内閣府の調査によれば、日本の婚姻件数は1970~1974年の100万組超/年をピークに減り続け、2016年には過去最低の約62万組にまで減少。また婚姻率(人口1000人当たりの婚姻件数)も、同時期比で10.0から5.0へと半減している。

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 少子化・人口減少による件数減と非婚化が同時に進行している。それだけではない。結婚はしても挙式披露宴を行わない「なし婚」率も上昇し続け、厚労省の2014年データでは入籍者の約半数が「なし婚」だった。

「人口減少・非婚化・なし婚化」という三重苦の中で、ブライダル業界の長期的頽勢は如何ともなし難い。

 ところが、そういう過酷な経営環境下にあって業績を拡大し続けている企業がある。ゲストハウスウェディングの大手ノバレーゼ(東京都中央区)である。

 ノバレーゼは、資本金1億円、従業員数1966人(連結、パート・アルバイト含む)で、平均年齢は32.1歳。国内各地に婚礼施設30、ドレスショップ19、レストラン5(他に海外1)を展開し、売上高は1635600万円。2018年3月には対前年比1000組増の披露宴受注4000組を突破するなど躍進を続けている。

 2代目社長・荻野洋基氏(39)の「業績向上のカギは、女性が働きやすい環境を整えることです」との明言を踏まえ、前編では、同社における「女性の働きやすさの追求が、男性を含めた社員満足につながっている」ことを確認した。

 そこで後編では、ノバレーゼでは、具体的にどのような顧客価値を創造するのか、そして、担い手となるスタッフはどのような人々なのかを見てみたい。

(前編)「ブライダル業界の経営陣は早期引退が望ましい理由」
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54349

顧客の期待を超えるサービスを提供し続ける

 日本人の平均初婚年齢は、厚生労働省によると2016年に男性31.1歳、女性29.4歳となっている。それに対してノバレーゼは、20代後半~30代の中でも、経済的に比較的ゆとりのあるアッパーミドル層を顧客ターゲットに設定している。

 そのため挙式披露宴の全国平均が350万円台(2017年)であるのに対して、ノバレーゼでは400万円ほどとなっている。

 だが、その顧客ターゲット層は社会に出てからの年数が長く、一流のサービスに触れた経験もそれなりにある。料理ひとつをとっても、食材の仕入れルート、調理方法、盛り付け、供し方などについて、詳しい知識や経験を持った人もいる。新郎新婦が披露宴に呼びたいと考えている仲間や友人たちも同様である。そうした人々に驚きや感動を与えるのは決して容易ではない。

 そこで先代(創業経営者・浅田剛治氏)のときから、「自分たちが面白いと思うことや、してもらって嬉しいことをやろう! 自分が結婚する時にはぜひノバレーゼで挙式や披露宴をしたいと社員一人ひとりが思えるような披露宴を作ろう!」を合言葉に、それが実現できるよう、社内では裁量権の委譲を進め、公序良俗に反せず顧客の求めることであれば自由にやらせるという企業文化を作ってきた。

 こんなエピソードがある。あるとき、相談に来たカップルが「披露宴で花火を打ち上げたい」と言い出した。常識的には、「花火を打ち上げるには特別な資格が必要で、予算の範囲内で専門の花火師を呼ぶことは難しい」と言って断るところだ。ところが、それを聞いた男性ウエディングプランナーは「新郎新婦にとって、一世一代の晴れ舞台なのだから」と、自ら2カ月で花火師の資格を取って、新郎新婦の夢をかなえてしまった。

 そのカップルは、あくまで1つの夢としてダメ元で言ってみたのかもしれない。しかし、ノバレーゼの担当者はそれを本当にかなえ、「まさか、そこまでしてくれるとは思わなかった」という驚きと感動を与えたのである。

「顧客の期待を超えるサービス」を実現したい、そのために新しいスキルを身につけたり、すでに持っているスキルに磨きをかけたい──そう考え実践しているスタッフが多いようだ。

戦略的副業解禁で本業のスキル向上

 そんなノバレーゼにとって好機到来と言えるのが、安倍政権下の「働き方改革」の目玉の1つ“副業解禁”のトレンドである。

 副業解禁をめぐっては、世の流れなので仕方なく導入する企業も多い。そうした企業では、「本業に差し障りがないか」などネガティブな捉え方に傾きがちで、それをどうプラスに活かしていくかという発想に欠けている。

 それに対して、荻野氏はいたってポジティブだ。「社内業務とは異なる経験が本業にプラスの影響を及ぼすことに期待しており、スタッフの可能性を開き、成長させる手段として解禁しています」。

 トップの姿勢が明快なので、社員も手を挙げやすい。すでに4件が承認されて走り出し、新たに4件の応募が加わった。当初は、料理人が料理教室を開いたり、ウエディングプランナーがフラワーアレンジメントの教室を主宰したりすることなどを想定していたが、実際はもっと多様なものとなった。

「レストランの男性スタッフがクワガタのネット通販を始めました。実家でクワガタを販売しており、それをネット通販することでマネジメントスキルを身につけたいようです。

 また、ドレスケアスタッフをしている女性が、舞台衣装の制作・メンテ・着付けの仕事を始めています。大手劇団の衣装を扱っており、毎日舞台本番があるため傷みも激しく、そのメンテナンスをすることでスキルの幅がずいぶん広がるようです。

 さらには、ドレスショップの販売スタッフで、アパレルブランドを立ち上げた入社2年目の女性もいます。自ら買い付けをして、それをネットで販売するのですが、アパレル業界の動向とか市場ニーズの変化などを体感でき、流行の最先端に触れることでそれを本業に活かすことができるようです」(荻野氏)

 まさに「戦略的副業解禁」だが、リスクもある。「こうち食堂 日日是好日」を紹介した本コラム「二足の草鞋で食堂経営、姉妹が描く『その先』とは」(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54084)で指摘したようにネガティブスピルオーバーの発生が懸念されるからだ。

 2つの異なる役割を同時にこなす場合、片方での経験や状況が他方に対して影響を及ぼすことをスピルオーバーと呼ぶ。「副業解禁」はもちろん本業への好影響というポジティブスピルオーバーを狙ったものだが、副業で始めた事業が不振に陥り負債を抱え込むようなことになれば深刻なネガティブスピルオーバーとなる。周囲が異変に気付いた時には最早取り返しのつかない状況に陥っている可能性もある。

「ですから、定期的に個人面談をして会社として副業の状況を正確に把握するよう制度化しています」と荻野氏は明言する。

「全員スーパーマン」ではなく個々を活かす

 スタッフの働きやすさ(→ 社員満足)と、スキルアップ(→ 顧客満足)をどこまでも追求するノバレーゼだが、スタッフの採用に関しても方針は明快そのものだ。

「第一印象を大事にしています。お客さん目線で“この人になら自分のウェディングプランを任せたい”と思える人かどうか見ます。スタッフ自身がハッピーでないとお客様を幸せにできませんから、愛されて育った人かどうか、自己肯定感の高い人かどうかということを見ています」

 ノバレーゼは、サービス業としては珍しくスタッフのほとんどが直接雇用である。労働力不足が今後さらに深刻化していく中で、「全員スーパーマン」となることを強いることなく、一人ひとりが自分の特性を活かして長く働き続けられる会社にしたいと荻野氏は語る。

 ユニークな経営を展開する同社の動向から目が離せない。多角化戦略、グローバル戦略、業界改革については改めてご報告したい。

◎「シリーズ『商いの原点』」の記事一覧はこちら
http://jbpress.ismedia.jp/search/author/嶋田 淑之

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ノバレーゼの荻野洋基社長(写真提供:ノバレーゼ、以下同)