毎週土曜日の朝に放送中のTVアニメ『新幹線変形ロボ シンカリオン』。実在する新幹線がロボットへ変形するというコンセプトはもちろん、明るく楽しいキャラクターやロボットのバトルシーンで子供たちに大人気だが、その奥には骨太なテーマも含まれており、大人のアニメファンも多い作品だ。また、VOCALOID初音ミクや『新世紀エヴァンゲリオン』とのコラボも大きな話題となった。

前編では、企画立ち上げ時のエピソードなどが明かされた渡辺信也プロデューサーへのインタビュー。この後編では、初音ミクや『新世紀エヴァンゲリオン』との大型コラボなどを企画した経緯などを語ってもらった。
前編はこちら

シンカリオン』をもっといろいろな人々に観て頂きたい
──放送された第42話までで、特に印象深かった回などを教えてください。

渡辺 僕は、シリーズ初期のアキタツラヌキ運転士仲間になるあたりの展開が好きで、特にツラヌキが仲間になる第6話は大好きですね。ツラヌキは、ハヤトのことは好きだけれど、自分の家を守らなくてはいけないからシンカリオンに乗ることはできないと、最初は断るんです。でも、そんな息子を見かねたお母さんが、あんたは子供なんだから、そんなことまで考えず、やりたければやれば良いのよって背中を押す。あれがすごく良い親子関係だと思って、大好きなんですよね。親からすれば、子供は子供らしく、自分がやりたいことや夢を堂々と語って欲しいじゃないですか。やりたいことをやりたいと言える子供と、それを認めてあげられるお母さんやお父さん。そういう姿が全国の視聴者に伝われば良いなと思いました。

──第15話からはVOCALOID初音ミクをモチーフにした運転士発音ミクが登場し、第31話ではハヤトが夢の中で『新世紀エヴァンゲリオン』の舞台である第三新東京市を訪れて、シンカリオン 500 TYPE EVA運転士である碇シンジと出会いました。この二つの大型コラボは大きな話題となりましたが、アニメ化企画の初期段階から動いていたものなのでしょうか?

渡辺 かなり早くから動いていましたね。この作品をいろいろな世代の人に向けて広げていきたいという思いは、TVアニメ企画の初期からありまして。もちろん一番のターゲットは、プラレールで遊んでくれている子供たちと、その親御さんたちではあるのですが、鉄道や新幹線が好きな人、好きな声優さんが出ているから見ようと思ってくれた人など、様々な趣向を持つ方々に観て頂きたかったんです。だから、初音ミクや『エヴァンゲリオン』とのコラボについても、普通だったら『シンカリオン』という作品に触れてもらえない人たちの観るきっかけになればと思ってチャレンジしました。作品によっては、こういった違うコンテンツとのコラボに関して積極的でなかったり、ネガティブな意見が出てくる場合もあると思うのですが、『シンカリオン』のチームはこういった企画にすごく積極的です。そもそも作品自体が、実在の新幹線とのコラボという側面もありますしね(笑)。

──たしかに、何台もの新幹線が実名で登場する超大型コラボですね(笑)。

渡辺 夏休みに放送された回(第28話)でも、過去に実際に放送されたJR東海の「ハックルベリー・エクスプレス」のCMをパロディしたりしましたよね。新幹線へのリスペクト精神は持ったうえで、そんな仕掛けは積極的にやっていこうという空気が最初からありましたし、これからも同じような遊びは頻繁に出てきます!

──『エヴァンゲリオン』コラボの回は、放送二日後の深夜に再放送されました。やはり、そのくらい視聴者の反応は大きかったのですか?

渡辺 大きな反応があるだろうなとは予想していたのですが、放送直後からのSNSの盛り上がりはすごかったですね。土曜日の朝という時間帯ゆえにこのアニメを知らない方々もまだ少なからず居るのではないかと思っていたので、以前からチャンスがあれば深夜帯に再放送をかけてみたいと思っていたんです。それがあのような最高の形で実現して、土曜日の朝とはまた異なる客層の方々から大きな反響を感じることもできたので、非常に良い取り組みだったなと思います。

鉄道オタクのスタッフに支えられているリアリティ
──『シンカリオン』の制作スタッフやキャストの仕事ぶりについて、特にすごいと思ったり、驚いたりしたエピソードを教えてください。

渡辺 アニメの制作って分業が細かく、ものすごく多くの人が関わって下さっているので、なかなか全てのスタッフと触れ合う機会も無いのですが。先日、2D側のアニメーション制作を担当して下さっているスタジオ「亜細亜堂」の方々とゆっくりお話をする機会がありまして。作画担当の方で、ものすごい鉄道好きの方がいて、実在の場所をアニメに登場させるとき、石垣の形にもこだわったりとか、再現度の緻密さがものすごいんですよ。お話をしながら、圧倒的な熱量で作品に向き合ってくださっていることが伝わってきて。『シンカリオン』のリアリティは、こういうスタッフの愛と汗によって支えられているんだなということを実感しました。シリーズ構成の下山さんもとんでもなく鉄道愛に溢れていまして。この先の回なので詳しいことは言えないのですが、先日、新幹線好きの間では有名な、新幹線の走りを一望できる場所へロケハンに行きまして、そこでの下山さんの語りの熱さもすごかったです(笑)。そんな鉄道好きなスタッフさんたちの熱がすごく込められた作品なので、きっと新幹線や鉄道が好きな方たちにも、『シンカリオン』は生半可な気持ちでは作ってないということが理解してもらえてるのだと思います。

──池添隆博監督の印象についても教えてください。

渡辺 先ほどもお話したように、アニメの制作現場は多くのスタッフによる分業なので、僕らプロデューサー陣は一緒にシナリオを作ることは出来ても、それをどういうアニメにするのかという演出に知恵を絞り、コンテにして、作画して、アフレコして、音をつけて……という一連の膨大な制作過程は監督に託すしかありません。シナリオに注ぎ込まれた熱量や狙いを損なうことなく、全てのスタッフに伝播させることって、大変な労力と粘りが必要なことだと思うのですが、完成品を見れば、池添監督が作品への愛情をもって現場のスタッフさんをしっかりと引っ張ってくれていることを感じます。原作も無いオリジナルで、実際の新幹線が登場することもあり調整ごとも多い大変なタイトルですが、レベルの高い作品を毎週仕上げてくれて本当に感謝しています。

──アフレコ現場で印象的な出来事はありますか?

渡辺 第1話のアフレコがとても印象深いですね。音響監督の三間(雅文)さんは、実績も豊富で業界でも第一人者とも言うべき有名な方ですが、1話のファーストシーンで夜中に保線作業(線路の安全性を確保するための整備)を行なっている作業員役の役者さんに対して、熱い演出を付けられていたんです。声の芝居で少しでも「作業員らしさ」を出すために何度も何度も粘られていました。再三お話しているように『シンカリオン』は実際の新幹線がモチーフで、現実と地続きであることがコンセプトなので、鉄道の世界で働いている人々にリアリティを出すことは肝なところ。作業員のようなエキストラにこそディテールにこだわらなければいけない、そんなことを三間さんが大事にしてくれていることが一瞬にして伝わってきて。こういう意識を持つプロが作れば、『シンカリオン』ならではのリアリティが保たれるだろうなと嬉しくなりました。

シンカリオン』はただの勧善懲悪の物語ではない
──渡辺さんは、バラエティやドラマの現場での経験も豊富かと思います。アニメを作ることと、バラエティやドラマなどを作ることを比較した際、異なることや、変わらないことなどを教えて下さい。

渡辺 違うところは……繰り返しになってしまいますが、アニメって一つの作品に関わっているスタッフがものすごく多いんです。バラエティやドラマも大勢で作りますが、アニメとは分業の細かさが段違いです。アニメは、大きな打ち上げパーティーでもない限り、1回も会えないままのスタッフの方もたくさんいらっしゃって。そういう大組織で制作を進めるので、みんながバラバラのことを考えていると、作品が「あれ?」って方向に向かってしまう危険性も大きくなる。だから、全ての作業の設計図でもあるシナリオを作る時点で、「この回はこういう話にしたいんだ」という方向付けをガチッと固めることが本当に大事だなと思います。『シンカリオン』のように原作のないオリジナル作品は特にそうだと思います。先ほどお話しした、亜細亜堂の鉄道愛に溢れた作画担当の方も、「シナリオに『この話はこういうことがしたいんだ』ってことが伝わるくらいの意志や熱量が備わっていれば、僕らはそれに沿って絵が描けるんだ」というようなお話をされていたのが印象的でした。

──第4クールも佳境に入っていくタイミングですが、第43話以降の見どころをネタバレにならない範囲で教えてください。

渡辺 最初のうちは、ハヤトたちとエージェントたちとの関わりが、分かりやすく言えば敵と味方という立場だったのですが、だんだんと、そんな単純な話ではなくなってきて。ハヤトの「僕はとにかく新幹線が大好きなんだ!」というリミットを超えた熱が、エージェントの気持ちをも揺さぶっていく。そういったところが、『シンカリオン』をただの勧善懲悪の物語ではなく、人間ドラマとして深いものにしているので、今後もそういった展開は見どころかなと思います。また、新幹線の世界で真打ちとも言えるドクターイエローも登場して大きな反響を頂いていますが、今後もシンカリオンたちは、ますます活躍していきますので。どのような展開が待っているのか楽しみにして頂きたいですね。あと、今後も細かなコラボや仕掛けは幾つも計画中で。子供たち向けのものだけでなく、大人の皆さんにも楽しんで頂けるものもありますので、楽しみにして頂きたいです。

──最後に、渡辺さんが『シンカリオン』を通して実現したい目標や夢があれば教えて下さい。

渡辺 僕はこの企画に一番魅力を感じたのは、実在する新幹線がロボットに変形するという、「現実とファンタジーの地続き感」なので、それがもっともっと強まれば良いなと思います。例えばTBSのどこかに超進化研究所の赤坂支部があって、赤坂サカスに実物大のシンカリオンが立ってお出迎えしてくれたら楽しいなあ(笑)。一方でアニメの中に、もっと現実の場所や実在のものが出てくることにもトライしたいです。フィクションなのだけれど、視聴者の皆さんが「シンカリオンって本当にあるのかもしれない」もしくは「いつかできるのかもしれない」って錯覚してくださるように。アニメの内側と外側の両方から、そんな風に思わせられるような仕掛けがいっぱいできたら良いなと思います。
(丸本大輔)

(C)プロジェクト シンカリオン・JR-HECWK/超進化研究所・TBS (C)カラー

清洲リュウジが運転するシンカリオン ドクターイエロー。強力なバリア「ケンソクレーザーシールド」を展開し、他のシンカリオンを守ることができる