生地を包丁で切り、ゆで上がったら素早く水切りして出す……。このスピード感と手早さが、味の決め手となるのです。さらに新そばの時季には、新鮮な風味がきわだつ「収穫したて」が加わって、「三たて」ならぬ「四たて」の美味しさが堪能できるというわけです。
また、ネットやそば店などで紹介しているウンチク情報を見ると、「もり」や「ざる」を美味しく食べるためには、こんな作法もあるようです。主なものを見てみると……
●汁につけるのは麺の下半分~3分の1まで ⇒ 味の濃い汁に麺をどっぷり浸すと、そば本来の爽やかな風味がわからないため。
●麺は「ずずっ」と音を立て、勢いよくすすって食べる ⇒ 鼻や口内にそばの香りがぬけて、風味がより引き立つ。
●汁につけて1回に食べる麺の量は7~8本まで ⇒ 麺を一度にたくさん食べると、つるっとしたのどごしが楽しめない。すすって食べにくい。
ワサビやネギなどの薬味は、汁に入れず麺に直接のせるか、1回分(ひと口分)ずつ汁に入れるか、最後に出されるそば湯に入れて味わう ⇒ 汁の中に薬味をいっぺんに入れると、薬味の強い刺激で汁の味がにごってしまうため。
……など、なかなかツウっぽい(小難しい?)作法ですよね(笑)。食べ方は人それぞれ好みもあると思いますが、そばは粋に食するのもだいご味のひとつ。この季節、新そばを味わう際の一興に、ぜひ試してみてはいかがでしよう。

新そばの季節にちなみ、そばにまつわるツウな話題をあれこれご紹介!